例によって、どこかのブックオフで購入。
上下巻のうち上巻の3分の1くらいしか読んでないが、面白い。
陸の孤島のような、下北半島の濃密な原生林とそこを走る伐採した木材を運ぶための軌道車の描写とか、今の小説にはないリアル感がある。
ひとつの事物に対する説明の描写が長いのだが、無駄がなく良いリズムみたいなものがある。また、薀蓄も付け焼刃や薄っぺらな物ではなく、実際に取材したりしっかり調べた上で書かれている、という感じがする。こういう確りした土台がある感触は、邦光史郎の「三井王国」を読んだときと同じで、今の作家さんからはあまり感じられないものだ。
水上勉さんて、観念的でストーリーに起伏の乏しい私小説を書く人だとおもってたが、まったく違った。
読了してないのでまだあれだが、もしかして新しい鉱脈を掘り当てたのかもしれない。
残念なのは、新潮文庫の裏表紙に粗筋が書いてあって、小説の全体像を見せてしまっている。これはいただけない。「戦後まもない昭和22年、津軽海峡で発生した大規模な海難事故。打ち上げられた死者の中に乗客名簿にのっていない2人の男の遺体があった」みたいな感じで導入部の紹介だけしてくれたらそれでいいのに。
また、ついネットで調べてしまったが、水上勉さんが推理小説を書いていたのはキャリアの初期だけみたい。
とにかく、じっくり読み勧めたい。
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