読書日記

いろいろな本のレビュー

日中戦争知られざる真実 黄文雄 光文社

2009-03-02 09:35:15 | Weblog

日中戦争知られざる真実 黄文雄 光文社



 黄氏は台湾出身で、一貫して反中国のスタンスで評論活動をしている。彼の本のタイトルはドキッとするようなものが多いので、キワモノ的に見られる危険性があるが、まともな内容のものも多い。本書なども日中戦争史を丹念に調べて書かれており、岩波から出してもいいくらいの価値がある。
 本書のポイントは、これまで間違いだらけだった「日中戦争」の真相を徹底探究!というもので、コピーは、反日・侮日・排日の挑発に乗った日本は、中国の「百年内戦」というブラックホールに呑み込まれた!である。日本が中国を侵略して、中国人民に多大の被害を与えたというのが常識だが、黄氏のは中国の内戦に引きずり込まれて、結局共産党が漁夫の利を得たという図式である。これもあらかじめ著者が描いた構図に、歴史的事実を当てはめたという批判を受けるような気もするが、目からウロコの部分もある。蒋介石の国民党は多くの軍閥と戦いながら全土統一を目指していた。軍閥を打倒したあと、毛沢東の共産党が当面の敵になった。そこへ日本軍が闖入してきたわけだ。国民党も抗争と分裂を繰り返し、最後には蒋介石の重慶政府対王兆銘の南京政府という「徹底抗日」路線と「和平救国」路線の対立になった。近衛首相が「蒋介石を相手とせず」という声明を出したいきさつも国民党の内紛と関連している。共産党はこの間、汪兆銘の国共合作で洞が峠を決め込んで政権奪取の機会を窺っていたのだ。泥沼の内戦は日本軍という異物によって抗体(国共合作)ができて、その後、抗体の中で異変が起こり、共産党が勝利した。蒋介石はアメリカの軍事・経済的援助の下で、共産党軍に対して絶対的優位に立ちながら最後に負けたのは、国民党の自滅であった。抗日戦で消耗したのである。
 黄氏曰く、弱体化したロシアは、ロシア革命によって「帝政→共産党独裁」のかたちで復活した。だがそれも七十数年で再び滅びてしまった。中華人民共和国の成立も、腐敗して分裂した中国が社会主義革命を経て一時的に「共産党(社会主義)中華帝国」として東アジア世界に復活したというだけのことであると。最近の中国の状況を見るにつけ、真実を言い当てていると思う。