読書日和

お気に入りの小説やマンガをご紹介。
好きな小説は青春もの。
日々のできごとやフォトギャラリーなどもお届けします。

「でーれーガールズ」原田マハ

2014-11-19 23:06:22 | 小説
今回ご紹介するのは「でーれーガールズ」(著:原田マハ)です。

-----内容-----
1980年、岡山。
佐々岡鮎子は東京から引っ越してきたばかり。
無理に「でーれー(すごい)」と方言を連発して同じクラスの武美に馬鹿にされていた。
ところが、恋人との恋愛を自ら描いた漫画を偶然、武美に読まれたことから、二人は急速に仲良しに。
漫画に夢中になる武美に鮎子はどうしても言えないことがあって……。
大切な友だちに会いたくなる、感涙の青春小説。

-----感想-----
原田マハさんの小説は「旅屋おかえり」で初めて読み、良い物語を書く人だなと思いました。
「でーれーガールズ」は書店で見かけて「映画化決定、80年代がよみがえる青春小説」とあり、興味を持って読んでみようと思いました。

物語の主人公は佐々岡鮎子、45歳。
小日向アユコというペンネームで活動している人気の漫画家です。
物語は鮎子の母校である岡山白鷺女子高等学校で国語教師を務めている荻原一子という人からの手紙で始まります。
それによると、岡山白鷺女子高等学校が創立120周年の節目を迎えること、荻原一子は創立120周年記念事業実行委員会の実行委員をしていること、そして創立記念事業の一環として佐々岡鮎子に記念講演をしてほしいということがしたためられていました。
最初は断ろうかと思った鮎子ですが、手紙の追伸に『アユたんのデビュー作「でーれーガールズ」が、私の人生最良の作品です。』とあり、ぐっときた鮎子。
鮎子は老舗の少女マンガ誌「別冊お花畑」(通称ベッパナ)に短大二年生の20歳の時にデビューしていました。
デビュー当時のニックネームは「アユたん」でした。
その時のデビュー作が「でーれーガールズ」という乙女チックなラブストーリーで、荻原一子はその頃のことを知っているようでした。
さらに時を同じくして「あゆがシラサギの創立記念講演会をやるなら」と、高校卒業以来27年ぶりに同窓会が開催されることになり、いよいよ岡山に行かないといけないかという状況になっていました。
同級生だった篠山みずのからの手紙に同窓会のことが書かれていて、その手紙の追伸に興味深いことが書かれていました。

追伸
広島に転校してしまった武美、覚えとる?
同窓会には、彼女も来る予定です。

秋本武美は転校してしまった友達です。
鮎子がシラサギに入学した当初、率先して鮎子をからかっていたちょっとワルそうな子です。
二人とも白鷺女子高進学クラス「Z組」という国立大学や有名私立大学への進学のために設けられた特別クラスにいました。
東京から来た鮎子に対し、「佐々岡さんってお上品すぎるんじゃが。でーれーとっつきにくいんじゃ」とつっかかっていました。
「でーれー」とは「ものすごい」というような意味の岡山弁です。
岡山弁の特徴については序盤で触れられていて、『幼稚園児が話しても「わし、アイスが食べてえんじゃ」って感じでもともとジイさん言葉なのが岡山弁の特徴』とのことです。
一人称が「ワシ」なのは広島弁と同じだなと思いました。

鮎子は同窓会に参加。
27年ぶりの同窓会は岡山駅前にあるホテルのレストランで開かれました。
同窓会の手紙を送ってきた篠山みずのなど懐かしい旧友たちに再会します。
秋本武美とも再会しました。
その後、武美とたくさん積もる話をして、二人の思い出の高校時代の回想が始まります。
現在と高校時代を交互に繰り返しながら物語は進んでいきました。

作中に何度か出てきた「大手まんじゅう」は実在する岡山銘菓で、かなり有名な饅頭のようです。
日本三大饅頭の一つとあって驚きました。
同じく何度か出てきた「白十字(はくじゅうじ)」という老舗洋菓子店のチーズケーキも興味を持ちました。今では珍しくなくなったチーズケーキですが、このお店は鮎子たちが高校生の頃既に販売していたとのことです。

二人の話には「ヒデホ」という鮎子の恋人だった男の名前がよく出てきます。
しかし恋人のヒデホは鮎子が作った架空の人物で、現実には存在しません。

あのひとは、孤独な私がノートに描き続けた、マンガの主人公。

このマンガをある時武美に見られてしまったことから、二人は仲良くなっていきました。
武美にはヒデホのことを少しずつ話すようになっていって、ノートに描いたマンガも続きをどんどん見せていました。
そして武美は次第にそのマンガの物語に引き込まれていって、やがて見たこともないヒデホ君に恋をしてしまいました。
鮎子のほうは、「ヒデホは現実には存在しない」という真実を武美に打ち明けることができず、封印することにしました。
この物語は架空のヒデホ君を巡る鮎子と武美の物語です。

そう。あの頃、私たちは誰もが光の中にいた。
おかしなものだ。光の中にいるときには、光を意識することなんてめったにない。
そのくせ、その場所から一歩踏み出すと、どんなにまぶしい光のさなかにいたのか、初めてわかるのだから。


この「光の中」とは高校の青春時代のことです。
たしかに高校時代を振り返ってみると、光の中にいたのだなと思います。
教室のワイワイガヤガヤとした雰囲気や友達との何気ない会話、弓道の部活動に明け暮れた日々が懐かしいです。

物語は以下の七話で構成されています。

#1 鮎子の恋人
#2 欄干ノート
#3 時間よ止まれ
#4 ジョージのブローチ
#5 聖夜
#6 リボンの白
最終話 友だちの名前

各章ごとに高校時代の振り返りがあります。
第三話の「時間よ止まれ」に「どんきほーて」という名前の喫茶店が出てくるのですが、ここでのエピソードは面白かったです。
同級生の篠山みずのが山岡高という「このへんでいちばんワルいと噂の男子高」の不良学生たちに囲まれていて、武美がみずのを助けるために突撃していきました。
その不良学生たちの追い払い方が面白かったです。

岡山は「晴れの国おかやま」というキャッチフレーズがあるくらい、年間の晴天率が高いとのです。
晴れの日が多いのは良いなと思います。

「どんきほーて」に置いてある「どんき自由ノート」への書き込みは横浜山手でのことを思い出しました。
横浜山手で西洋館巡りをした時に、自由に書き込めるノートの置いてある建物がありました。
この物語で「どんき自由ノート」に色々書いているのを見たら私もあの西洋館へ行ってノートに書き込みたいなと思いました。

鮎子はヒデホという架空の存在ではなく、鈴木淳という現実の高校生と一時期仲良くなっていました。
その話が第四話「ジョージのブローチ」と第五話「聖夜」に出てきます。
良い感じで付き合っていくのかと思いきや、驚きの展開が待っていました。

ちなみに鮎子と武美はお互いにとって一番の親友になりましたが、時に喧嘩をすることもあります。
二人の喧嘩のシーンは胸が痛みました。

鮎子の心境吐露に興味深いものがありました。
揺れる思いを、私は私は誰かに打ち明けて支えてもらいたかった。
正確にいえば、誰か、じゃなくて、武美に。


思っていることや悩んでいることを誰かに打ち明けるのはすごく勇気がいることですが、同時にすごく良いことだと思います。
話すことで重くなっていた気持ちが軽くなるかも知れませんし、自分自身の気持ちを整理することにもつながります。
そしてそんな大事なことを話すなら信頼している人が良いですし、鮎子にとって武美はそういう存在だということです。

私たちは、いまを生きて、あたりまえに年を取って、成長して、大人になっていかなくちゃだめなんだ。そう気がついたのは、いつだっただろう。
これも印象的な言葉でした。
自分自身と向き合っているなという気がしました。

第六話「リボンの白」の最後で衝撃的な展開があって、最終話「友だちの名前」へと入っていきます。
最終話はちょっと霊的な展開になっていました。
現在の鮎子が出会った、友だちと喧嘩をしてひとりぼっちで橋の真ん中に佇む少女の正体が明らかになって切なかったです。

橋の上にはいいにおいの風が吹いていた。咲きこぼれるジンチョウゲの花、のどかな日差しに温んだ川面。春のかけらの匂いが風に乗って漂っていた。
この文章はかなり良いなと思いました。
武美が引っ越す直前の春にピタリと合った文章で、人が去る時の雰囲気が見事に表現された良い文章だと思います。
原田マハさんの感性の綺麗さを感じました。

鶴見橋の、あっちとこっち。それが、三十年まえ、武美と私がそれぞれに歩んでいった道だった。

それから三十年を経て二人は再会することができました。
それだけ時間が経っていても昔のように楽しく話せた二人の関係、良いなと思います。
これこそ親友だと思いました。


※図書レビュー館を見る方はこちらをどうぞ。

※図書ランキングはこちらをどうぞ。