読書日和

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「水族館ガール4」木宮条太郎

2018-01-26 23:54:17 | 小説


今回ご紹介するのは「水族館ガール4」(著:木宮条太郎)です。

-----内容-----
大変なのは卵を産んだ後――ペンギン舎で起きた奇跡とは?
水族館アクアパークの官民による共同事業化に向け作業を進めていた梶良平だが、大詰めの会議で計画は白紙撤回の危機!?
一方、担当の吉崎に代わり急遽ペンギンの世話をすることになった嶋由香にも次々とトラブルが発生。
動物たちの命をつなぐ飼育員の奮闘の先に奇跡は起きるのか。
そして、なかなか進展しない梶と由香の恋にも変化が――?

-----感想-----
※「水族館ガール」の感想記事をご覧になる方はこちらをどうぞ。
※「水族館ガール2」の感想記事をご覧になる方はこちらをどうぞ。
※「水族館ガール3」の感想記事をご覧になる方はこちらをどうぞ。

冒頭、大晦日から年が明けて新年になります。
梶良平はウェストアクア本社の会議室で、水族館アクアパークを千葉湾岸市とともにウェストアクアに共同運営してもらうための説明をしています。
ウェストアクアの事業部長によると会議は「儀式みたいなもの」で、事前に根回し済みで反対意見は出ないとのことでした。
しかし説明が終わり決議をしようとした時、事業監査室長の男が待ったをかけてきます。
事業監査室長はアクアパークについて「このクラスの水族館なら、どこにでもある。わざわざ運営に参画する意味はない」と言ってきて、その場では話し合いがまとまらず月末に会議を開き直すことになります。

梶がアクアパークに戻って内海館長に話をすると、内海館長は事業監査室長のことを知っていて、井達(いたち)という名前とのことです。
井達は海遊ミュージアムとウェストアクアの共同事業化を推し進めた人でもあり、井達の価値観では同じ水族館でも海遊ミュージアムは「行け」でアクアパークは「やめとけ」になるのだろうと内海館長は言っていました。

梶は再会議に向けて資料を準備しようとしますがなかなか進まずにいます。
井達の反対によってウェストアクアを介した海遊ミュージアムとの姉妹館の構想が揺らぎます。

梶と海遊ミュージアムの鬼塚チーフが話していた時、鬼塚チーフが「ラッコのプールはどこの水族館でも似たり寄ったり」と言っていたのは興味深かったです。
どの水族館もかつてラッコブームになった時一斉にラッコプールを真似て作ったので似たり寄ったりになったとのことです。
また、見る人がラッコはのんびりプカプカ浮かんでいるものという固定観念になっていて、実際にはよく水中に潜ったりもする本来の姿に注目してもらえないことを嘆いていました。

由香はラッコの給餌ライブをやることになります。
普段餌を与える時も貰った餌を毛皮のポケットに隠して素知らぬ顔でまた餌を貰おうとするラッコがいて、ラッコにこんな知恵があるとは知りませんでした。

梶は鬼塚チーフとともに、由香のラッコの給餌ライブのビデオを見ます。
由香の給餌は飼育技術者としては未熟なものでしたが「ラッコはのんびりプカプカ浮かんでいるもの」「ラッコは動くぬいぐるみ」といった固定観念を壊してくれるものでした。

鬼塚チーフの語っていた飼育技術者の悩みは印象的でした。
観客の頭にあるのは「ラッコはのんびりプカプカ浮かんでいるもの」「ラッコは動くぬいぐるみ」という実態とは違う固定観念で、これを認めた上で「実際のラッコはそうではない」というのをどうやって観客に分かってもらうかに悩んでいます。
ラッコだけでなく水族全体に言えることで、梶もこの問題を薄々感じていたとありました。
現実の水族館の飼育技術者もこの問題を感じているのだろうなと思います。

由香のラッコへの固定観念を壊してくれた給餌ライブのビデオを見て鬼塚チーフが「アクアパークには海遊ミュージアムに無い何かがある」と言います。
これをアピールすれば梶が井達に対抗できそうな気がしました。
そして再会議で由香の給餌ライブのビデオを見せてアクアパーク独自の良さをアピールしたおかげで、井達も賛成して全会一致での決議になりました。

2月になったある日、ペンギン担当の吉崎が腰を痛めてしまいます。
そして由香が吉崎の代わりにペンギンの給餌をやることになります。
吉崎の指示のもと、由香は何とか給餌していきます。

アクアパークではペンギンを色のタグで管理していて、その中の「銀チャ」というオスのペンギンは長年もてなかったのですが、ついに春がきます。
ところがすぐに銀チャが東京の水族館に移送されることになってしまいます。
淡々とそのことを語る吉崎と対照的に由香は銀チャの移送に納得できず、岩田チーフに何とかならないかと言いますが諭されます。
岩田が「吉崎は全てを踏まえた上で判断してる。吉崎は銀チャにとってのベストを選択した」と言っていたのは印象的でした。
せっかく春が来たのだからそのままにしておきたい気持ちはありながらも、銀チャにとってのベストを考えると東京の水族館に移送したほうが良いという考えになったようです。
まして吉崎は長年銀チャの世話をしていて愛着もあるのに、それを一切表に出さずに移送の決断をするのはさすがプロの飼育技術者と思いました。
由香も吉崎と一緒に銀チャの移送に立ち会うことになります。

3月になります。
吉崎によると下旬になるとアクアパークにいるマゼラン・ペンギンは卵を産み始め、40日ちょっと卵を温めると雛が誕生するとのことです。
なのでペンギン舎は春休みもゴールデンウィークも忙しくなるようです。

岩田が「ペンギンを見れば水族館が分かる。担当者の心の中まで分かる」と言っていたのは興味深かったです。
ペンギンは複雑な水管理がいらないため小規模な水族館や動物園にもいて、さらに誰もが知っている人気者でもあるため、飼育担当者のスタンスの違いが分かりやすく出やすいとのことです。

修太が「南極ではない場所にいるペンギンの方が多い」と言っていたのは意外でした。
ペンギン18種のうち南極にいるのは2種くらいで、他のペンギンは南極より北の暖かい地域に棲んでいるとのことです。
寒さは生き物にとって大敵で、南極以外に棲んでいるペンギンにとっても例外ではないようです。

白モモというペンギンが卵を産みます。
吉崎が凄く驚いていて、すぐに岩田と獣医の磯川に知らせます。
白モモは吉崎が以前勤めていた水族館からアクアパークに来た時に一緒に連れてきたペンギンで、岩田は白モモが産んだ卵を「奇跡の卵」と言っていて、どんな卵なのか気になりました。
岩田は人の手でこの卵を育てるのを前提で話しますが、吉崎が擁卵(卵を温めること)から育雛(いくすう、雛を育てること)までペンギンに任せたいと言います。
すると岩田も磯川も困惑します。
由香もその場にいましたがなぜ奇跡の卵なのか、なぜ二人が困惑しているのか事情が分からずに戸惑っていました。

由香は磯川から白モモのことを教えてもらいます。
磯川によると白モモは病気がちで何度も死にかけたことがあり、今ではかなりの長寿になっているとのことです。
これまで産卵したことは一度もなかったのですが、相当な年齢になっている今回初の産卵をしました。
それで「奇跡の卵」なのだなと思いました。
そしておそらく最初で最後の産卵とありました。
吉崎は擁卵から育雛まで白モモに任せたいと言っていましたが磯川は獣医の立場から反対とのことです。

ペンギンが飼育スタッフに愛らしくフリッパーをパタパタさせる仕草は、一般人が見ると飼育スタッフを慕っているように見えますが、飼育スタッフはそうは見ていないと磯川が言っていました。
孵化直後のヒナは身近で動くものを自分の親だと認識してしまうため、人の手で卵から育てられたペンギンだと飼育スタッフを親だと思ってフリッパーをパタパタさせている場合があるとのことです。
磯川は、吉崎も雛が吉崎のことを親と思い込むのを防ぐために白モモに任せようとしているのではと言っていました。
ただ私は白モモにとって最初で最後の産卵であることから、体調悪化の危険があっても白モモの手で育てさせてあげたいという思いもあるような気がしました。

雛が生まれると白モモは給餌もあまり食べに来なくなり、明らかにやつれていきます。
吉崎は白モモが弱っているのを見てヒナと隔離させる決断をします。
由香は岩田からの指示でしばらくイルカから離れペンギン優先で吉崎のサポートをすることになります。
しかし白モモは力尽きて死んでしまいます。

鬼塚が梶に、吉崎が三羽のペンギン(一羽は白モモ)とともにアクアパークに転職した時のことを語っていました。
当初は鬼塚のいる海遊ミュージアムに吉崎も来てもらおうとしたのですが、三羽のペンギンがいずれも病弱なペンギンだったため引き受けるのは難しく、話がこじれているうちにアクアパークに転職することになりました。
そしてこの時のことがきっかけで鬼塚は岩田と対立するようになったことが明らかになりました。

5月下旬になります。
白モモが亡くなったため、ペアを組んでいた茶グレというオスのペンギンが一羽で雛を育てています。
しかし一羽での子育てで茶グレもやつれてきたため吉崎は岩田と話し合い、茶グレを昼間の間は休養させ、変わりに自身が昼間は面倒を見ることにします。
岩田はそんな吉崎をかなり心配していて、表面上は任せたと言っていましたが後で由香に「吉崎が倒れないか気をつけて見てろ」と言っていました。
この辺りまで読み進めると、シリーズ四作目になり岩田の江戸ッ子口調、吉崎と鬼塚の大阪弁が読んでいてかなり馴染んできたのを実感しました。

白モモが亡くなり、茶グレも弱ってきて雛がどうなってしまうのかと思いましたが、雛の身に予想外の奇跡が起こります。
序盤から問題児として扱われていた気の荒いペンギンが活躍したのがとても印象的でした。
白モモが卵を産んだ時も奇跡でしたがもう一度奇跡が起こりました。

由香と修太が房総大学理学部の南総海洋センターという研究場に行きます。
そこで由香は沖田とイルカのホコに再会します。
ホコは「保護個体」の略で、二年前に傷ついて弱っているところをアクアパークで保護しました。
現在はこの研究場で保護を継続しています。
そして沖田はこの春から房総大学で臨時講座を持っているとのことです。

海遊ミュージアムからアクアパークに奈良岡咲子が飼育業務の実習生としてやってきます。
咲子は由香の後輩の兵藤(ヒョロ)の下につくことになります。

海遊ミュージアムにいる梶のところに岩田がやってきます。
岩田は海洋学のマイヤー博士と会うとのことです。
さらに梶に近々アクアパークに戻ることになりそうだから部屋の片付けを始めておけと言っていました。

由香達は咲子の案で、ホコとニッコリーを通信回線を使って再会させる実験をすることになります。
由香、咲子、ヒョロ、梶の四人で話していたのですが、咲子に茶々を入れられて戸惑う梶と由香の雰囲気が面白かったです。

6月になります。
由香は梶に教えてもらいながらホコとニッコリーの再会プロジェクトの企画書を作りますが、沖田に「イルカが混乱するかも知れない」と言われ反対されます。
そして岩田には一旦保留にすると言われ、さらに「俺と沖田を納得させるんだな。そうすりゃ、俺が館長に首を縦に振らせる」と言われます。

ヒョロは咲子のことが好きで、実習で来ているうちに告白しようとしますが、上手く言葉が出ずに何度も告白の言葉を言い間違えてしまいます。
この様子がかなり面白くて笑ってしまいました。

由香が企画書をどうするかで悩み、思い詰めていると、梶がかなり丁寧に悩みに向き合ってくれました。
そして万全の体制を整えられるように企画書を作り直し、ついに企画が通ります。

通信回線を使ってホコとニッコリーを再会させる実験は沖田が危惧したように、ホコもニッコリーも混乱したような状態になって終了します。
由香、咲子、ヒョロは映像ファイルを見て検証をするのですが、そこで由香と咲子は何かに気づきます。
そして沖田や岩田などの関係者を全員集めての報告会で沖田が言っていた「イルカが混乱状態になる」とは違う見解を示します。
由香と咲子が映像ファイルを見ていて気づいたのは、動物の「認識能力」を計る新たな鍵になる重要なものでした。
自身の理論が間違っていたことを悟りうなだれる沖田に岩田が興味深いことを言っていました。
「俺は思うんだがな、自然科学も肌感覚。まずは『感じる』からよ。それから、理屈を考えて、考えたことを検証する」
「自然科学も肌感覚」が特に印象的でした。
たしかにまずは見たままを感じ取るのが大事だと思います。


今作では由香が高度なことまでこなすようになり、シリーズ四作目の歴史を感じました。
そして梶との恋も進展していました。
次作では飼育動物とどんな関わりをするのか、由香や梶が周りの人とどんな面白い話をしてくれるのか、楽しみにしています


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