2月21日号 週刊アエラより。
ハウステンボス創業者の神近義邦は芸術家肌で、現場から遠いカリスマだった。やがて経営が悪化し、みずほグループの銀行管理下となり、会社更生法の適用申請後、野村が再建スポンサーに代わった。だが、みずほや野村から送り込まれた幹部陣は、東京が恋しいサラリーマンばかりだ。事業家という点では、実は深田が初めてだ。
自ら汗を流さず、オフィスで数字を見ているだけの自称経営者とは決定的に違う。
2割増と2割減の方針
彼が打ち出したのは「売上局の2割増と経費の2割削減」というシンプルな方針だが、それまで誰も実現できなかったことだ。経費削減策では、広大な園内のうち直営部分を3分の2に限定し、港湾施設は長崎県に。下水処理施設は佐世保市にそれぞれ譲渡した。さらに一部を無料ゾーンとして他の事業者に開放し、賃料収入を得られるようにするとともに、無料区域の維持費負担から免れた。
売り上げ増は、高かった入場料を下げる半面、園内のレストランや販売店を拡充し、お金を落としてもらうことで実現を図った。AKB48などタレントの公演やフジテレビと共同運営する西洋風お化け屋敷の開館にもこぎつけている。
佐世保市が年間約9億円の固定資産税の実質的な減免を申し出たことも手伝って、昨年4~9月期の決算は売上高が微増の61億円を達成、営業損益段階ではまだわずかながら赤字だが、市の補助金効果によって経常損益は4億円の黒字だった。前年同期の6億8千万円の赤字から11億円もの損益の改善で、もちろん黒字は初めてだ。
「いや、まだまだですよ。自己採点すると58、59点かな。60点に届きません」
8年ぶりの賞与支給
昨年暮れ、賞与を支給した。十数万円というわずかな額だが、8年ぶりのことだった。
「とりあえず出そう、と。出すことが先決でした。頑張って利益が出たら賞与を出す。勝ち癖をつけて、待遇を少しでもよくしよう、と考えたのです」
大底を打った感のあるハウステンボスは今年、反転攻勢に乗り出そうとしている。第1号が、春に無料ゾーンで開園する「イングリッシュ・スクウェア」だ。隣にある米軍住宅で暮らす米軍人の夫人たちに英語のコーチをしてもらおうというアイデアだ。
上海からの船にカジノ
第2号が上海-長崎の航路開設である。すでに昨年暮れ、船の所有会社をパナマに設立し、1月には運航会社を園内にっくった。澤田は2月上旬、中古船の商談のためにギリシャに足を運んでいる。
「リーマン・ショック以前は中古船も50億円したが、いまは20億円で買えます。これを改修して中にカジノをつくります」
改修後、7月には週に3便就航させる計画でいる。もはや飛行機による旅客輸送の時代ではないという。澤田によれば、裕福になった中国人が海外旅行に本格的に動き出して以来、飛行機のチケットが入手しにくい、つまりHISにとって「格安航空券が仕入れにくい」状態になった。飛行機は300人程度しか運べないが、船ならば1500~2千人を輸送できる。
本来13時間で到着する東シナ海を、ゆっくり二十数時間かけて横断する。船賃は片道7千~8千円に下げ、船内のカジノやレストランで楽しんでもらう。国内では違法なカジノも公海上ならばできるそうだ。
「長崎は日本の西の端で、東京や大阪からの集客が難しかったのですが、見方を変えれば東アジアの中心です」
大連、釜山、台北……。航路を続々開設するのも夢ではない。戦前は、海外旅行客の4割が長崎から船で旅立った。
「大航海時代がまたやってくるのです」
ハウステンボスの救世主には、荒海に乗り出すベンチャー精神が宿っていた。
(文中敬称略)
編集部 大鹿靖明
ハウステンボス創業者の神近義邦は芸術家肌で、現場から遠いカリスマだった。やがて経営が悪化し、みずほグループの銀行管理下となり、会社更生法の適用申請後、野村が再建スポンサーに代わった。だが、みずほや野村から送り込まれた幹部陣は、東京が恋しいサラリーマンばかりだ。事業家という点では、実は深田が初めてだ。
自ら汗を流さず、オフィスで数字を見ているだけの自称経営者とは決定的に違う。
2割増と2割減の方針
彼が打ち出したのは「売上局の2割増と経費の2割削減」というシンプルな方針だが、それまで誰も実現できなかったことだ。経費削減策では、広大な園内のうち直営部分を3分の2に限定し、港湾施設は長崎県に。下水処理施設は佐世保市にそれぞれ譲渡した。さらに一部を無料ゾーンとして他の事業者に開放し、賃料収入を得られるようにするとともに、無料区域の維持費負担から免れた。
売り上げ増は、高かった入場料を下げる半面、園内のレストランや販売店を拡充し、お金を落としてもらうことで実現を図った。AKB48などタレントの公演やフジテレビと共同運営する西洋風お化け屋敷の開館にもこぎつけている。
佐世保市が年間約9億円の固定資産税の実質的な減免を申し出たことも手伝って、昨年4~9月期の決算は売上高が微増の61億円を達成、営業損益段階ではまだわずかながら赤字だが、市の補助金効果によって経常損益は4億円の黒字だった。前年同期の6億8千万円の赤字から11億円もの損益の改善で、もちろん黒字は初めてだ。
「いや、まだまだですよ。自己採点すると58、59点かな。60点に届きません」
8年ぶりの賞与支給
昨年暮れ、賞与を支給した。十数万円というわずかな額だが、8年ぶりのことだった。
「とりあえず出そう、と。出すことが先決でした。頑張って利益が出たら賞与を出す。勝ち癖をつけて、待遇を少しでもよくしよう、と考えたのです」
大底を打った感のあるハウステンボスは今年、反転攻勢に乗り出そうとしている。第1号が、春に無料ゾーンで開園する「イングリッシュ・スクウェア」だ。隣にある米軍住宅で暮らす米軍人の夫人たちに英語のコーチをしてもらおうというアイデアだ。
上海からの船にカジノ
第2号が上海-長崎の航路開設である。すでに昨年暮れ、船の所有会社をパナマに設立し、1月には運航会社を園内にっくった。澤田は2月上旬、中古船の商談のためにギリシャに足を運んでいる。
「リーマン・ショック以前は中古船も50億円したが、いまは20億円で買えます。これを改修して中にカジノをつくります」
改修後、7月には週に3便就航させる計画でいる。もはや飛行機による旅客輸送の時代ではないという。澤田によれば、裕福になった中国人が海外旅行に本格的に動き出して以来、飛行機のチケットが入手しにくい、つまりHISにとって「格安航空券が仕入れにくい」状態になった。飛行機は300人程度しか運べないが、船ならば1500~2千人を輸送できる。
本来13時間で到着する東シナ海を、ゆっくり二十数時間かけて横断する。船賃は片道7千~8千円に下げ、船内のカジノやレストランで楽しんでもらう。国内では違法なカジノも公海上ならばできるそうだ。
「長崎は日本の西の端で、東京や大阪からの集客が難しかったのですが、見方を変えれば東アジアの中心です」
大連、釜山、台北……。航路を続々開設するのも夢ではない。戦前は、海外旅行客の4割が長崎から船で旅立った。
「大航海時代がまたやってくるのです」
ハウステンボスの救世主には、荒海に乗り出すベンチャー精神が宿っていた。
(文中敬称略)
編集部 大鹿靖明