読書日和

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「ビブリア古書堂の事件手帖5 ~栞子さんと繋がりの時~」三上延

2014-06-22 23:55:27 | 小説
今回ご紹介するのは「ビブリア古書堂の事件手帖5 ~栞子さんと繋がりの時~」(著:三上延)です。

-----内容-----
静かにあたためてきた想い。
無骨な青年店員の告白は美しき女店主との関係に波紋を投じる。
彼女の答えは――今はただ待ってほしい、だった。
ぎこちない二人を結びつけたのは、またしても古書だった。
謎めいたいわくに秘められていたのは、過去と今、人と人、思わぬ繋がり。
脆いようで強固な人の想いに触れ、何かが変わる気がした。
だが、それを試すかのように、彼女の母が現れる。
邂逅は必然――彼女は母を待っていたのか?
すべての答えが出る時が迫っていた。

-----感想-----
横須賀線北鎌倉駅の脇にあるビブリア古書堂。
ここを舞台にした古書ミステリーのシリーズ第5弾です。

今作の時系列は東日本大震災から2ヶ月前後の、2011年4月~2011年5月でした。
前作の「ビブリア古書堂の事件手帖4 ~栞子さんと二つの顔~」が終わってからすぐ後となります。

ビブリア古書堂は篠川栞子が店主をしていて、妹の文香と二人で暮らしています。
文香は高校三年生になりました。
そしてビブリア古書堂でアルバイトをしているのが五浦大輔です。
今作では冒頭から大輔と栞子の恋愛模様に焦点が当てられていました。
大輔は前作で栞子に告白をしています。
その返事を栞子から貰おうとしているのですが、待ってくれと言われ、なかなか返事が貰えません。
返事が貰えないまま、物語は進んでいきました。

彼女は古書店主の他にもう一つの顔を持っている。とてつもない量の読書から得た膨大な知識を活かして、古書をめぐる謎を解決する――俺はその手伝いのような役回りだ。
上記は五浦大輔による篠川栞子の描写です。
とてつもない量の読書というのが本当に凄くて、何か本の名前を出せば即座にその本の内容や著者にまつわる答えが返ってくるほどの驚異的な知識です。

しかしその栞子をさらに上回る圧倒的な古書の知識、頭の切れを持つ人物がいて、それが栞子の母、篠川智恵子です。
10年前に突如栞子たち家族の前から姿を消し、全く行方が分からなくなっていました。
その智恵子がついに栞子の前に姿を現したのが前作の「ビブリア古書堂の事件手帖4 ~栞子さんと二つの顔~」でした。
智恵子の古書へのあくなき探究心は普通ではない狂気じみたものがあり、希少価値の高い古書を追うために夫、栞子、文香の家族を捨てて10年もの間追い求めていたほどです。
家族よりも古書を優先する智恵子のことを当然栞子は快く思っていないし、憤りを感じています。
しかし栞子にもどこか母と似た危ういところがあって、いつか自分も母みたいに近しい人を捨ててまで古書を追い求めるようになってしまうのではと恐れてもいます。
今作でもそんな場面がありました。

古書についての会話で出てきた「黒っぽい本」、「白っぽい本」というのは印象的でした。
黒っぽい本というのは長い年月を経た古書や専門書を指すようです。
そしてここ何年かで刊行された新しい本は「白っぽい本」とのこと。

今作の第一話に出てきた女性が言っていた「主人は休日になると神保町へ出かけていって、どっさり本を抱えて戻ってきたわ」も印象的でした。
あの街はまさしく「古書の街」ですからね。
※世界最大規模の古書店街、神田神保町のフォトチャンネルをご覧になる方はこちらをどうぞ。

同じく第一話において、栞子は以下のことを語っていました。
「事情があって逃げてしまった人間が、辿り着いた先で静かに暮らしたいと願う……それは分からなくもありません。でも、誰かが逃げ出した後には、取り残される人間もいます……そういう人間にも、抱えている思いがあります」
これも印象的な言葉で、急にいなくなった母親に取り残された自分のことを思い出してもいるようでした。

第二話は手塚治虫の「ブラック・ジャック」を巡る話なのですが、ここでも印象に残る言葉がありました。
なんの問題も抱えず、苦労もせずに活躍し続けるクリエイターなんているはずがない。時代は変化するし、どんな天才でもスランプはあるだろう。
手塚治虫に人気の浮き沈みがあったという話の中で出てきた言葉です。
これはそのとおりだと思いますし、手塚治虫のような偉大な人であってもそういう時があったということです。

ビブリア古書堂の事件手帖のシリーズも後半に入っているため、段々とぞっとするような言葉も出てきます。
本というのは持ち主の頭の延長みたいなものだ。他人の頭の中身を知りすぎると、そのうちおかしくなっていく気がする。突然家族も仕事も捨てて、どこかへ行ってしまった人のように。
私はかつて「ビブリア古書堂の事件手帖 ~栞子さんと奇妙な客人たち~」のレビューを書いた時に「あまりにも希少価値の高い古書は時として人を狂気にしてしまうんだなと思った」と書きましたが、このシリーズ第5巻では再びこの言葉を思い出しました。

「あなたはどうかしら、栞子。一冊でも多く読みたい、より多く、より深い知識を手に入れたい、そういう欲求を持っていないと言いきれるの?」
「人の感じること、思うことはすべて、読むものでしかないのよ」
「人と深く交わらなくても、人の心を知る力がわたしたちには備わっている」
いずれも篠川智恵子の言葉です。
”人の心を知る力”が印象的で、智恵子には相手の目や言葉から胸中を瞬時に見抜くほどの洞察力があります。
持っている本の傾向を見ただけでその人物の人となり、さらには心境まで見抜いたりもします。
たしかに智恵子であればわざわざその人物と深く関わらなくても色々なことを知ることが出来ると思います。
そして智恵子ほどではないにしても、その力は栞子にもあります。
母を嫌ってはいてもよく似たところのある二人なのです。
智恵子は栞子を極めて希少価値の高い古書を追い求めるパートナーにしようとしていて、今作では常に智恵子の影がちらついているような感じでした。

そして、シリーズ第一巻の「あまりにも希少価値の高い古書は時として人を狂気にしてしまう」の人物がまた、動き出そうとしています。
今作の終わり方を見ても、またしても狂気に走るようにしか見えなく、次作は波乱の展開になるのだろうなと思います。
智恵子の動きともども、次作を楽しみに待っていたいと思います


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