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新涼や持てば生まるる筆の影 鷹羽狩行
気象庁では2日、今年の夏を異常気象と発表した。異常気象とは「過去30年の観測に比して著しい偏りを示した天候」と定義されているという。尋常でないと公認された暑さではあるが、それでも夕方はめっきり早く訪れるようになり、朝夕には季節が移る用意ができたらしい風が通うようになった。先送りにしていたあれこれが気になりだすことこそ、ようやく人心地がついたということだろう。酷暑のなかでも日常生活はあるものの、要返信の手紙類は「とりあえず落ち着いたら…」の箱に仕分けられ、そろそろかなりの嵩になっている。掲句では、手紙の文面や、送る相手を思う前に、ふと筆の作る影に眼がとまる。真っ白な紙の上に伸びた影が、より目鼻のしっかりした秋を連れてくるように思える。書かねばならないという差し迫る気持ちの前で、ふと秋を察知したささやかな感動をかみしめている。やがて手元のやわらかな振動に従い、筆の影は静かに手紙の上を付いてまわることだろう。『十六夜』(2010)所収。(土肥あき子)
秋風はまだ暑い最中に思い出したように吹いて来る
それほどの長い時間ではないのだが詩人は敏感だ
毎日使用する筆を持って座す
障子に映る己の影がいつもよりも涼し気に見えたのかも知れない
己が影を筆の影 にするところが鷹羽狩行的と言わさせられえる (小林たけし)
【新涼】 しんりょう(・・リヤウ)
◇「秋涼し」 ◇「秋涼」(しゅうりょう) ◇「初涼」(しょりょう) ◇「涼新た」
秋に入ってから立つ涼気をいう。夏の暑さが去り、新鮮な初秋の涼しさである。暑さの中に一服の涼を求める「涼し」(季:夏)とは区別される。
例句 作者
涼新た傘巻きながら見る山は 飯田龍太
新涼の畑のものを背負ひてくる 藤田あけ烏
新涼の六甲きのふより高し 中出静女
新涼の固くしぼりし布巾かな 久米三汀
新涼の燈とわが影と畑にとどく 篠原 梵
新涼や舌をよごして筆おろす 榎本好宏
新涼や仏にともし奉る 高浜虚子
新涼や鎌の刃先に草の屑 池田秀水
新涼やたしなまねども洋酒の香 中村汀女
新涼や鼬見た人見ない人 飯島晴子