那須太社 錦輔 の日記

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ロスチャイルド 200年の栄光と挫折

2012-07-09 20:58:49 | 読書感想文

副島隆彦氏の新刊。

ちょうど古本店で講談社現代新書の「ロスチャイルド家 ユダヤ国際財閥の興亡」横山三四郎著を買って読んでいたのだが、副島氏が横山氏の著書は広瀬隆氏の「赤い盾」とならんで主要なロスチャイルド本だ、と評価していた。

横山氏の本は近現代のロスチャイルド家の動きを、一家の誰がいつ何をしたか、誰と誰が仲が悪くていがみあっている、とか人物評というか列伝風に記述していて具体的なイメージがつかみやすい。

自分のこれまでの印象ではロスチャイルド家は近代から現代への過渡期に表舞台からフェードアウトして消えていった、みたいに感じていたがなかなかどうして活発に活動しているようだった。

横山氏の本はロスチャイルド家に好意的で、国家が覇権を争って戦争を始め国民・民衆を苦しめる、ロスチャイルド家はそれを嫌い独自のネットワークと莫大な資金に物を言わせて戦争を押さえ込んできた、みたいに書いてあり、そんなに綺麗なもんだろうか、と素直にうなずけない部分もあった。

副島氏は元々、アポロは月に行ってねえし、みたいな面白い本を出している人で、世界経済の黒幕はあいつだ、とか奥の院にいるのはこいつだ、という本も出されている。

その流れで、副島は陰謀論者だ、と一部で決め付けられている事に気がついたようで、そうじゃない、という事を表明し、アホな陰謀論を消し去るためこの本を書いた、言っている。

といっても、基本的には一般人には見えないところで経済を動かしている黒幕・奥の院はいる、けどユダヤ・ロスチャイルドがそうなのではない、ユダヤ・ロスチャイルドが世界を支配している、という陰謀論が間違っている、という立場である。

副島氏は基本的に横山氏の本をベースにして、そこに自分の論を上乗せしているように思うが、副島氏の上乗せしている部分として、英国のロスチャイルドに対して米国のロックフェラーが対立しており覇権を争って暗闘を繰り広げている、という所。副島氏の書き方だとロスチャイルドは善玉でロックフェラーは悪玉である。

副島氏の分析では、ロスチャイルドとロックフェラーの暗闘は、我が国でも明治維新前から代理戦争を勃発せしめており、ロスチャイルド=三井財閥、ロックフェラー=三菱財閥、が現代にいたるまでずっと争っているという論はなるほど、そういう見方があるんだな、と面白かった。

また横山三四郎氏、や広瀬隆氏はロックフェラーの代理人だというのである。そのため、横山・広瀬両氏はロックフェラーについては言及しないで、ロスチャイルドのみが世界経済・政治を壟断している、見たいな事をいっている、と主張している。

だが、何点が疑問に思う点があり、副島氏も一丁かみしただけで、本当はわかってない、と思った。

疑問点は

1、パレスチナ問題について、アラブ人もユダヤ人も同じセム族という同じ民族であって、現今の宗教的な対立は同じ民族同士という考え方で解決できるのではないだろうか、みたいなことを書いている。

テレビニュースとか、あるいはこの本に挟み込んである写真をみても、いわゆるユダヤ人は完全にヨーロッパ人の顔であり、パレスチナ人はアラブ人の顔である。

同じ民族とは見た目からして思えない。

東欧系のユダヤ教徒である、アシュケナジー・ユダヤ人については副島氏も少し書いているが、アラブ系のスファラディ・ユダヤ人については、どういう認識なのか何もかいていない。

オリジナルなユダヤ人、パレスチナを故郷とするユダヤ人はスファラディ・ユダヤ人であって、ヨーロッパ系のアシュケナジー・ユダヤ人は人種的にはオリジナルのユダヤ人ではなく、パレスチナを故郷とする人種ではない。便宜上、ユダヤ教に改宗した東欧をルーツとする人種であって、彼らがシオニズムを語るのは壮大なフィクションである、という論をどこかで読んだが副島氏の論を読んでもスファラディ・ユダヤ人について何も記載がないので、分からないままユダヤ人とアラブ人は同じセム族だと書いているように思える。

2、4世代120年で覇権が移り変わるのが世界史の常識である、みたいに書いていて120年がたったので今の覇権家=ロックフェラーがそろそろ没落する、そのあとはBRICSが来る、中でも中国の時代が始まるとか書いているが、物理的な法則のように120年経つと覇権が移動する、中国の易姓革命思想みたいにそういう流れがある、と書いているがこのあたりは全く説得力ない。

3、我が国はロスチャイルドの導きによって明治維新をなしとげ、新国家建設も逐一指導を受けていた、ところが変な自信を持ってしまった愚かな軍部が暴走して、中国だとかに進出してロックフェラーの操るアメリカとの戦争を始めてしまった、みたいな歴史観を開陳しているが、こういう独善的な考え方には全く賛同できない。

明治維新以降の我が国の政治家が欧米からの強い影響を受けて行動していたのは認めざるを得ないし、そのなかでロスチャイルド系は誰それ、ロックフェラー系は誰それ、という分析は新鮮だったが、愚かな軍部が暴走してアメリカと無謀な戦争に突入した、というのはいわゆる進歩的文化人が吐いている独善的な言説そのもの。

軍部、特に陸軍を悪者にしておけば事たれり、のステレオタイプな論には乗れない。

もっともっと掘り下げることができるはずではないだろうか。

明治維新以降の我が国の歴史には世界の覇権争いの縮図が隠されているのではないだろうか?

副島氏は明治維新なんて、ロスチャイルドに導かれて成し遂げただけだ、と言っていてその価値をみとめていないようだが、そもそも他のアジア・アフリカなどの当時の第三世界の国家では維新などありえなかった。

欧米列強はただ力任せに植民地化していったのである。

だが、我が国にはそれをさせない力、重層的な国民国家の力がすでにあった。

だから、ロスチャイルドだのグラバーだのが政治工作をして裏から動かそうとしたわけで、逆に誇ってもいいのではないかと思う。

明治維新維新以降の我が国の歴史は世界史と重ねてみなければ分からないのではないかと思うが、いまだに俯瞰的にそれを見ることのできる書物にであった事がない。

副島氏のような既存にアカデミズムとか権威に背を向けている方なら、さらに掘り下げていけるのではないだろうか?

一丁かみではなくて、もっと踏み込んだ著作に期待したい。

コメント
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