絵本作家の伊勢英子氏は夫のノンフィクション作家、柳田邦男
氏との対談集「はじまりの記憶」の中で実父についての思い出
を語っている、銀行員で退職後は画家として生きた父とのエピ
ソードは心温まるものがあった。
進行がんで余命4ヵ月と告知された父は家で絵を描き続けてア
トリエで死ぬ生き方を選んだ、酸素の管を鼻につけモルヒネで
痛みを抑えながら展覧会出品の絵を描き続け10ヵ月を見事に
生ききった、それは壮絶という言葉など全然にあわないユーモ
アとペーソスにあふれた10ヵ月だったという。
ユニークなのは告知をうけてまもなく誕生日に免許証の書き換
えに行った、もう自分で運転できない体力だったからタクシー
での往復「もうすぐ死ぬのに更新してどうするの?」という母
に「ばか、免許証がないとあの世で運転できないじゃないか」
といった父。
67キロあった体重が50キロになりMSコンチン止血剤、咳止
め、安定剤など14種類もの薬を服用していたそんな時期でさ
え飄々としていた、泣くかわりに笑い、周囲の人をも笑わせ7
2歳の生涯、死を目前にしてこんな生き方ができるなんて、素
晴らしい人間力に心を打たれた。