読書日和

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「午前0時のラジオ局」村山仁志

2014-11-22 23:34:07 | 小説
今回ご紹介するのは「午前0時のラジオ局」(著:村山仁志)です。

-----内容-----
地方局の新米アナウンサー・鴨川優は、テレビからラジオに異動となり、憂鬱な気分を抱えていた。
妙に陽気なディレクターの蓮池陽一から、午前0時に始まる新番組の司会に抜擢されるが、その準備中のある夜、突然の豪雨で孤立した村に災害情報を流す大役を担うことに。
さらには陽一のとんでもない秘密が発覚し……。
ラジオ局で働く人々の奮闘を現役アナウンサーが描く、少し不思議で心温まる物語。
文庫書き下ろし。

-----感想-----
主人公は鴨川優。
優が勤務するローカル放送局はラジオとテレビの兼営局、いわゆるラテ局と呼ばれるものです。
ラジオ局のほうは放送設備の都合で本社から離れた丘の上にあります。
冒頭、時期は3月の半ばでラジオ局に来るのは新人研修以来ほぼ一年ぶりとありました。
4月から「ラジオ局勤務」の辞令が出されたため、異動前の挨拶をしに来ていました。

現在の社内におけるラジオ局の位置づけは、限りなく「独立ラジオ局」「他局」に近く……ラジオというメディアについては「オワコン」、終わったコンテンツと言ってはばからない、口の悪い社員すら存在した。

この「ラジオはオワコン」には違和感を持ちました。
実のところテレビのほうもオワコン(終わったコンテンツ、既に斜陽状態で往年の力はないという意味です)なのでは。
この辺りは作者がテレビ、ラジオのアナウンサーということで、既存マスコミの斜陽状態への認識が乏しい気がしました。

ラジオ局には蓮池陽一というディレクターがいます。。
20代後半くらいで、明るい茶色の瞳でやや長い髪が軽くカールした、少女マンガにそのまま登場できそうなルックスの男です。
この蓮池陽一の正体が謎でした。
ラジオ局長によると「彼はまあ、言ってみれば幽霊社員だな。いつ出てくるか分からない」とのことで、それまでの様子を見ても本当に幽霊の可能性が高く、正体が気になるところでした。

優は高校球児だったのですが、本人はその過去に負い目があるようです。
高校の野球で何があったのか、気になるところでした。

優が担当することになった春の新番組は「ミッドナイト☆レディオステーション」と言います。
月曜から金曜まで帯の深夜バラエティで、スタート時間は午前零時です。
先輩アナウンサーの海野あおいも手伝いに来てこの番組のアシスタント・オーディションを行ったりもしました。

海野あおいの以下の言葉は印象的でした。

「真夜中って時間帯はね……普段は心の奥深くに隠れているものがひょっこり顔を出しちゃう、そんな不思議な力があるの。春から鴨川クンが担当する番組も、きっと色んなリスナーの恋や夢や希望や、反対にドロドロした欲望とか悲しさとか悔しさとか、色んなリスナーのナマの想いが届く番組になるわね」

また、陽一が「ラジオは心のライフライン」と言っていて、なるほどなと思いました。
たしかに災害の時などは携帯型のラジオがあると頼りになると思います。

ひょんなことから、新番組のアシスタントは山野佳澄という少女に決定。
優と二人で真夜中の放送に臨んでいくことになります。

蓮池陽一本人が
「このラジオ局では時々、物理的法則を超えた出来事が起こるな。ま、その最たる存在がぼくなんだけど」
と言っていて、同氏が幽霊であるのはいよいよ確定的になりました。
このラジオ局では幽霊がディレクターをやっているというわけです。

優の前に沢田コウという、高校時代の野球部のチームメイトが登場。
沢田は既に死んでいて、幽霊として優の前に現れました。
優がなぜ高校球児だった過去に負い目があるのか、ここで明らかになりました。

ラジオの本番中に天井に青い光が見え、ラジオを聞いていた幽霊から番組にファックスが送られてくることがあります。
これも陽一が言っていた「このラジオ局では時々、物理的法則を超えた出来事が起こるな」な現象です。
また、章ごとにそれぞれ霊的なエピソードがあるのもこの作品の特徴です。
物語は

第一話 洋館ラジオ局
第二話 最後の一球
第三話 月夜の夢
第四話 プレイボール
第五話 光のフルート
第六話 いつまでも君に
エピローグ

で構成されているのですが、そのどれもに霊的な要素がありました。

最後の章では陽一の死についてのことが書かれていました。
なぜ陽一が幽霊なのにラジオのディレクターをしているかの理由も明らかになります。
その最後の章で、陽一が不気味なことを言っていました。

「きみたち、知ってるかい?夕方はね、『逢う魔が時』ともいうのさ……昼と夜の境目は、幽霊や妖怪に会いやすい時間帯だ。霊媒体質の人間は、一応気をつけた方がいい」
「もひとつ。黄昏時は、『誰彼時』とも書くよ。誰、彼、時、だ。薄暗いせいで、彼が誰だか、誰だか彼だか、分からないってことさ……」


物語全体を通して霊的な要素が多かったです。
ただし怖くはなく、心の温まる話でした。
そしてサクサク読めるのはこの作品の良いところだと思います。
文章表現力や物語構成は私の好きな作家さん達に比べるとだいぶ及ばないのですが、読みやすいというのは大事なことです。
サクサク読める作品を探している人には良い一冊になるのではと思います。


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