今回ご紹介するのは「桐島、部活やめるってよ」(著:朝井リョウ)です。
-----内容-----
田舎の県立高校。
バレー部の頼れるキャプテン・桐島が、理由も告げずに突然部活をやめた。
そこから、周囲の高校生たちの学校生活に小さな波紋が広がっていく。
バレー部の補欠・風助、ブラスバンド部・亜矢、映画部・涼也、ソフト部・実果、野球部ユーレイ部員・宏樹。
部活も校内での立場も全く違う5人それぞれに起こった変化とは……?
瑞々しい筆致で描かれる、17歳のリアルな青春群像。
-----感想-----
私がこの作品を初めて知ったのは、映画「おおかみこどもの雨と雪」を観に新宿バルト9に行った時でした。
座席に座り、映画が始まるまでスクリーンに流れるCMや映画予告を眺めていたら、「桐島、部活やめるってよ」の予告編が流れてきました。
その時はそれほど高い関心は持たなかったのですが、原作者の朝井リョウさんが先日「何者」で第148回直木賞を受賞したことで、この作品への興味が芽生えてきました
朝井リョウさんの経歴紹介で「桐島、部活やめるってよ」が昨年映画化されたなどの話が出て、「ああ、あの時の映画予告の原作者の人かあ」といった感じでにわかに興味を持ち始めました。
23歳での直木賞受賞は史上最年少とのことで、そういったことも興味を後押ししましたね。
やがて書店に「何者」が第148回直木賞受賞作として並ぶことになったのですが、私の目はその近くにあった文庫版の「桐島、部活やめるってよ」に吸い寄せられていきました。
帯には「祝 直木賞受賞 朝井リョウのデビュー作!」とあり、そうかこれがデビュー作なのかと思い、せっかくなのでこちらを読んでみることにしました
物語は、以下の7編で構成されていました。
菊池宏樹
小泉風助
沢島亜矢
前田涼也
宮部実果
菊池宏樹
東原かすみ~14歳
田舎の県立高校を舞台に、17歳高校2年生の男女達の日常や揺れる心などの青春が描かれています
意外なことに、タイトルとは裏腹に桐島君の名前が出てきません。
読んでいくうちに分かったのですが、「桐島、部活やめるってよ」というタイトルが桐島君を巡る噂話な感じのとおり、桐島君自体は決して主役というわけではないです。
ただバレー部の頼れるキャプテンだった桐島君が部活をやめたことで、それまで保たれてきた絶妙な「バランス」が崩れ、そこから上記の色々な子達の日常にも少しずつ変化が訪れるといった感じです。
なお「東原かすみ~14歳」だけは文庫版のみでの収録となります。
ちなみに東原さんは高校2年生ではクラスの女子トップグループ四人の一人として登場します。
ブラウンのポニーテールのおしとやかな感じの子で、「クラスの冴えない男子」にして映画部の前田涼也君が「今はもう届かない存在」として密かに想いを寄せる子でもあります。
この二人はクラスが同じだった中学2年生の頃はそれなりに親密だったのですが、やがてクラスが別れそこから2年が経ち、再び同じクラスとなった高校2年生では片や「クラスの冴えない男子」、片や「クラスのトップグループ女子」で、前田君にとっては今や話しかけることさえ出来ない存在となっています。
作中で前田君は
「二年間という時を経てかすみは、きれいになっていた。17歳の美しさを全部閉じ込めたような姿になっていた」
と東原さんへの決して言葉には出せない胸中を吐露していました。
ちなみに上記の7編に名前の出ている人の中では宮部実果さんも女子トップグループ四人の一人、菊池宏樹君はクラスのトップグループ男子の一人、沢島亜矢さんも同じクラスでこちらは涼しい感じのブラスバンド部の部長、小泉風助君は違うクラスですが桐島君と同じバレー部、そしてポジションも同じ「リベロ」で、今までは桐島君の存在によって試合でも「控え」でいることがほとんどでした。
しかし桐島君が突然部活をやめたことで、小泉君がリベロのポジションで試合に出ることになります。
今までベンチから桐島君のプレイを見ていた時は、「俺ならあとワンテンポ早く動ける、俺ならあのボールに反応出来る」などと思っていたのに、いざ試合に出てみると体が硬くなってしまって全然普段のように動けない、その現実に焦ります。
ブラスバンド部の部長、沢島亜矢さんは、菊池宏樹君と同じくクラスのトップグループ男子の一人である「竜汰」に密かに想いを寄せています。
その竜汰は、いつも放課後になると菊池宏樹君達とともにグラウンドでバスケをしていて、沢島亜矢さんはブラスバンド部での練習中、窓辺で演奏しながらその様子を見ています
ところがある日、その恒例の「放課後バスケ」がパタリと止んでしまいます。
「あれ?」と思う沢島さんと、その動揺を敏感に察知していた同じ部員の「詩織」。
部活後に二人並んで帰っていた時、詩織がくるりと振り向いて
「バスケ、しとらんかったね、今日」
と沢島さんの心の内を見抜いていたずらっぽく言う場面など、「うわー、青春だなー」と思いました
「やっぱりこいつ、なんも考えてないみたいだけど、全部見抜いてるんだな」と沢島さんは胸中で感心していました。
ちなみに竜汰達が「放課後バスケ」をしていたのは桐島君の部活が終わるのを待っていたからで、その桐島君が部活をやめた今、自動的に「放課後バスケ」もしなくなったというわけです。
ここでもやはり、「桐島君」が関わってくるんですよね。
こんな感じで、「桐島君」がバレーボール部を突然やめたことで、少しずつ変わっていく登場人物たちの日常。
17歳、何にでもなれるような気がするし、でもまだ何も手にしていない子達の、瑞々しい青春グラフィティ小説でした
もちろん登場人物達には色々な葛藤もあって、そこはどこか綿矢りささんの「蹴りたい背中」(第130回芥川賞受賞作)を思わせるものがありました。
「蹴りたい背中」も高校が舞台で、初めて読んだ時私はまだ10代でした。
年が近いこともあってあれを読んだ時の衝撃は半端ではなく、リアルな高校生の心情描写にものすごくドキドキしたし、心がグラグラと揺さぶられました。
綿矢りささんが「蹴りたい背中」を書いたのが19歳、朝井リョウさんが「桐島、部活やめるってよ」を書いたのも19歳で、やはりいつの時代も高校生の青春や揺れる心の内を描き出す若き天才作家が現れるのだなと思います。
この作品もぜひ若い人に読んでほしいと思う作品です
※図書レビュー館を見る方はこちらをどうぞ。
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-----内容-----
田舎の県立高校。
バレー部の頼れるキャプテン・桐島が、理由も告げずに突然部活をやめた。
そこから、周囲の高校生たちの学校生活に小さな波紋が広がっていく。
バレー部の補欠・風助、ブラスバンド部・亜矢、映画部・涼也、ソフト部・実果、野球部ユーレイ部員・宏樹。
部活も校内での立場も全く違う5人それぞれに起こった変化とは……?
瑞々しい筆致で描かれる、17歳のリアルな青春群像。
-----感想-----
私がこの作品を初めて知ったのは、映画「おおかみこどもの雨と雪」を観に新宿バルト9に行った時でした。
座席に座り、映画が始まるまでスクリーンに流れるCMや映画予告を眺めていたら、「桐島、部活やめるってよ」の予告編が流れてきました。
その時はそれほど高い関心は持たなかったのですが、原作者の朝井リョウさんが先日「何者」で第148回直木賞を受賞したことで、この作品への興味が芽生えてきました
朝井リョウさんの経歴紹介で「桐島、部活やめるってよ」が昨年映画化されたなどの話が出て、「ああ、あの時の映画予告の原作者の人かあ」といった感じでにわかに興味を持ち始めました。
23歳での直木賞受賞は史上最年少とのことで、そういったことも興味を後押ししましたね。
やがて書店に「何者」が第148回直木賞受賞作として並ぶことになったのですが、私の目はその近くにあった文庫版の「桐島、部活やめるってよ」に吸い寄せられていきました。
帯には「祝 直木賞受賞 朝井リョウのデビュー作!」とあり、そうかこれがデビュー作なのかと思い、せっかくなのでこちらを読んでみることにしました
物語は、以下の7編で構成されていました。
菊池宏樹
小泉風助
沢島亜矢
前田涼也
宮部実果
菊池宏樹
東原かすみ~14歳
田舎の県立高校を舞台に、17歳高校2年生の男女達の日常や揺れる心などの青春が描かれています
意外なことに、タイトルとは裏腹に桐島君の名前が出てきません。
読んでいくうちに分かったのですが、「桐島、部活やめるってよ」というタイトルが桐島君を巡る噂話な感じのとおり、桐島君自体は決して主役というわけではないです。
ただバレー部の頼れるキャプテンだった桐島君が部活をやめたことで、それまで保たれてきた絶妙な「バランス」が崩れ、そこから上記の色々な子達の日常にも少しずつ変化が訪れるといった感じです。
なお「東原かすみ~14歳」だけは文庫版のみでの収録となります。
ちなみに東原さんは高校2年生ではクラスの女子トップグループ四人の一人として登場します。
ブラウンのポニーテールのおしとやかな感じの子で、「クラスの冴えない男子」にして映画部の前田涼也君が「今はもう届かない存在」として密かに想いを寄せる子でもあります。
この二人はクラスが同じだった中学2年生の頃はそれなりに親密だったのですが、やがてクラスが別れそこから2年が経ち、再び同じクラスとなった高校2年生では片や「クラスの冴えない男子」、片や「クラスのトップグループ女子」で、前田君にとっては今や話しかけることさえ出来ない存在となっています。
作中で前田君は
「二年間という時を経てかすみは、きれいになっていた。17歳の美しさを全部閉じ込めたような姿になっていた」
と東原さんへの決して言葉には出せない胸中を吐露していました。
ちなみに上記の7編に名前の出ている人の中では宮部実果さんも女子トップグループ四人の一人、菊池宏樹君はクラスのトップグループ男子の一人、沢島亜矢さんも同じクラスでこちらは涼しい感じのブラスバンド部の部長、小泉風助君は違うクラスですが桐島君と同じバレー部、そしてポジションも同じ「リベロ」で、今までは桐島君の存在によって試合でも「控え」でいることがほとんどでした。
しかし桐島君が突然部活をやめたことで、小泉君がリベロのポジションで試合に出ることになります。
今までベンチから桐島君のプレイを見ていた時は、「俺ならあとワンテンポ早く動ける、俺ならあのボールに反応出来る」などと思っていたのに、いざ試合に出てみると体が硬くなってしまって全然普段のように動けない、その現実に焦ります。
ブラスバンド部の部長、沢島亜矢さんは、菊池宏樹君と同じくクラスのトップグループ男子の一人である「竜汰」に密かに想いを寄せています。
その竜汰は、いつも放課後になると菊池宏樹君達とともにグラウンドでバスケをしていて、沢島亜矢さんはブラスバンド部での練習中、窓辺で演奏しながらその様子を見ています
ところがある日、その恒例の「放課後バスケ」がパタリと止んでしまいます。
「あれ?」と思う沢島さんと、その動揺を敏感に察知していた同じ部員の「詩織」。
部活後に二人並んで帰っていた時、詩織がくるりと振り向いて
「バスケ、しとらんかったね、今日」
と沢島さんの心の内を見抜いていたずらっぽく言う場面など、「うわー、青春だなー」と思いました
「やっぱりこいつ、なんも考えてないみたいだけど、全部見抜いてるんだな」と沢島さんは胸中で感心していました。
ちなみに竜汰達が「放課後バスケ」をしていたのは桐島君の部活が終わるのを待っていたからで、その桐島君が部活をやめた今、自動的に「放課後バスケ」もしなくなったというわけです。
ここでもやはり、「桐島君」が関わってくるんですよね。
こんな感じで、「桐島君」がバレーボール部を突然やめたことで、少しずつ変わっていく登場人物たちの日常。
17歳、何にでもなれるような気がするし、でもまだ何も手にしていない子達の、瑞々しい青春グラフィティ小説でした
もちろん登場人物達には色々な葛藤もあって、そこはどこか綿矢りささんの「蹴りたい背中」(第130回芥川賞受賞作)を思わせるものがありました。
「蹴りたい背中」も高校が舞台で、初めて読んだ時私はまだ10代でした。
年が近いこともあってあれを読んだ時の衝撃は半端ではなく、リアルな高校生の心情描写にものすごくドキドキしたし、心がグラグラと揺さぶられました。
綿矢りささんが「蹴りたい背中」を書いたのが19歳、朝井リョウさんが「桐島、部活やめるってよ」を書いたのも19歳で、やはりいつの時代も高校生の青春や揺れる心の内を描き出す若き天才作家が現れるのだなと思います。
この作品もぜひ若い人に読んでほしいと思う作品です
※図書レビュー館を見る方はこちらをどうぞ。
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