さて。きょう選んだテーマについては、2002年に新田守氏が
これに似た趣旨のことを憂いておられます。
たぶん、憂慮している「核心部分」に差異はない?と思うのですが、最終的に「提示する結論」がわたしとは異なります。新田氏は「従来の訓令式を廃し、ヘボン式を採用せよ」と言っておられるのですが、わたしは「訓令式なら徹頭徹尾、訓令式の徹底を!」と主張したいのです。
どうして正反対の結論に至るのか、そのあたりを順にご説明してまいりましょう^^
今日の日本社会では「初等教育で《訓令式》のローマ字を習い、社会に出たら《ヘボン式》のローマ字を使う」という『知識の断絶』がまかり通っています。わたしを含めて、社会人になると《訓令式》のローマ字は五十音をどう綴るのか? さえ忘れてしまいます^^;
念のため、【画像(上)】に両者の書き方の違いを例示しておきます。ナンでもカンでも、カ行~ワ行を2対のアルファベットで規則正しく示そう、とするのが《訓令式》、そうではなく、英語圏の人がイメージする発声に近似するよう「文字の規則性より音の親和性」に合わせたのが《ヘボン式》ですね。
本年度は、小学校3年生で《訓令式》ローマ字を習わせる、というのが文科省の要綱です。このことは、パソコン教育で『ローマ字変換』を円滑に進めるため、と理解されています。この子たちも英語を習うようになると、今度は《ヘボン式》で書かれた教科書と遭遇し、アタマが混乱することになります。
> Hello, Hiroshi. How are you ?
どうして「hirosi でなく hiroshi」と綴るのか、最初は理解できません。が、次第に「国際化の進む世間に流通している《アルファベット表記》は、《ヘボン式》なのだ」ということに気がついてきます。いずれは「小学校の先生にダマされてた!」と合点し、《ヘボン式》のローマ字感覚へと「改宗して」ゆくのです。
が。
問題は、(新田氏も指摘するように)幼いころに《訓令式》を詰め込まれたアタマでは、アルファベットの発声観念が狂わされてしまっていて、中学生まで放っておかれたら「矯正が効かなくなっている」ということです。《訓令式》ローマ字学習は結果的に、「英語が正しい発音でしゃべれない」という致命的なダメージを生徒らに負わせてしまうのです。
たとえば、わたしたちのアタマには『T』=『タチツテト』という発声観念が植え付けられてしまっています。もちろん英語の『T』は、実際には『タチツテト』とは発声しません。まあ、『TU』が《訓令式》で教わった『ツ』の音じゃなく、あえて言えば『チュ』に近い・・・くらいはワカるようになります。新田氏は、「だから最初から、小学生に《ヘボン式》を教えよ」と説かれているのです。が、わたしは「それでも不十分だ」と思います。
たしかに《ヘボン式》の『ツ』は『TSU』であって、五十音を「英語読み音」基準で近似させている・・・という評価はできます。しかし逆に、もし『TU』と綴られた英語を見たときには『???』と(まるきり)読めないか、結局は『ツ?』と発声し間違える状況に変わりはないのです。※ちなみに《ヘボン式》の『チュ』は『CHU』であって、『T』を使わない。
結局のところ、英語発音と日本語表記は、同じアルファベットに対しても「違う」のだ・・・・この根本(つか、真実)を、小学校3年生から(ダマすことなく)教え込む以外に、この「アルファベットから発声がイメージされない障害」を根絶する道はない。わたしはそう確信するのです。パソコン教育に便利だとか、そんな一過性の社会の都合でもって「安易に嘘を教える」から話がオカしくなるのです。
で、わたしの理想とする《ローマ字教育》は、《訓令式》を徹底する!という根本に帰します。
このとき、これまでは子供に『TA=タ』という日本語発音で覚えさせていました。その「発音教育」をやめるのです。この時点で、世の中には英語を話す人がたくさん暮らしていて、その人たちがどうアルファベットを読むのか。アルファベットを日常語とする人たちの「発音」でアルファベットを読みなさい、と教えます。
具体的に・・・たとえば「TA TI TU TE TO」を英語圏の人たちは、日本人が「タ チ ツ テ ト」と発声するときほど、舌先を前方には出しては発しません。彼ら肉食系人種の舌は(無言で黙っているとき)日本人より「立って」いて、日本語のタ行のように、やたら前歯の裏っかわ辺りにまでくっ付けた発声法はしないのです。そのことを、アタマの柔らかい小学生の時分に身体(=感覚)でイメージさせる教育が必要です。
わたしなりに教えるとしたなら、まず日本語で「ラ リ ル レ ロ」と子供に言わせます。
それがアメリカ人の「T」を発声するときの舌の位置です。タ行のときより、2センチくらい後方の口蓋に舌を着けていますよね。
で、「その口の格好をしたまま、強引に喉の奥から タ! チ! ツ! テ! ト! と言ってみて♪ 」と呼びかけるワケです。もう具体的にはカナで表記できない音になってます^^;が、 この 「(ル)ァ (ル)ィ (ル)ゥ (ル)ェ (ル)ォ」? みたいな発声が 「TA TI TU TE TO」 です。
『CITY』は書き文字としては「シティ」ですが、読み音では「スィ(ル)ィー」です。『TOWN』も「タウン」じゃなく「(ル)ォウン」です。この基礎が出来てれば、中学校で(英語の)発音に苦労することはありません。
で、結果的に「タ チ ツ テ ト」の読み音に相当するアルファベットはない。もともと違う言葉なんだから、あるハズがない。だけど、比較的「(ル)ァ (ル)ィ (ル)ゥ (ル)ェ (ル)ォ」と「タ チ ツ テ ト」は似通って聞こえるから、日本語のタ行をキマリゴトとして「TA TI TU TE TO」と書くことにしましょうね、それが『ローマ字』なんですよ、と。《訓令式》の根本を、そう教えるワケです。
このようにしてローマ字教育から「50音読み」の悪習を削り、カナ読みとは異なる50通りの英語発音を加えます。
「ローマ字はカナ文字をアルファベットで「書く」ための記号であって、カナ文字通りに「読む」ことはできないんだよ。世の中には、カナ文字を読まない人(=他言語人)も大勢いるんだよ」。。。。そういう「あたりまえの事実」を小さなうちからイメージさせる。そうすることで、結果的に国語能力も英語能力も “まっすぐに” 豊かな人になってゆく ─── わたしにはそう思えてならないのでありますね。はい。