朝顔の紺の彼方の月日かな 石田波郷
波郷二十九歳の作品だが、既に老成したクラシカルな味わいがある。句のできた背景については「結婚はしたが職は無くひたすら俳句に没頭し……」と、後に作者が解説している。朝顔の紺に触発されて過ぎ去った日々に思いをいたしている。と、従来の解釈はそう定まっているようだが、私は同時に、未来の日々への思いもごく自然に込められていると理解したい。過去から未来への静と動。朝顔の紺は永劫に変わらないけれど、人間の様子は変わらざるを得ないのだ。その心の揺れが、ぴしりと決まった朝顔の紺と対比されているのだと思う。『風切』所収。(清水哲男)
【朝顔】 あさがお(・・ガホ)
◇「牽牛花」(けんぎゅうか) ◇「蕣」(あさがお)
ヒルガオ科の一年生蔓草。明け方に、紺、白、紅、青色などの漏斗状の花を開いて美しいが、午前中にしぼんでしまう。現在の朝顔は夏が盛りだが、朝顔に「秋」を感じるのが詩心と言われる。立秋以後の朝顔の花は小さくなり、日ごとにか弱くなっていく。
例句 作者
朝顔のいきなり十も咲きにけり 星野芋秋
朝顔の紺のかなたの月日かな 石田波郷
朝顔やおもひを遂げしごとしぼむ 日野草城
朝顔や天を仰ぎて喇ぐ 福田蓼汀
あさがほの日々とめどなく咲くはかな 久保田万太郎
この頃の蕣藍に定まりぬ 正岡子規
あさがほに我は飯くふ男哉 芭蕉
朝顔の紺の彼方の月日かな 石田波郷
朝顔や河岸の向うに日が当り 五所平之助
朝がほや一輪深き淵のいろ 蕪村