晩年も西瓜の種を吐きちらす 木忠栄
私にはもう、その心配はないけれど、見合いの席に出てくると困る食べ物が二つある。一つは殻つきの海老料理で、もう一つが西瓜だ。どちらも、格好をつけていては、食べにくいからである。海老に直接手を触れることなく、箸だけで処理して口元まで持ってくるような芸当は、とうてい私のよくするところではない。西瓜にしても、スプーンで器用に種を弾き出しながら上品に食べる自信などは、からきしない。第一、西瓜をスプーンですくって食べたって、美味くないだろうに。ガブリとかぶりついて、種ごと実を口の中に入れてしまい、ぺっぺっと吐きちらすのが正しい食べ方だ。吐きちらすとまではいかなくとも、種はぺっぺっと出すことである。私が子供のころは、男も女もそうやって食べていたというのに、最近は、どうもいけない。だから、句の作者も、そんな風潮に怒っている。この句は、ついに生涯下品であった人のことを詠んでいるのではない。俺は死ぬまで、西瓜の種を吐きちらしてやるぞという「述志」の句なのだ。事は、西瓜の種には止まらない。世の中のあれやこれやが、作者は西瓜の食べ方のように気にいらないのである。個人誌「いちばん寒い場所」30号(1999年8月15日付)所載。(清水哲男)
【西瓜】 すいか(・・クワ)
◇「西瓜畑」 ◇「西瓜番」
ウリ科の蔓性一年草。夏から秋にかけての代表的果実。球形または楕円形で大きく、多くは果皮に縞模様がある。果肉は赤、まれに黄色。甘く多汁。
例句 作者
喪ごころの西瓜を提げてゆきにけり 北崎珍漢
知らぬ子の顔も並んで西瓜切る 谷山ちさと
教師車座西瓜を割れば若さ湧く 能村登四郎
浮いてゐし西瓜の何と重きこと 菅谷たけし
門川に西瓜冷やせる講の宿 田中柚子香
太陽の色を閉ぢこめたる西瓜 藤井啓子
西瓜割る水辺の匂ひ拡げつつ 野澤節子
初島に船さしかかる西瓜かな 藤田弥生
西瓜売りにゆく夏帽がへらへらす 中島南北