2007年のこと、スティグリッツ教授の講演を聞いた。教授の著書を読んだ私の秘書が「グローバリズムの負の側面も知ってほしい」と配慮してくれたようだ。実際、講演はグローバル化により先進国が発展途上国の経済を破壊し、人間社会の格差やひずみを生み出すというものだった。
同教授の言う「グローバリズムの負の側面」は理解できるが、これまでの歴史においてはプラスの方がはるかに大きかったと思う。私か入社した1967年頃の世界の人口は30億人だったが、今では70億人に達した。その間、世界の生活水準も総じて大幅に向上した。この人口増と発展を支えたのが貿易だ。世界で生産される原油および鉄鉱石はその50%が海上輸送されている。
大豆の35%、小麦の20%、とうもろこしの10%も同様だ。40年前は世界の人口1人当たりの海上輸撲量は0.5トンだったが、現在は1・15トン。
日本も明治初期には人口3千万人、平均寿命40歳未満だったが、貿易の拡大を大きな要因として現在は1・27億人、80歳超となった。
日本の製造業は戦後ゼロからスタートし、国際競争力を高めていった。輸出立国として発展を遂げる過程では米国との貿易摩擦を乗り越え、80年代の円高をしのぎ、雁行型発展の先頭に立ってアジア経済を引っ張ってきたのが日本である。
一方、中南米やアフリカは米国や欧州との歴史的な結びつきがあったものの、日本とアジアのようには順調に発展しなかった。漸く今世紀に入ってグローバル化の波に乗り、成長が早まりだした。
アジアについては確かに中国の存在が大きくなったが、調和的に発展するためには引き続き日本の役割が重要である。
*芦田さんも、図らずも、芥川が、「文明のターンテーブル」で書いた〈解答〉の正しさを伝えてくれているのである。