読書日和

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「ウォーク・イン・クローゼット」綿矢りさ

2015-11-14 19:31:45 | 小説
今回ご紹介するのは「ウォーク・イン・クローゼット」(著:綿矢りさ)です。

-----内容-----
私たちは服で武装して、欲しいものを掴みとろうとしている。
28歳OLと幼なじみの人気タレント。
新進陶芸家と女ストーカー。
読みはじめたら止まらない2年ぶりの新刊!

-----感想-----
好きな作家であり読書が好きになったきっかけの作家でもある綿矢りささんの待望の新刊です。
この作品は次の二つの話で構成されています。

いなか、の、すとーかー
ウォーク・イン・クローゼット


「いなか、の、すとーかー」
主人公は石居透。
職業は陶芸家をしています。
大学を卒業して、陶芸を本格的に始めてまだ三年の27歳とありました。

冒頭、灼熱列島という番組が石居のドキュメンタリーの撮影に来ていました。
モデルは情熱大陸だと思います。

この番組は画的に分かりやすい動作と、すでに書かれた撮影コンセプトの台本によって進めているのだと、撮影が進むうちに分かってきた、クルーの撮りたい画を、気がつけば意識している自分がいる。
ドキュメンタリーって真実であって、真実ではないのだな。

ドキュメンタリーは真実であって真実ではないというのは、たしかに石居の普段の陶芸とは全然違う演技だらけの撮影を見るとそう思いました。
石居はカメラの前で川の水質のチェックをしたりするのですが、普段はそんなことは全くしません。
そういったことを、カメラの前では演技をしながら、心の中で語っていました。
文章は一人称の砕けた感じで、語り口調から序盤は結構ひねくれた人なのかなという印象を持ちました。

作品の舞台は小椚(こくぬぎ)村という田舎で、石居の故郷です。
石居は陶芸家になり師匠のもとで作品を作り賞を取り、そこから師匠に体よく追い払われる形で独立し、良い土と水を求めて故郷に帰ってきました。
築窯し、小椚村で陶芸をしています。

小椚村には同い年のすうすけと4歳下の果穂という幼馴染みがいます。
果穂は石井に好意を持っているようで、石井も何となく気付いているようでした。

石井の実家で母、すうすけ、果穂と共に放送されたドキュメンタリー番組を見た後、石井が工房に帰ってくると、謎の女がいました。
勝手に工房に侵入し、ろくろを回す姿は不気味です。
この女はいつも石井の個展にやってきて意味不明で一方的な愛を語るストーカーです。
ストーカー女は、透が女のことを好きだと独りよがりで思い込み、意味不明なことを言っています。
ストーカーの名前は砂原美塑乃(みその)とありました。
ドキュメンタリー番組でテレビに出た影響で砂原美塑乃に居場所を突き止められてしまったようです。

ストーカー行為は次第にエスカレートしていきます。
工房に行くと窓が割れて部屋に石が転がっていたり、ポストにさまざまな虫の死骸が入っていたり、白い封筒に蛾の死骸が入っていたりしました。
身の危険を感じるほどのストーカー行為です。
しかもこのストーカー事件には裏があり、その展開は衝撃的でした。

人をガムみたいにくちゃくちゃ噛んで捨てるのはやめて!どうせなら飴みたいになめ尽くせばいいのに!
狂気のストーカーが思い込みを元に発したこの言葉は印象的でした。
今作は印象に残る表現が他にもあり、綿矢さんらしさがよく出ていました。
エイリアンVSプレデターという表現も面白かったです。
終盤の展開はどうなるのかかなり気になりました。

こんな奴らと真面目に話すのはムダだ。こいつらはおまえの本当の気持ちを聞きたいんじゃなくて、自分の言ってほしいことをおまえに言ってほしいだけなんだよ。
これはストーカーについてのすうすけの言葉です。
まさにそのとおりで、ストーカーには何を言っても全く話が通じなくて、ひたすら独りよがりで一方的なことを言っていました。


「ウォーク・イン・クローゼット」
主人公は早希。
早希は28歳でOLをしています。
早希には末次だりあという幼馴染みであり芸能人である友達がいます。
冒頭は早希がだりあの部屋に来たところから始まり、小部屋一つが丸々クローゼットというのはさすが知名度抜群の芸能人だと思いました。

「働いて手に入れた服に囲まれてると、いままでの頑張った時間がマボロシじゃなかったんだって思って、ほっとする。この部屋でドアを閉めて考えごとしてると、まだやりたい仕事がいっぱいあるって、むくむく野心がわいてくる。私にとっては、きれいな服は戦闘服なのかも」
なら、私の服と一緒だ。私たちは服で武装して、欲しいものを掴みとろうとしている。

最初の言葉はだりあで、なら、私の服と一緒だ~は早希です。
「服で武装して欲しいものを掴みとろうとしている」というのはなかなか野心的だなと思います。
たしかに服は気持ちを奮い立たせてくれたりもするし大事だと思います。

早希にはユーヤという男友達もいます。
ユーヤはバックパッカーをしていて、アルバイトをして旅費を貯めると半年間海外に行くという生活をしています。
早希より年下の22歳で、かつて早希はユーヤに告白してフラれたことがあります。
現在は気軽に色々話せる男友達として、告白したりされたりした男のことを話したりしています。
早希は何人もの男と次々デートに出かけるという特徴があります。

「早希はいま何人でデートの打線組んでるの?ちゃんと回せてるのかよ」
「そんな言い方無いでしょ。私はまじめにみんなとデートしてるんだから」
「まじめにみんなとデート、なんて言葉は世の中に無いよ。まじめに一人とデート、なら分かるけどさ」

早希としては色んな男性とデートしてみないと相性が良いか分からないという言い分のようです。
ただ早希がデートする男性は「パネェ」や「紀伊」などろくでもないのが多く、何だか悲運なデート遍歴になっています。

無理をするのも楽しかった痛々しいくらいにはじけた青春が消え去り、代わりに私たちは一体何を得たんだろう。
これは早希が胸中で述べた言葉です。
私は早希はだりあという一生ものの友達を得たのではと思います。

だりあには所属事務所にも内緒にしている秘密があったのですが、週刊誌にすっぱ抜かれてしまいます。
物語の終盤はマスコミのパパラッチにマンションの前で待ち伏せされて窮地に立たされただりあのために早希が奮戦します。
この作品も終盤がスリリングで、早希とだりあの作戦は上手くいくのか、ハラハラしながら読みました。

「いなか、の、すとーかー」も「ウォークイン・クローゼット」もかなりの面白さでした。
私的には「蹴りたい背中」「かわいそうだね?」に次ぐ良作だと思います。
これぞ綿矢さんだと思う作品を読むことができて良かったです


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