今回は、私の芝居仲間、ジョーくんという青年の書いた作品を掲載します。
本当は、ばかいわシアターコンテスト用に書いてくれたものだったのですが、私のところに持って来てくれたのが締め切り過ぎた後だったので、しばらく保留になっていたものです。
発表の場がないと寂しいので、私のブログ上ででも、一応は「発表」したことになるかな、と思い……マシかな、と思い、この時点でアップすることに決めました。
では、ジョーくん作「かっちゃん」、以下、お楽しみください。
* * *
おとうさんが急にいなくなった。
それは冬の痛いような冷たい風をお父さんの後ろでやりすごしていた僕には大問題だった。
でも、そのうちいつものように
「ただいま。」
なんていって帰ってくると思っていた。
そして、僕を見つけて帰ってきたぞ~と言いながら僕をぎゅっとしてくれると思っていた。
お母さんにその話をしたら
「お父さんは遠いところに行ってしまって、もう本当に帰ってこないのよ…。」
と、僕に、なみだをぽろぽろと流しながら言ったけれども、
「ただ遠いところに行っちゃったんなら、帰ってくるかもしれないのに…」
僕はお母さんが泣いている意味が分からなかったので、そんな風に行ったら、お母さんはまたなみだが沢山流れた。
その後、家の外を歩いていると、よく近くのおばちゃんたちが、
「いろいろと大変だったわね。」
「つらかったね。」
「頑張ってね。」
などと色々話しかけられたけど、そんなことを言われる意味が分からなかったので、気にしないことにした。
そんな頃から、一緒に遊んでいた友達も僕のことを遠くで変な目で見てるし、なんかもやもやしたので、
僕はだんだんと一人でいることが多くなった。
最初はひとりで遊んでいてもあんまり面白くなかったけど、だんだんと一人遊びのコツをつかんで、それなりに楽しくなってきた。
寒かった季節が暖かくなってきた頃、いつも探検してる森林公園で遊んでいると、いつもと違うことが起きた。
「おい!おまえ一人か?」
いきなり声が聞こえてきた。声のほうを向いてみると僕と同じくらいの男の子が腕を組みながらこっちをみていた。
誰に声をかけたのかな?と周りを見回しても、僕しかいなかった。僕に話しかけたみたいだった。
でも、僕はめんどくさそうだし、さっき腕を組んでいるときに、ひじに怪我があったので少し怖い感じがしたのでシカトすることにした。
そいつに背を向けて地面で動いている虫の観察に戻った。
ドカ!
ものすごい衝撃が背中に当たって、前にごろごろと吹っ飛ばされた。
痛いのと、びっくりしたので目をぱちぱちしていると、あいつの足の裏が見えた。
どうやらあのあがっている足で蹴られたらしい。
「なんだよ…」
むかつきはしたけど、関わったらどうなるかわからないので、痛いのを我慢してシカトを続けることにした。
「てめぇ!俺様をシカトするとはいい度胸してるじゃねぇか!?ぶっとばす!!」
なにか叫んでるみたいだけど、無視、虫~…
ゴ!
今度は横腹に衝撃が走った。
あまりにも痛くて倒れて息が出来なくなってしまった。
かはっと息を吸いたくて上を向いたとき、あいつと目が合った。
腕を組んでにやっと笑っていやがる。
「くそっ!なんなんだよ!」
と、思いっきり言いたかったが、お腹がいたくて、かすれた小さな音しか出なかった…
「俺様の勝ちだな!おまえは今日から俺様の家来だ!名前は?」
「ふざけんなよ!誰が家来になるかよ…」
小さい声でいってみたけど、あいつには聞こえなかったみたいで、
「名前を言えといってるだろ!」
と怒鳴られたので、
「ひろかず…。」
としぶしぶ答えた。
「ひろかずか。よし!俺様はひろと呼ぶからな」
と言って僕のことを起き上がらせて、砂や葉っぱなどの汚れをぱんぱんと落としてくれて、大丈夫か?なんて声をかけてくれた。
蹴ったり、助けたりとよくわからないやつだったけど、
「おれはかずやだ。じゃあ、いくぞ!」
と言われて、なぜかそのままついていっても良いかな?と思ってついていくことにした。
それが僕とかっちゃんの出会いだった。
それから、僕らは毎日一緒に遊んだ。
特においかけっこが多く二人で日が暮れるまで走り回っていた。
ちなみになぜか僕ばかりが鬼をやらされた。
しかも、かっちゃんの足がとても早くて追いつくことが全然出来なくて、かっちゃんにいつも馬鹿にされた。
家に帰ると、毎日どんな遊びをかっちゃんとしてるかをお母さんに話すと、いつも少し悲しそうな顔をしたあと、笑顔になってよかったね。と言った。
僕は毎日がとっても楽しいのに、なんでお母さんは楽しい話を楽しそうに聞いてくれないのかな?と思ってた。
でも、沢山走って疲れてるから、ご飯を食べたらすぐに寝ちゃうので、あまり深く考えることは無かった。
かっちゃんと出会って、夏が過ぎて秋になった。
かっちゃんと毎日追いかけっこをしていることに変わりはなかったけど、すこしづつだけと、かっちゃんに追いつけるようになってきた。
かっちゃんも本気になって逃げて、もっと追いかけっこが楽しくなってきていた。
「今度、町内会の運動会があるんだけど、ひろくん出てみない?」
夜ご飯を食べていたら急におかあさんから言われた。
「めんどくさそうだからいいよ。」
みんなと一緒になにかやるのなんて嫌だから僕は断った。
でも、
「いつも町とか公園を一人で走ってるよりも、みんなと運動会で一緒に走ったほうが絶対におもしろいわよ?」
お母さんがよくわからないことを言って、僕を無理やり出させようとした。
「一人じゃないよ?いつもかっちゃんと一緒だって言ってるっじゃん。意味わかんないよ。」
そういうと、お母さんはまた少し悲しそうな顔をしたけど、
「じゃあ、かっちゃんも誘っておいで。二人でくればいいでしょ?準備はお母さんがしておくからね?」
と、僕は無理やり運動会に出ることにされてしまった。
かっちゃんに話したら、めんどくさそうに暇だったら言ってやるよ。
と言って、話が終わってしまった。
そして、運動会当日。
かっちゃんを探したけれど、かっちゃんは来ていないらしい。やっぱりめんどくさかったのかな?と思い
来ないものと思った。
お母さんの話によると、僕はかけっこに出ることになっているらしい。
走ることはかっちゃんと毎日走っているから、それでいいと思った。
かけっこが始まり、だんだんと僕の順番が近づいてきたときに、
「よぉ。」
なんてかっちゃんが声をかけてきた。
「かっちゃん!かっちゃんの足の速さなら絶対に一番だと思ってたのに受付終わっちゃったから、かっちゃん参加できないよ?もっと早く来てくれれば良かったのに。」
「いいんだよ。おれは一番とか興味がないから。おれはお前と走るのが楽しかったんだから。」
「なんか、照れちゃうなぁ。ありがとう」
「きもちわる!まぁ、いつもおれと走ってたんだから、絶対に一番とってこいよな?」
「うん。」
僕はかっちゃんと約束をして、いよいよ僕の番になった。
係りのおじさんが
「位置について、よーい。」
言ったときに、僕の隣にかっちゃんが急に出てきて、ニコッっと笑った。
僕はとってもビックリしたけど、すぐに
「どん。」
といわれたので、一斉に走り出した。
やっぱりかっちゃんは早い。みんなの一番前を走っている。僕も負けるものかと、一所懸命にかっちゃんの背中を追いかけた。
だんだんかっちゃんの背中が近づいてきて、それと同時にゴールも近くなってきている。
あと少ししかない。というところで、かっちゃんに並べた!
そして、最後の最後で
かっちゃんを抜いて一位!!
やったーー!
僕はかっちゃんに初めて勝てた喜びで大きな声をあげていた。
かっちゃん自慢しようと思って、あたりを見回すと、
わぁと学校のみんなが寄ってきて、
「ひろくん足速いね~」
「おまえ、すごいな」
「ダントツで一番じゃないか!」
などと僕をちやほやしてくれた。
僕は避けられていたと思っていたので、とっても戸惑ったけれども、うれしい気持ちがいっぱいになった。
この嬉しさをかっちゃんに伝えたかったけど、いくら探してもかっちゃんはいなかった。
仕方がなくお母さんのところに戻ると、お母さんとお隣のおばちゃんが何かを話していた。
「やっぱり、親子って似るものねぇ。かずやさんも陸上やってたんでしょ?」
「えぇ。あの子もあの人みたいに前をしっかり見て、走ってもらいたいですね。」
「お母さん!一番取ったよ!みんながすっごくほめてくれたんだ!」
僕は難しいお話はよく分からなかったので、僕はお母さんにもほめてもらいたくて大きな声でお母さんに声をかけた。
「とっても早かったわね。一番おめでとう。よくやったわねぇ。毎日いつも一人でいろんなところ走っていたものね~。」
ん?一人?お母さんが変なことを言っている。
「なんで?ぼくはいつもかっちゃんとおいかけっこしてるって話したじゃん。一人なんかじゃないよ?さっきのかけっこだって、かっちゃんを抜いて一番だったんだから!」
僕が一生懸命に否定すると、
「いつも思っていたけれど、ひろくんはいつも一人で町の中や公園を走っていたのよ?かっちゃんなんて子はこの辺には住んでないんだよ。それにさっきのかけっこだって、ひろ君が一人でダントツ一位だったじゃない。」
と、少し悲しげにそして不思議そうに首をかしげた。
隣でおばちゃんもうなずいていた。
「ちなみに、かっちゃんていう子のお名前は?」
おばちゃんが聞いてきた。
「かずやくんだよ?ひじに大きな怪我のあとがあって、足がとっても早いんだ!」
と僕のことのように自慢げにかっちゃんの話をすると、お母さんがとても驚いた顔をして、
「その子は、ひじに大きな怪我のあとがあって、足が速くて、かずやくん…。ひろくん!ちょっと、おうちに帰りましょう。」
お母さんはとても驚いてるのと困ったを足したような顔で僕を家に連れて帰った。
家に帰ると、お母さんはすぐに押し入れをごそごそと漁りだして、僕に一枚の写真をみせてくれた。
「かずやくんてこの子じゃないかしら?」
ぼくはその写真をみてとてもびっくりした!そこには確かにかっちゃんがいつものように腕を組んで写真に写っているのだから!
「かっちゃんだ!なんでお母さんがかっちゃんの写真を持ってるの?」
僕はとても不思議でお母さんに尋ねた。
すると、お母さんが急に泣き出して
「これはね、お父さんの小さい頃の写真なの。昔、事故でひじのところに傷跡ができちゃったんだって。でも、そんなこと気にしないで、どうどうと傷跡を見せてどうだ!ってよく私に自慢していたのよ?」
「お父さん?なんでお父さんの子どもの頃が僕と一緒に追いかけっこできるんの?おかしいよ?それにお父さんは大人じゃないか!」
僕には意味がまったくわからなくて、大きな声になってしまった。
「きっとね?ひろくんが一人ぼっちで淋しそうだったから、遊び相手になってくれてたの。しかも、たくさん走って、みんなの人気者にまでしてくれた。お父さん心配性だったから。」
ぼろぼろとたくさんの涙を流しながら、お母さんが僕をぎゅっと抱きしめてくれた。
そしたら、急に僕も涙がでてきた。
「お父さんに会えないと思ったら、毎日一緒にいてくれたんだね。僕の為に。友達になってくれて…。」
会いに行かなくちゃ!そして、たくさんのありがとうを伝えなきゃ!
「かっちゃんに会ってくる!」
僕は急いで家を飛び出した。
そして、かっちゃんと初めて会った森林公園に着くと、かっちゃんは少し淋しそうな顔をして僕を待っていた。
「かっちゃ。。。お父さん?」
恐る恐る聞いてみると、
「なんだやっぱりバレちゃったのか。せっかく毎日ひろと遊ぶの楽しかったのにな。」
と空を見上げながらお父さんはいった。
「ばれちゃったらしょうがない。お父さんはもうここには居れないんだ。またさようならだな。」
「なんで?これからはいつものお父さんで戻ってきてくれればいいじゃん!それがだめなら今までみたいに毎日遊ぼうよ!」
またお父さんがいなくなっちゃうなんて考えられない僕は必死に止めようとした。
「それはな、だめなんだよ。そういう決まりだったんだ。それに、おれが毎日遊ばなくても、お前はもうたくさんの友達ができただろ?だからもう大丈夫だよ。」
「いやだ!いなくなっちゃうみたいなこと言わないでよ!」
僕はいつのまにかぼろぼろと涙が止まらなかった。
「大丈夫。おまえは一人じゃない。みんないるし、お父さんもいつも見ているからな。」
ぎゅっといつもみたいに抱きしめてくれた。いつも包まれていたあのあたたかさだった。
「じゃあな。」と耳元で聞こえた声を最後にお父さんのぬくもりがふっと消えた。
「お父さん…」
僕の涙は止まらなくて、ぬくもりはなくなってしまったけど、お父さんが近くでみているような感覚があった。
「これからは一人じゃない。」
僕はそう感じ取って、家にいるお母さんのところに走って戻っていった。
「お母さん!僕、お父さんみたいに足がとっても速い人になってみせるよ!」
そういうと、全て分かったかのようにひとつだけうなずいて、
「じゃあ、これからも頑張って走っていこうね!」
とお母さんは満面の笑顔をぼくにくれた。
10年後…
とある陸上競技場。
陸上大会の決勝。
僕はそこのランナーの一人。
これで勝てば日本一。負けられない。
とても緊張しながら、スタートラインに立ったとき隣に気配を感じた。
「今度はおれも負けないからな。」
急に現れた人に驚きはしたものの、僕は笑顔になって
「今度だって僕が勝つんだからね!」
二人が前を向いたと同時に
パンとスタートを告げる鉄砲の音が競技場に響き渡った。
本当は、ばかいわシアターコンテスト用に書いてくれたものだったのですが、私のところに持って来てくれたのが締め切り過ぎた後だったので、しばらく保留になっていたものです。
発表の場がないと寂しいので、私のブログ上ででも、一応は「発表」したことになるかな、と思い……マシかな、と思い、この時点でアップすることに決めました。
では、ジョーくん作「かっちゃん」、以下、お楽しみください。
* * *
おとうさんが急にいなくなった。
それは冬の痛いような冷たい風をお父さんの後ろでやりすごしていた僕には大問題だった。
でも、そのうちいつものように
「ただいま。」
なんていって帰ってくると思っていた。
そして、僕を見つけて帰ってきたぞ~と言いながら僕をぎゅっとしてくれると思っていた。
お母さんにその話をしたら
「お父さんは遠いところに行ってしまって、もう本当に帰ってこないのよ…。」
と、僕に、なみだをぽろぽろと流しながら言ったけれども、
「ただ遠いところに行っちゃったんなら、帰ってくるかもしれないのに…」
僕はお母さんが泣いている意味が分からなかったので、そんな風に行ったら、お母さんはまたなみだが沢山流れた。
その後、家の外を歩いていると、よく近くのおばちゃんたちが、
「いろいろと大変だったわね。」
「つらかったね。」
「頑張ってね。」
などと色々話しかけられたけど、そんなことを言われる意味が分からなかったので、気にしないことにした。
そんな頃から、一緒に遊んでいた友達も僕のことを遠くで変な目で見てるし、なんかもやもやしたので、
僕はだんだんと一人でいることが多くなった。
最初はひとりで遊んでいてもあんまり面白くなかったけど、だんだんと一人遊びのコツをつかんで、それなりに楽しくなってきた。
寒かった季節が暖かくなってきた頃、いつも探検してる森林公園で遊んでいると、いつもと違うことが起きた。
「おい!おまえ一人か?」
いきなり声が聞こえてきた。声のほうを向いてみると僕と同じくらいの男の子が腕を組みながらこっちをみていた。
誰に声をかけたのかな?と周りを見回しても、僕しかいなかった。僕に話しかけたみたいだった。
でも、僕はめんどくさそうだし、さっき腕を組んでいるときに、ひじに怪我があったので少し怖い感じがしたのでシカトすることにした。
そいつに背を向けて地面で動いている虫の観察に戻った。
ドカ!
ものすごい衝撃が背中に当たって、前にごろごろと吹っ飛ばされた。
痛いのと、びっくりしたので目をぱちぱちしていると、あいつの足の裏が見えた。
どうやらあのあがっている足で蹴られたらしい。
「なんだよ…」
むかつきはしたけど、関わったらどうなるかわからないので、痛いのを我慢してシカトを続けることにした。
「てめぇ!俺様をシカトするとはいい度胸してるじゃねぇか!?ぶっとばす!!」
なにか叫んでるみたいだけど、無視、虫~…
ゴ!
今度は横腹に衝撃が走った。
あまりにも痛くて倒れて息が出来なくなってしまった。
かはっと息を吸いたくて上を向いたとき、あいつと目が合った。
腕を組んでにやっと笑っていやがる。
「くそっ!なんなんだよ!」
と、思いっきり言いたかったが、お腹がいたくて、かすれた小さな音しか出なかった…
「俺様の勝ちだな!おまえは今日から俺様の家来だ!名前は?」
「ふざけんなよ!誰が家来になるかよ…」
小さい声でいってみたけど、あいつには聞こえなかったみたいで、
「名前を言えといってるだろ!」
と怒鳴られたので、
「ひろかず…。」
としぶしぶ答えた。
「ひろかずか。よし!俺様はひろと呼ぶからな」
と言って僕のことを起き上がらせて、砂や葉っぱなどの汚れをぱんぱんと落としてくれて、大丈夫か?なんて声をかけてくれた。
蹴ったり、助けたりとよくわからないやつだったけど、
「おれはかずやだ。じゃあ、いくぞ!」
と言われて、なぜかそのままついていっても良いかな?と思ってついていくことにした。
それが僕とかっちゃんの出会いだった。
それから、僕らは毎日一緒に遊んだ。
特においかけっこが多く二人で日が暮れるまで走り回っていた。
ちなみになぜか僕ばかりが鬼をやらされた。
しかも、かっちゃんの足がとても早くて追いつくことが全然出来なくて、かっちゃんにいつも馬鹿にされた。
家に帰ると、毎日どんな遊びをかっちゃんとしてるかをお母さんに話すと、いつも少し悲しそうな顔をしたあと、笑顔になってよかったね。と言った。
僕は毎日がとっても楽しいのに、なんでお母さんは楽しい話を楽しそうに聞いてくれないのかな?と思ってた。
でも、沢山走って疲れてるから、ご飯を食べたらすぐに寝ちゃうので、あまり深く考えることは無かった。
かっちゃんと出会って、夏が過ぎて秋になった。
かっちゃんと毎日追いかけっこをしていることに変わりはなかったけど、すこしづつだけと、かっちゃんに追いつけるようになってきた。
かっちゃんも本気になって逃げて、もっと追いかけっこが楽しくなってきていた。
「今度、町内会の運動会があるんだけど、ひろくん出てみない?」
夜ご飯を食べていたら急におかあさんから言われた。
「めんどくさそうだからいいよ。」
みんなと一緒になにかやるのなんて嫌だから僕は断った。
でも、
「いつも町とか公園を一人で走ってるよりも、みんなと運動会で一緒に走ったほうが絶対におもしろいわよ?」
お母さんがよくわからないことを言って、僕を無理やり出させようとした。
「一人じゃないよ?いつもかっちゃんと一緒だって言ってるっじゃん。意味わかんないよ。」
そういうと、お母さんはまた少し悲しそうな顔をしたけど、
「じゃあ、かっちゃんも誘っておいで。二人でくればいいでしょ?準備はお母さんがしておくからね?」
と、僕は無理やり運動会に出ることにされてしまった。
かっちゃんに話したら、めんどくさそうに暇だったら言ってやるよ。
と言って、話が終わってしまった。
そして、運動会当日。
かっちゃんを探したけれど、かっちゃんは来ていないらしい。やっぱりめんどくさかったのかな?と思い
来ないものと思った。
お母さんの話によると、僕はかけっこに出ることになっているらしい。
走ることはかっちゃんと毎日走っているから、それでいいと思った。
かけっこが始まり、だんだんと僕の順番が近づいてきたときに、
「よぉ。」
なんてかっちゃんが声をかけてきた。
「かっちゃん!かっちゃんの足の速さなら絶対に一番だと思ってたのに受付終わっちゃったから、かっちゃん参加できないよ?もっと早く来てくれれば良かったのに。」
「いいんだよ。おれは一番とか興味がないから。おれはお前と走るのが楽しかったんだから。」
「なんか、照れちゃうなぁ。ありがとう」
「きもちわる!まぁ、いつもおれと走ってたんだから、絶対に一番とってこいよな?」
「うん。」
僕はかっちゃんと約束をして、いよいよ僕の番になった。
係りのおじさんが
「位置について、よーい。」
言ったときに、僕の隣にかっちゃんが急に出てきて、ニコッっと笑った。
僕はとってもビックリしたけど、すぐに
「どん。」
といわれたので、一斉に走り出した。
やっぱりかっちゃんは早い。みんなの一番前を走っている。僕も負けるものかと、一所懸命にかっちゃんの背中を追いかけた。
だんだんかっちゃんの背中が近づいてきて、それと同時にゴールも近くなってきている。
あと少ししかない。というところで、かっちゃんに並べた!
そして、最後の最後で
かっちゃんを抜いて一位!!
やったーー!
僕はかっちゃんに初めて勝てた喜びで大きな声をあげていた。
かっちゃん自慢しようと思って、あたりを見回すと、
わぁと学校のみんなが寄ってきて、
「ひろくん足速いね~」
「おまえ、すごいな」
「ダントツで一番じゃないか!」
などと僕をちやほやしてくれた。
僕は避けられていたと思っていたので、とっても戸惑ったけれども、うれしい気持ちがいっぱいになった。
この嬉しさをかっちゃんに伝えたかったけど、いくら探してもかっちゃんはいなかった。
仕方がなくお母さんのところに戻ると、お母さんとお隣のおばちゃんが何かを話していた。
「やっぱり、親子って似るものねぇ。かずやさんも陸上やってたんでしょ?」
「えぇ。あの子もあの人みたいに前をしっかり見て、走ってもらいたいですね。」
「お母さん!一番取ったよ!みんながすっごくほめてくれたんだ!」
僕は難しいお話はよく分からなかったので、僕はお母さんにもほめてもらいたくて大きな声でお母さんに声をかけた。
「とっても早かったわね。一番おめでとう。よくやったわねぇ。毎日いつも一人でいろんなところ走っていたものね~。」
ん?一人?お母さんが変なことを言っている。
「なんで?ぼくはいつもかっちゃんとおいかけっこしてるって話したじゃん。一人なんかじゃないよ?さっきのかけっこだって、かっちゃんを抜いて一番だったんだから!」
僕が一生懸命に否定すると、
「いつも思っていたけれど、ひろくんはいつも一人で町の中や公園を走っていたのよ?かっちゃんなんて子はこの辺には住んでないんだよ。それにさっきのかけっこだって、ひろ君が一人でダントツ一位だったじゃない。」
と、少し悲しげにそして不思議そうに首をかしげた。
隣でおばちゃんもうなずいていた。
「ちなみに、かっちゃんていう子のお名前は?」
おばちゃんが聞いてきた。
「かずやくんだよ?ひじに大きな怪我のあとがあって、足がとっても早いんだ!」
と僕のことのように自慢げにかっちゃんの話をすると、お母さんがとても驚いた顔をして、
「その子は、ひじに大きな怪我のあとがあって、足が速くて、かずやくん…。ひろくん!ちょっと、おうちに帰りましょう。」
お母さんはとても驚いてるのと困ったを足したような顔で僕を家に連れて帰った。
家に帰ると、お母さんはすぐに押し入れをごそごそと漁りだして、僕に一枚の写真をみせてくれた。
「かずやくんてこの子じゃないかしら?」
ぼくはその写真をみてとてもびっくりした!そこには確かにかっちゃんがいつものように腕を組んで写真に写っているのだから!
「かっちゃんだ!なんでお母さんがかっちゃんの写真を持ってるの?」
僕はとても不思議でお母さんに尋ねた。
すると、お母さんが急に泣き出して
「これはね、お父さんの小さい頃の写真なの。昔、事故でひじのところに傷跡ができちゃったんだって。でも、そんなこと気にしないで、どうどうと傷跡を見せてどうだ!ってよく私に自慢していたのよ?」
「お父さん?なんでお父さんの子どもの頃が僕と一緒に追いかけっこできるんの?おかしいよ?それにお父さんは大人じゃないか!」
僕には意味がまったくわからなくて、大きな声になってしまった。
「きっとね?ひろくんが一人ぼっちで淋しそうだったから、遊び相手になってくれてたの。しかも、たくさん走って、みんなの人気者にまでしてくれた。お父さん心配性だったから。」
ぼろぼろとたくさんの涙を流しながら、お母さんが僕をぎゅっと抱きしめてくれた。
そしたら、急に僕も涙がでてきた。
「お父さんに会えないと思ったら、毎日一緒にいてくれたんだね。僕の為に。友達になってくれて…。」
会いに行かなくちゃ!そして、たくさんのありがとうを伝えなきゃ!
「かっちゃんに会ってくる!」
僕は急いで家を飛び出した。
そして、かっちゃんと初めて会った森林公園に着くと、かっちゃんは少し淋しそうな顔をして僕を待っていた。
「かっちゃ。。。お父さん?」
恐る恐る聞いてみると、
「なんだやっぱりバレちゃったのか。せっかく毎日ひろと遊ぶの楽しかったのにな。」
と空を見上げながらお父さんはいった。
「ばれちゃったらしょうがない。お父さんはもうここには居れないんだ。またさようならだな。」
「なんで?これからはいつものお父さんで戻ってきてくれればいいじゃん!それがだめなら今までみたいに毎日遊ぼうよ!」
またお父さんがいなくなっちゃうなんて考えられない僕は必死に止めようとした。
「それはな、だめなんだよ。そういう決まりだったんだ。それに、おれが毎日遊ばなくても、お前はもうたくさんの友達ができただろ?だからもう大丈夫だよ。」
「いやだ!いなくなっちゃうみたいなこと言わないでよ!」
僕はいつのまにかぼろぼろと涙が止まらなかった。
「大丈夫。おまえは一人じゃない。みんないるし、お父さんもいつも見ているからな。」
ぎゅっといつもみたいに抱きしめてくれた。いつも包まれていたあのあたたかさだった。
「じゃあな。」と耳元で聞こえた声を最後にお父さんのぬくもりがふっと消えた。
「お父さん…」
僕の涙は止まらなくて、ぬくもりはなくなってしまったけど、お父さんが近くでみているような感覚があった。
「これからは一人じゃない。」
僕はそう感じ取って、家にいるお母さんのところに走って戻っていった。
「お母さん!僕、お父さんみたいに足がとっても速い人になってみせるよ!」
そういうと、全て分かったかのようにひとつだけうなずいて、
「じゃあ、これからも頑張って走っていこうね!」
とお母さんは満面の笑顔をぼくにくれた。
10年後…
とある陸上競技場。
陸上大会の決勝。
僕はそこのランナーの一人。
これで勝てば日本一。負けられない。
とても緊張しながら、スタートラインに立ったとき隣に気配を感じた。
「今度はおれも負けないからな。」
急に現れた人に驚きはしたものの、僕は笑顔になって
「今度だって僕が勝つんだからね!」
二人が前を向いたと同時に
パンとスタートを告げる鉄砲の音が競技場に響き渡った。