今回ご紹介するのは「ジェノサイド 上」(著:高野和明)です。
-----内容-----
イラクで戦うアメリカ人傭兵と、日本で薬学を専攻する大学院生。
まったく無関係だった二人の運命が交錯する時、全世界を舞台にした大冒険の幕が開く。
アメリカの情報機関が察知した人類絶滅の危機とは何か。
そして合衆国大統領が発動させた機密作戦の行方は―
人類の未来を賭けた戦いを、緻密なリアリティと圧倒的なスケールで描き切り、その衝撃的なストーリーで出版界を震撼させた超弩級エンタテインメント、堂々の文庫化!
-----感想-----
「このミステリーがすごい!2012年版」第1位に輝いたこの作品。
冒頭、アメリカ合衆国大統領グレゴリー・S・バーンズが起床するところから物語は始まります。
ホワイトハウスでは毎朝、大統領、副大統領、大統領首席補佐官、国家安全保障問題担当大統領補佐官、国家情報長官、中央情報局(CIA)長官らが集まり、大統領日例報告というミーティングが行われています。
その大統領日例報告では過去24時間にアメリカの全情報機関が集めた重要情報の要約「大統領日報」が大統領に提出されます。
いつもどおり大統領日報に目を通していたグレゴリー・S・バーンズは、最後のページに書かれていた情報の見出しを見て意表を突かれます。
人類絶滅の可能性
アフリカに新種の生物出現
「何だ、これは?ハリウッド映画の要約か?」と軽口を叩くバーンズですが、意外にも出席者達はこの情報に真剣な戸惑いを浮かべています。
大統領日報の本文には次のように書かれていました。
コンゴ民主共和国東部の熱帯雨林に新種の生物が出現。この生物が繁殖した場合、合衆国にとって国家安全保障上の重大な脅威となるだけでなく、全人類が絶滅の危機にさらされる可能性がある。尚、この事態は、1975年に提出されたシュナイダー研究所の報告書"ハイズマン・レポート"によって、すでに警告されていた―
ここで初めて名前の登場したハイズマン・レポートは「ジェノサイド 上」で「第一部 ハイズマン・レポート」が終わるまで大きな謎として存在することになります。
人類絶滅の可能性を記したこの報告書にどんなことが書かれていたのか気になるところでした。
「ジェノサイド 上」は
プロローグ
第一部 ハイズマン・レポート
第二部 ネメシス
で構成されています。
プロローグが終わるとイラクで民間軍事会社に務めて要人警護をしているジョナサン・”ホーク”・イエーガーの物語が始まりました。
ホークはコールネームです。
いきなりイエーガーが狙撃手として乗り込んでいる装甲車両に対し自爆テロを狙う車が突っ込んで来ようとして緊迫した場面になりました。
イラク戦争後の混沌が舞台となっています。
イエーガーには妻のリディアと息子のジャスティンがいます。
息子のジャスティンは肺胞上皮細胞硬化症という重病にかかっています。
肺の細胞が動かないため上手く呼吸ができず、平均年齢6歳で死に至る不治の病です。
ジャスティンはこの病気の末期を迎えていて、余命は1ヶ月ほどしかありません。
イラクの現地任務では3ヶ月勤務の後に1ヶ月休暇という形態を採っていて、イエーガーはこれから1ヶ月の休暇に入る予定でした。
ポルトガルのリスボンで肺胞上皮細胞硬化症と戦う息子と付き添っている妻のところに行くためです。
リスボンには肺胞上皮細胞硬化症の世界的権威で世界最先端の研究を進めているガラード博士がいます。
そんな時、イエーガーは勤めている民間軍事会社「ウエスタン・シールド社」の取締役、ウイリアム・ライベンから「あとひと月ほど、仕事をしてもらえないだろうか」と依頼されます。
ウイリアム・ライベンは現段階では仕事の具体的内容は明かせないとしながらも、「人類全体に奉仕する仕事だ」と興味深いことを言っていました。
仕事の報酬は高く、ジャスティンの病気の治療費に毎月大きな額がかかることもあり、イエーガーはこの仕事を引き受けることになります。
アメリカ合衆国大統領グレゴリー・S・バーンズ、イラクで働く民間軍事会社の傭兵ジョナサン・イエーガーに続き、古賀研人という日本人の物語が始まります。
。
神奈川県厚木市で行われた父の葬儀から物語は始まります。
大学教授だった父の誠治は胸部大動脈瘤の破裂で急死してしまいました。
葬儀での火葬の際に研人が待合室で座っていると、菅井という新聞記者が話しかけてきました。
「研人君は、『ハイズマン・レポート』というのを聞いたことがあるかい?」
「『ハイズマン・レポート』ですか?」「いいえ、聞いたことはないです」
「そうか。お父さんから調べるように頼まれていたんで、どうしようかと思ってね」
「何ですか、その『ハイズマン・レポート』って?」
「今から三十年前に、アメリカのシンクタンクが大統領に提出した報告書だよ。お父さんは詳しい内容を知りたがっていた」
ここでもハイズマン・レポートが出てきました。
しかも研人の父がその内容を知りたがっていたとのことで、益々このレポートのことが気になりました。
研人は東京文理大学の薬学部の大学院修士課程二年で、創薬科学を専攻しています。
研人が所属する園田研究室は園田教授以下20名の研究者を抱え、自己免疫疾患の治療薬開発を目指しています。
「有機合成」という手法について書かれていたのですが、化学の知識を駆使して行う創薬はかなり大変そうでした。
自分の机でメールのチェックをしていた研人は、奇妙なメールが来ているのに気付きます。
送信者名が既に亡くなっているはずの父、古賀誠治なのです。
メールは誠治が5日以上、研人や母の前から姿を消した場合を想定していて、「もし自分が帰らなかった場合、アイスキャンディで汚した本を開け。そしてメールのことは母も含めて誰にも言わないように」とありました。
どうやら父は自分の身に危険が迫っているのを察知していたようで、息子の研人に後を託そうとしていました。
以降グレゴリー・S・バーンズ、ジョナサン・イエーガー、古賀研人、この三つの物語が展開されていきます。
「人類全体に奉仕する」という謎の仕事を引き受けることにしたイエーガーは共に任務を遂行することになる三人の仲間と出会います。
スコット・”ブランケット”・マイヤーズ、ウォーレン・ギャレット、ミキヒコ・カシワバラの三人で、ミキヒコは日本人です。
四人が投入されるのはコンゴ民主共和国。
コンゴ民主共和国は現在「第一次アフリカ大戦」と呼ばれる大戦争が進行中で、大量殺戮(ジェノサイド)が起こっています。
ここで初めて小説タイトルにもなっているジェノサイドという言葉が出てきました。
研人が父のメールのとおりアイスキャンディで汚した本を開くと新たな指示が書かれていて、「今後、お前が使用する電話、携帯電話、電子メール、ファクシミリなどのあらゆる通信手段は、盗聴されているものと思え」とありました。
誠治は一体どんな勢力を警戒していたのか興味深いところでした。
誠治の新たな指示によって東京の町田にある古びたアパートに行った研人は部屋の中にある実験設備に驚きます。
そこは研人の専門分野である有機合成を行う実験室になっていました。
部屋にあったメッセージには「私は訳あって個人的な研究を抱えていて、私が姿を消している間、その研究をお前に引き継いでもらいたい」とありました。
その研究とは、『変異型GPR769のアゴニストをデザインし、合成する』というものです。
『変異型GPR769』はこの物語に何度も出てくることになります。
アゴニストとは受容体に結びつき細胞を活性化させる薬物のことで、誠治は変異型GPR769を活性化させる薬物を作ろうとしていました。
バーンズが新種の生物について「特別アクセス計画」という極秘の作戦を進める中、中央情報局(CIA)長官のホランドは懸念を抱いていました。
現政権は、脅威を過小評価しているのではないか。大統領日報に記載されていた新種の生物が本当に出現したのなら、アメリカはおろか、全人類が危急存亡の秋を迎えるのは確実だと思われた。今、こうしている間も、その生物はコンゴの奥地で密やかに成長を続けているのだ。
人類を絶滅させかねない新種の生物がいるのがコンゴ民主共和国で、イエーガー達が特殊任務に行くのもコンゴ民主共和国。
イエーガー達の任務はこの生物の抹殺ではないかと思いました。
イエーガー達が現地で任務を開始するまでの間訓練を担当するシングルトンから、作戦の詳細が語られます。
ピグミーという身長140cmほどの民族がアフリカのジャングルに住んでいて、その中の一種族にムブティ人というのがいます。
ムブティ人達は「バンド」と呼ばれる数十人の集団に分かれて生活しています。
その中にカンガ・バンドと呼ばれる四十人ほどの集団が住む狩猟キャンプがあり、ナイジェル・ピアースというアメリカの人類学者も一緒にいて、この人達を殲滅するのが任務です。
作戦名は「ガーディアン作戦」です。
さらにシングルトンは「もしも任務遂行中に、見たことがない生き物に遭遇したら、真っ先に殺せ」と言っていました。
問題の生き物はカンガ・バンドの狩猟キャンプに潜んでいる可能性が高いとのことで、大統領日報に書かれていた「人類絶滅の可能性 アフリカに新種の生物出現」とはこの生物のことだと思いました。
研人のもとに、坂井友理と名乗る不審な女性が現れます。
研人は誠治からパソコンを受け継いでいるのですが、坂井友理はそのパソコンの存在を知っていて、渡すように言ってきます。
誠治の指示に「A5サイズのパソコンは、絶対に他人に渡すな」とあったことから研人は断るのですが、いよいよ研人の身にも危険が迫っていることが予感されました。
変異型GPR769を活性化させる薬物を作るために試行錯誤する研人は友達である土井の紹介で李正勲(イ・ジョンフン)という韓国人留学生の力を借りることになります。
その際のP192~P195にかけての文章が唐突で違和感を持ちました。
研人の言葉をまとめると次のようになります。
1.研人の祖父や伯父は中国人や朝鮮人を毛嫌いしている。研人は祖父や伯父を悪質な差別主義者と思い、嫌っている。
2.関東大震災の直後、「朝鮮人が放火をし、井戸に毒を入れている」などの流言が飛び交い、煽動された日本人が数千人の朝鮮半島出身者を虐殺。日本人が起こした大量殺戮(ジェノサイド)である。
3.日本は朝鮮半島を武力で植民地支配した。
4.愚かな先祖(朝鮮半島を植民地支配した日本人)を持つと、末代(研人たちの年代)が苦労する。
1について韓国を例に見ると、韓国及び韓国人は日本に対し嫌がらせの限りを尽くしています。
李明博元大統領の竹島不法上陸、さらには天皇陛下への侮辱、ありもしない”従軍”慰安婦という嘘を使った国際舞台での嫌がらせの数々、ありもしない”植民地支配による圧政”という嘘を使った国際舞台での嫌がらせの数々、韓国人による度重なる靖国神社への犯罪行為(靖国神社放火事件、靖国神社放尿事件)、最近では世界遺産登録を巡って「日本を利用するだけ利用し、自分達の世界遺産登録には賛成させ、いざ日本の世界遺産登録の番になったら裏切って反対を表明する」という悪質な裏切り行為と、例を挙げればきりがありません。
これを一言で表すと「次から次へと嫌われることばかりしてくる」となります。
もちろん「韓国人は全員悪人である」というような決めつけは差別主義者だと思いますが、嫌われることばかりしてくる相手を嫌いになるのは当たり前の感情です。
相手側の非道、嫌がらせの数々を無視して「嫌いになること自体を許さない」とするような研人の考えには違和感を持ちました。
2についても、あたかも日本人が一方的に朝鮮人を虐殺したように書かれていますが、実際には全く違います。
関東大震災の直後、混乱に乗じて朝鮮人が各地で大暴れし、凶悪犯罪の数々を犯しています。
ネットで 関東大震災での朝鮮人のことを調べると、各地での凶悪犯罪を報じる記事がいくつも出てきます。
なぜかこの部分が隠され、「日本人が朝鮮人を一方的に虐殺」のように書かれていることに違和感を持ちました。
3の「日本は朝鮮半島を武力で植民地支配した」は完全に嘘です。
当時の朝鮮が「日本に併合してほしい」と頼んできたため、日本は朝鮮を併合しました。
研人の言う「日本は朝鮮半島を武力で植民地支配した」は韓国の嘘をそのまま信じ込んでいる人か、悪意を持ってこの嘘に乗って日本を攻撃している人(反日左翼)の発言そのものです。
4の「愚かな先祖を持つと、末代が苦労する」は「朝鮮半島を武力で植民地支配した日本人」を前提とした考えです。
今年の8月15日に安倍晋三首相が戦後70年談話「安倍談話」を発表しているので、その時の記事のリンクを以下にご紹介します。
詳細解説 戦後70年談話
談話で安倍晋三首相は「朝鮮半島を武力で植民地支配した日本人」というような嘘の情報によって植えつけられた劣等感情を払拭するための第一歩を示してくれました。
時間はかかると思いますが、長きに渡って行われてきた韓国側による情報工作を払拭するために尽力していってほしいです。
そしてこの研人の考えは、そのまま作者の高野和明さんの考えでもあります。
かなりの反日左翼思想を持っていると思いました。
小説を使ってこういった嘘だらけのことを全て本当のことのように主張するのは感心しません。
やがて研人のもとに、「30分以内に実験をしている部屋から逃げろ」という警告が来ます。
誰からの警告なのかは不明ですが、危機が迫っているのは明らかでした。
決死の逃走が始まります。
カンガ・バンドの狩猟キャンプの場所を突き止め、いよいよ殲滅作戦が間近となったイエーガー達にも不測の事態が起きます。
予想していたことではありましたが、やはりこういった殲滅作戦を依頼してくるような人達は怖いなと思います。
イエーガー達も一転、窮地に立たされます。
第一部「ハイズマン・レポート」の終盤はそれまでの流れが大きく変わることになりました。
「第二部 ネメシス」はルーベンスというそれまで名前の出てこなかった人の物語から始まります。
ルーベンスは「ガーディアン作戦」のもう一つの名である「ネメシス作戦」の立案者であり、「ハイズマン・レポートの警告が現実味を帯びてきたので、ルーベンスに白羽の矢が立った」とありました。
第一部から大きく状況が変わる第二部は主に下巻で展開されていきます。
人類と未知の生物、さらにはイエーガー達や研人らが入り乱れての壮大な物語になりました。
続きは下巻のレビューで書きます。
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