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浴衣着て全身の皺のばしけり 米津勇美
一読、小さく笑ってしまったのは、「全身の皺」をのばしている人の姿を思い浮かべてしまったからです。浴衣の皺かもしれませんが、むしろ本人の心身の皺のことを詠っているように感じられます。仕事着を脱ぎ、浴衣に着替えて、大きく伸びでもしたところでしょうか。もしかしたら、休暇をとって温泉宿にでも到着した時のことなのかもしれません。読んでいるだけでぐっと背筋を伸ばしてみたくなるような、心地よさを感じます。洋服の皺を伸ばすならもちろんアイロンでしょうが、体の皺をのばすとなれば、マッサージチェアーに座るか、あるいは人の手に揉みほぐしてもらうことになるのでしょう。それにしてもどうして生き物というのは、体に触れられて適度な力を加えられることが、あれほど気持ちのよいものなのでしょうか。わたしの場合、最近はもっぱら我が家の犬をそばにおいて、体中をさわってあげることに終始しています。そのうち犬は、あまりの気持ちよさに仰向けになって、脚をピンと伸ばしてきます。その姿を見ているだけで、心の中に一日たまったわたしの皺も、自然と伸びてくるようです。「朝日俳壇」(「朝日新聞」2010年7月11日付)所載。(松下育男)
浴衣】 ゆかた
◇「湯帷子」(ゆかたびら) ◇「古浴衣」 ◇「初浴衣」 ◇「藍浴衣」 ◇「浴衣着」
元は入浴後などに素肌にじかに来た「湯帷子」(ゆかたびら)の略。今では、夏に着る木綿の白生地を藍色などに染めたりしたものをいう。
例句 作者
待針といふは佳き名の浴衣かな 鈴木栄子
浴衣にて鍵をしめをり古物商 川崎展宏
共に着て母若返る湯の浴衣 馬場移公子
浴衣着にかへて見てゐる鱚の海 飯田龍太
浴衣だけ着てみる遠き笛の音 林 翔
こいさんのまま老いたまふ浴衣かな 三村純也
わが浴衣子が着れば子の若さなる 吉野義子
いつ死ぬか解らぬいのち古浴衣 尾村馬人
借りて着る浴衣のなまじ似合ひけり 久保田万太郎