カット・武内ヒロクニ
今、わたしを悩ましているのは部屋の温度。暑くて気分が悪い。冬になるとヒロクニさんは冬の寒さに対抗して石油ストーブを2台焚き、ガスストーブをつける。ガスストーブは冬になるとお店の片隅に置いてあるようなストーブだ。いつも温風をヒロクニさんの方に向ける。食事時は、ガスストーブと石油の間にわたしは座り、すべての熱はヒロクニさんが正面で受け止めるように配置してある。まるで、亜熱帯植物が植えてある温室のようだ。食事を取ると身体が熱くなり、「暑い!」と言いつつ服を脱ぐ。服を脱ぐとシャツ一枚で、額にはバッテン印、つまり額にシワ!!冬は厚着して寒さをしのぐということがわからんのか?とヒロクニさんの服装をみると、綿の長袖にTシャツ姿。もちろん靴下は履いてない。その上「セーターは嫌いだ!!」ということで身に着けようとしない。神が私達に広い快適な部屋を与えないのも幸いかな。それでも人様に言えない位、恐ろしい暖房費だ。
坂口安吾のことを書いた坂口三千代さんの「クラクラ日記」を呼んだことがある。無頼派の作家、坂口安吾と過ごした日々のエッセイ。坂口安吾の日常を綴った壮絶な坂口三千代さんの物語なのです。坂口安吾がアドルムの大量服用から精神の錯乱状態の頃の文章を読むとギリギリまで彼女は耐え、素直に嘆き、人の力も借りながら乗り越えて行く。わたしの心を捉えたのは彼女の「素直な心」である。とても心の素直な彼女だから、嘆いた後に必ず人にもうまくその負担を持ってもらいなんとかするのである。だからいつもギリギリまでがんばる。安吾は、往来で裸で暴れたり、三千代さんを閉じ込めて家に火を点けようとしたり、チャプスイを食べてから自殺しようと言ったり普通の生活では考えられないことばかりだ。その日常を乗り越えることが出来たのは、彼女の屈託のない性格と素直な心の賜物だと思っている。
もう一つわたしの心を捉えたのは、三千代さんは出版社に出かけて行ってお金を前借したりして、結構買い物をするのです。わたし、その箇所が出てくると愉快な気持ちになるのです。三千代さん万歳!!と拍手を送りたくなるのです。
この本を読んだおかげで、「ヒロクニさんなんてちょろいもんよ」と思うようにしている。ヒロクニさんも結婚当初、精神を患って錯乱を起こし大変だった日々があり、わたしも随分悩んだ。2人っきりの時にそれは必ず起こり、人に信じてもらえず大変でした。でも、その日々は3年で過ぎ去った。
芸術家と付き合うには、体当たりしかないのかもしれません。