ハーバード大学ケネディ行政大学院修了(MPA:公共政策学修士号)。筑波大学大学院国際政治経済学研究科博士課程前期修了(MA:国際政治経済学修士号)。国会議員政策担当秘書資格保持(2011年、資格試験合格)。 現在、日米を往復しつつ、ハーバード大学ケネディ行政大学院ベルファー国際関係・科学研究センターのリサーチ・アソシエイト(助教)として国際関係学の研究をしながら、早稲田大学大学院アジア太平洋研究科博士課程後期にて博士号取得を目指す。専門は国際関係理論、外交、安全保障、産業・通商政策、公共政策。 また、経営コンサルタントとして、民間企業、NPO等の経営・運営経験多数。組織やコミュニティーを活性化して、日本を元気にし、世界の人々と共に繁栄する道を目指す。という方。ハンドルネームは北水白天さんです。
「中国が世界のリーダーになることは、将来的にもないと思います」
ローズクランス教授はさらりと言いました。
「今世紀中葉までの人口の伸び、それから一人あたりのGDPを考えてみてください。中国の進撃はいつか止まります」と。
確かに、このままいけば、中国のGDPはあと10年でアメリカを抜き、世界一に躍り出ると言われています。そして2050年頃までに、2位アメリカとの差を2倍程度まで拡大するそうです。BRICsと呼ばれる4カ国(ブラジル、ロシア、インド、中国)のGDPの合計が、現在のG7のそれを上回るのもその頃です。
しかし、中国の躍進はそこまでです。つまり2050年がピーク。なぜなら、2025年ころから中国の人口増加はとても緩やかになり、2050年ころから人口減少がはじまるからです。それは日本の少子高齢化をはるかに上回る、激烈なスピードになると予想されています。変わって、世界一の人口大国に躍り出るのはインドです。2050年ころ、世界最大の人口を誇り、世界第3位の経済大国になるインドのGDPは、アメリカと肩を並べるまでになります。「アメリカを抜いて2位になる」という予測すらあるほどです。
また、中国の一人あたりGDPは、2050年にはアメリカの半分程度まで迫りますが、そこでストップします。その後、一度もアメリカを越えることはなく、そのまま人口減少に突入するのです。ちなみに、インドの一人あたりGDPは、中国よりもずっと下で、こちらもアメリカを越えることはありません。
これが、中国が歴史上のピークを迎える2050年の世界です。その頃の世界人口は約90億人。そのうち、中国人が15億人弱、インド人が16億人ほど。
「だから、アメリカがうまくやれる方法はあると思います」と、ローズクランス教授は楽観的です。なにしろ、2050年になっても、相変わらずアメリカ人のほうが中国人より豊かな生活をしているのです。人が足りなくなれば、移民制限を緩和して優秀な人間から順番に「アメリカ人」にしてしまえばよい。また、ヨーロッパが崩壊せずに拡大と成長を続けることができていれば、人口規模ではアメリカよりちょっと大きく、経済規模ではアメリカよりちょっと小さいという、有力なパートナーとして存在しているでしょう。さらにそこに、新たな超大国インドがアメリカの友邦として加わるのです。民主主義、自由主義、資本主義を奉じる、米、欧、印の三極が結束している限り、国力のピークを迎える2050年の中国がいくら頑張ったところで、太刀打ちができません。
ロシアも力を維持します。人口減少に歯止めがかかり、旧ソ連圏との経済統合をすすめるロシアは、おそらく世界5位から7位くらいの大国にとどまるでしょう。中国にとっては、(たとえ同盟していたとしても)隣にこんな国があるのは脅威です。また、アメリカの裏庭の南アメリカでは、ブラジルが世界第4位の経済大国として台頭します。そして、北米経済圏(NAFTA)の弟分メキシコも、ロシアに匹敵する経済大国に成長します。東南アジアからは、インドネシアの躍進が予想されています。人口が爆発し続けるインドネシアは、GDP規模でおそらく第7位まで上昇し、ロシアに匹敵する経済大国になると言われています。シンガポールを中心とするASEANの自由貿易ゾーンの中で、インドネシアを先頭に、マレーシア、タイ、ベトナム、カンボジアが有力な経済パワーとして勃興するのです。
そんな時代に備え、アメリカはもう次の手を打ち始めています。GDPの総額で中国に抜かれるのは仕方ないにしても、それでも中国を抑え、封じ込め、民主主義、自由主義、資本主義の世界を今よりさらに発展させる。それどころか、アメリカが超大国としての地位を維持するために、中国の力を逆に利用する方策を、あらゆる手段を用いて模索しつつあるのです。
先月、ヒラリー国務長官は「アメリカによる太平洋の世紀(America’s Pacific Century)」と題する論文を発表しました。この中でヒラリー長官は、今後の世界の成長の中心がアジア太平洋になると断言し、もはやアメリカに単独で世界を治める力がなくなったことを素直に認めた上で、それでもアメリカが新しい世紀の主導権をとる必要があることを強く訴えています。事実、アメリカはもうアフガンやイラクなど中東から撤退し、その力をアジア太平洋に集中しつつあります。昨年からオバマ政権は、インドとの連携を深め、ASEAN諸国を断固として守り、オーストラリアとタッグを組み、そして、韓国や日本との同盟を維持するなど、新たな手を矢継ぎ早に打っていますが。それらはみな、ヒラリー長官が述べたクリアでシビアな未来予測と、明快なビジョンからきているのです。大騒動になっているTPPも、もちろんその大戦略の一環です。アメリカ合衆国とは、昔からこういう考え方をする国なのです。…もし、中国を手も足も出ないまで封じ込めることができれば、中国がピークを迎える2050年をしのぎ切ることができる。そしてそこまでやれば、中国は敵ではなく、共存共栄のパートナーとなるかもしれない。「中国の世紀」など来させない。逆に、21世紀もまた「アメリカの世紀」にしてみせる。そんな断固とした決意を感じます。
「それで、日本はどうするのですか?」と、大の親日家でもあるローズクランス教授は少し心配そうな顔で聞かれました。太平洋を隔てたアメリカとは違い、圧倒的に強力になった中国のすぐそばにいる日本が、彼らに飲み込まれないでうまく生きていく準備がどこまでできているのか、というのです。
2050年。いまから約40年後。中国の国力がピークを迎えるそのとき、GDP総額において、日本はインドネシアにまで抜かれ、世界第8位の国家に転落しているといいます。人口規模は一億人ちょっとで世界第16位、しかも少子高齢化のせいで、労働人口の割合は世界で最低。「食わせる」人より、「食わされる」人のほうが多いのです。一人あたりのGDPは今ですらOECD加盟国で第17位まで低迷していますが、2050年にはもう、台湾、韓国、マレーシアにも抜かれると言われています。
無論、日本だけが小さくなるのではありません。欧州のイギリスやフランス、ドイツといった、かつての「世界の支配者」たちは、2050年にはすべて日本よりもGDP規模が小さい「中級国家」になります。しかし、彼らはそれがわかっているからこそ、何十年もかけて統合のプロセスを粘り強く進め、決して後戻りさせようとしないのです。ギリシャやイタリアがどんなにヘマをしようと、ユーロを維持し、EUを崩壊させまいとするその努力の影には、こうした危機感と切迫感があります。団結しなければ近未来に何が待っているか、骨身に沁みて知っているのです。
どの国も必死です。アメリカが「中国の世紀にはさせない」と強い決意をもって動き出したことは述べました。中国は逆に「アメリカの好きなようにさせない」との決意を揺るがさず、不公正と言われようが何だろうがルールを無視して滅茶苦茶にパクリまくり輸出しまくり、新しい空母や戦闘機をどんどん作って米国を兆発しています。ロシアは旧ソ連圏諸国と経済統合を深めて巨大な「ルーブル圏」を作り、核兵器と資源パワーをもって欧州と肩をならべ、米国と中国に対抗しようとしている。東南アジアは中国の圧力に対抗するために、外交・軍事・経済のすべてにおいて統合を深めて強いアピールを発し、中国軍を刺激することを恐れなくなりました。韓国は、輸出立国の地位を日本から奪うことに国運を賭けています。米韓FTAが不公平で不公正であることは重々承知の上で、医療、農業、公共投資などで多大な犠牲を払ったとしても、得意技の自動車や家電で日本に勝利するという一点集中戦略に、韓国政府は賭けたのです。悲しいことにまだ、国際政治は生きるか死ぬかの生存競争です。…中略。「
では、日本人はどうするのか。このままいけばジリ貧は目に見えていますが、どこかに突破口を見出し、よりよい未来をたぐり寄せるための戦略が、日本にあるのかどうか。あえていえば、そんなことが議論もされないことが、わが国にとって最大の危機だといえるでしょう。
考えてみれば、これまでは幸せな時代でした。「総理大臣が漢字の読み方を間違えた」とか、「首相がバーで酒を飲んだ」とかいった瑣末な事柄を呑気に報道していられるほど、オメデタイ時代だったのです。しかしもう、そんなことを言っていられる時期はとうに過ぎました。無論、「日本人みんな仲良く貧しくなろうよ」というのなら、それでもいいでしょう。僕たちの子や孫の世代が、「おじいちゃんの介護費用を稼ぐために、出稼ぎに行ってくる」といって、東南アジアのどこかの国で肉体労働をしてもいいというのなら、今までどおり、ワイドショーや週刊誌を読んで怒ったり、笑ったりしてればいい。いわゆる「最小不幸社会」の馴れの果て。オメデタイ時代の継続です。
内向きになって、受け身になって、小さな点ばかりつついて批判しあったところで、何かが変わるわけではありません。たとえばTPP。「アメリカの陰謀」も何も、アメリカが呼びかけてきたのは、これがアメリカの国益追求の道具だからです。医療も、農業も、会計処理も、紛争調停手続きも、全部アメリカの都合よくやろうとしているのは当たり前です。アメリカはいつだって強引だし、ずるいし、最初から問題だらけなのはわかりきっています。しかし、逃げたからといって、いいことがあるわけでもありません。日本の医療だって農業だって、改革が必要であるのは間違いありません。TPPによる改革が日本にとって有利ならばやる、そうでないならやらない。それだけです。僕が憂いているのは、TPP賛成論者のなかにも、反対論者のなかにも、この枠組みがあたかも天が定めた厳粛なルールであり、日本としては参加するかしないかという受け身の選択肢しかないという前提の議論が多かったことです。確かに、後から参加した不利は否めません。しかしなぜ、「どうせ交渉になれば勝てない」とか、「今から日本の主張が受け入れられる余地はない」とかいって、交渉する前から諦めよと主張するのでしょうか。日本人はいつからこんなふうに、ふが抜けてしまったのか。
アメリカが日本の参加を望むというのなら、どんな見返りがあるのか問い質し、できることとできないことをはっきりさせるべきです。そして、譲歩した点は恩を着せ、飲めないならば交渉の席を立ち、徹底的に日本の国益を引き出すべく交渉すべきです。嫌なら、ゴネて暴れてぶち壊してくればいいのです。呼んだのは向こうですから、困るのはあちらです。EUとのFTA交渉を同時並行で進めて牽制し、ASEAN+6というオプションがあることを匂わせ、中国を排除したり引きこんだりして、アメリカを揺さぶり、疲れさせ、こちらの言うことを聞かせる。それが外交です。幼稚園や保育園ではないのですから、欲しいものは自分で作りだすか、代価を払って買ってくるか、奪いとってくるしかない。甘ったれたことを言って、ぼうっとしているマヌケは、いつだって貧乏くじを引かされます。
2050年。あと40年といえば、ちょうど、いまの20代、30代の若者が現役をまっとうするころです。
残念ながら、ほうっておいたら、日本は貧しく、年老いた、小さな国になります。だから一刻も早く、「どんな世界に生きたいのか」「どんな日本にしたいのか」というビジョンを描き、現状を作り変えるためのあらゆる努力をはじめるべきでしょう。アメリカには「アメリカが理想とする世界」が、中国には「中国が理想とする世界」があるように、日本にも「日本の理想」があってよい。そしてそれを実現するために、主体的、能動的、積極的なあらゆる手段を尽くすべきです。無論、簡単ではありません。政治、経済、軍事、資源、環境、食糧、水など、どの問題をとっても、相当に困難で苦しい道のりになるでしょう。しかし、ただひとつ、はっきりしていることがあります。求め、そして努力する者にしか、未来の扉は開かれないということです。坐して何もしなければ、僕たちの次の世代には惨めで寂しい未来しか待っていません。やるしか、ないのです。
そして僕は、中国の時代でもなく、アメリカの時代でもなく、「日本の時代」にすることも可能だと思っています。アメリカや中国がやろうとしているのだから、日本にもできないはずがない。彼ら以上にがんばれば、きっとできるはず。そんなふうに腹の据わったド根性と、わくわくするような大きなビジョンが今の日本に一番足りないのだと思いますし、もし、そうした夢を描けるとしたら、そこには僕たちの世代が、生涯をかけて目指すだけの価値が充分にあるはず。
逆に考えれば、これほどおもしろい時代もないと、僕は思うのです。
※ひさびさのブログの更新です。御無沙汰いたしまして申し訳ありません。
※※以下のデータを参照しました。
Carnegie Endowment "G20 in 2050"
Carnegie Endowment "The World Order in 2050"
Photius Coutsoukis, "Total Population by Country, 1950, 2000, 2015, 2025, 2050" (Made from UNFPA data)
UNFPA, "State of World Population 2011"
Center of Policy Studies and the Impact Project
"Future Population Trend in China: 2005 to 2050"