大型の冷蔵庫ほどもある計算機864台が、広さ約3千平方メートルの部屋にずらりと並ぶ。理化学研究所は‥11月2日、スーパーコンピューターの「京」が、その名の通り「毎秒1京回の計算」を達成したと発表した。
さらに5日後には、京の共同開発者である富士通が、「京の2倍速」というマシンの発売を発表するなど、話題が続いている。
日本製スパコンの「世界一」は7年ぶりだ。2002年、計算速度の世界ランキング「トップ500」で、NEC開発の「地球シミュレータ」は、2位の米国製マシンの5倍という速度をたたき出して1位となり、その後も2年半、王座を守った。米紙ニューヨーク・タイムズは、人工衛星開発で旧ソ連に先を越された「スプートニク・ショック」になぞらえ、「コンピュートニク」と1面で報じた。
この栄光が、今回の世界一奪還の原点だ。もう一度取り戻したい輝き。だが、道のりは平坦ではなかった。
「2位じゃだめ」契機に
文部科学省が次世代スパコン計画を立ち上げたのは、06年のこと。当初の開発陣は、富士通のほか、NECと日立製作所だった。
当時は、安価な演算装置を多数並べて動かす「並列型」と呼ばれる手法が世界の主流になりつつあった。だが、開発陣は地球シミュレータに使われた「ベクトル型」という特殊な計算法にこだわり、ふたつを組み合わせた「ハイブリッド方式」を目指した。
しかし開発は難航。3年後、ベクトル型計算を担うNECと日立が計画から撤退した。残されたのが富士通だ。ハイブリッド方式は諦めざるを得ず、技術の独自性は薄れたと見られた。
それでも「世界一」は諦められない。文科省は生産ライン増設を狙い、1120億円の開発費用に110億円を追加しようとした。そこに壁が立ちふさがった。
「2位じゃだめなんですか」
事業仕分けの代名詞ともなった蓮筋参院議員の09年の発言は、技術の中身よりも「公約」にこだわる文科省に歯止めをかけようとするものだった。
だがこの発言がノーベル賞学者らの反発を呼ぶ。…中略。
装置調達が早まった。
これが世界一につながる。先端技術は日進月歩だから、急ぐほど上位入りには有利だ。
しかもこの間、米国がもたついたことも幸運だった。京と同じ毎秒1京回の計算速度を持つマシンが、今年7月には完成しているはずだったが、IBMによる開発がうまくいかなかった。
しかし王座は来年まで
スパコンは、天気予報や地震のシミュレーションなどに使われる。民間でも、製薬会社がたんぱく質の構造を分析したり、自動車会社が車体の空気抵抗を調べたりと、多くの用途がある。
核兵器の爆発を再現するなど、スパコンは軍事にも必須の技術だ。今は世界一のマシンを持たないとはいえ、総合力で群を抜くのは、やはり米国。トップ500のうち、米国勢は過半の263台。2位は74台の中国で、30台の日本は3位に過ぎない。
このランキングで王座に君臨している京だが、栄光はどうやら来年まで。米国で、京の2倍の性能をもつスパコンが2台、完成する予定だからだ。京の100倍を目指す動きもある。
一方、日本に次の計画はまだない。
大阪科字医療部小宮山亮磨