遺す言葉

つぶやき日記

遺す言葉(486) 小説 希望(10) 他 永遠 今 

2024-02-18 12:01:08 | 小説
             永遠(2023.12.10日作)


 自分が捉えたと思った " 今 "は
 既に過去であり
 永久に取り戻す事は出来ない
 遠くのものは遅く動き
 近くのものは速く動く
 眼の前のものは瞬時に過ぎて行く
  " 今 "という時はない
 今 現在は永遠だ
 今 現在を捉える事は誰にも出来ない
 今 現在 眼の前に迫りくるものは
 瞬時に過ぎて 過去となり
 遠ざかる 止(とど)まる事はない すなわち
 今という時はなく 今現在は無であり
 永遠だ


             今


 時間という概念がある限り
 今という時は存在しない
 今は未来と過去の接点であり
 それが止まる場所はない
 今とは時間を突き抜け
 未来も過去も包み込む概念
 永遠だ
 人は常に未来と過去を生きている
 すなわち
 永遠の今を生きている





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              希望(10)              

 

 
 
 修二が出口に向かう人の群れに混じって階段を駆け下り、ひしめき合う人達と一緒に会場の裏口に着いた時には既に大勢の人達がそこに居た。
 みんなが高木ナナが出て来るのを待ちながら、興奮した面持ちではしゃいでいた。
 修二は人々の後ろから背伸びをして出入り口の様子を窺った。
 人の頭が見えるだけだった。
 もっとよく状況を知りたくて高木ナナの色紙が入った袋をしっかりと抱き締めて、強引に人垣を掻き分けて前へ進んだ。
「何よ ! この人、痛いわね」
 女の人が声を上げて言って、修二を小突いた。
 修二は意に介さなかった。
 更に進んだ。
 その時、ひと際高い歓声が上がって、人の群れが出口に殺到した。
 高木ナナが姿を見せた。
 修二は背伸びをしてみたがそれでも人の頭が邪魔になって見えなかった。
 修二は我を忘れて夢中になっていた。
 この機会を逃したら何時また高木ナナに会えるのか分からない ! 
 人込みの中で揉みくちゃになりながら前へ進んだ。
 突然、眼の前が開けて、ガードマンに囲まれた高木ナナが群衆を掻き分け掻き分け歩いて来る姿が眼に入った。
「通れないから道を空けて下さい。すいません、道を空けて下さい。道を空けて」
 先導役の中年のガードマンが声を枯らして叫びながら、殺到する群衆を掻き分けていた。
 高木ナナは白いパンタロンに胸元と袖口にフリルの付いた薄桜色のブラウスを着ていて、赤い野球用の帽子を被っていた。
  TとNを組み合わせた白い文字が正面に見えた。
 周囲を固めた警備の男達に守られながら高木ナナは、次々に差し出される手を握っては笑顔で群衆の歓声に応えていた。
 周囲を固めた男達が必死で、高木ナナに近付こうとする群衆を抑えていた。
 修二は自身も人々に小突かれながら、我を忘れて次第に近付いて来る高木ナナの姿に見入っていた。
 今、眼の前に確実に近付きつつあるのは紛れもなく、あの田舎のレコード店で握手をした時の高木ナナだった。笑顔もあの時の高木ナナそのものだった。
 修二の胸には抑え切れない懐かしさが込み上げ。
 白い手の柔らかな感触が実感を伴って生々しく甦った。
 握り締めた自身の手が汗で濡れた。同時に何時、色紙を取り出してナナに見せようかと、焦りにも似た思いが生まれていた。
 四メートル、三メートル、高木ナナの姿が次第に近くなって来た。
 修二は我を忘れたまま袋の中から色紙を取り出すとそれを振りながら、ナナさん、ナナさん、と叫んでいた。
 やがて高木ナナの姿が修二の眼の前に来たーー。その時の自分を修二は覚えていなかった。ただ、夢中で手にした高木ナナの色紙を振って群衆の中から抜け出し、高木ナナに近寄ると警護の男達の腕を振り払いながら、ナナさん俺、ナナさんに貰った色紙を持ってるんです、握手をして下さい、と叫んでいた事だけが鮮明な記憶として残っていた。
 無論、そんな修二はたちまち何人もいる警護の男達に取り押さえられ、腕を掴まれて身動き出来なくなっていた。
 高木ナナはその様子の一部始終を最初から眼にしていた。
 だが、修二を見詰める高木ナナの眼には明らかな恐怖と嫌悪の色が浮かんでいて、修二の記憶に残る優しく、親し気に微笑み掛けて来る眼差しは何処にも見られなかった。のみならず、
「何、この人、怖いわよ。早く向こうへ連れて行ってよ !」
 と、怒りと憎悪を滲ませた声で叫んでいた。
 修二を取り押さえた男達はその言葉と共に更に一層、容赦の無い力を込めて押え付けて来た。
 その間に高木ナナは足早に修二の前から去って行った。
 高木ナナの姿が見えなくなると修二の腕や身体を押さえていた男達は突き飛ばすようにして手を離した。同時に足蹴にする者もいた。
 高木ナナの姿が見えなくなるのと一緒に群衆もまた修二の周辺から遠ざかって行った。
 修二だけがポツンと一人、その場に残された。
 ーーどれ程の時間、呆然とその場に立っていたのだろう ?
 そんな自分に気付くと修二はのろのろと歩き出した。
「名前はなんて言うの ? これからもよろしく応援してね」
 白く柔らかい手をしたあの時の優しい高木ナナはもうそこには居なかった。高まる人気と共に傲慢さを身に付けた気位の高い高木ナナだけが居た。
「早く向こうへ連れて行ってよ」
 叫んだ時の憎悪と敵意に満ちた眼が修二の脳裡から消えなかった。
 現在、ポップス界の若手ナンバーワンスター、高木ナナ。
 現実が高木ナナを修二の手の届かない遠い所へ運び去ってしまっていたーー。
 どのようにして自分の部屋へ帰ったのかも覚えていなかった。
 部屋へ入って明かりを点け、眼の前に高木ナナのポスターを見た時、初めて我に返った。
 それまでは総てが夢遊の世界の出来事だった。そして、現実の世界に還ると同時に修二は激しい怒りに捉われた。
 ポスターの中で高木ナナは何時もの優しい眼差しで微笑んでいた。
 こんなの嘘っぱちだ !
 修二は大きな声で叫ぶと壁のポスターに手を延ばして力任せに引き剥がした。そのまま思いっ切り引き裂いた。
 ポスターはたちまち修二の手の中で小さくなり、小さくなったポスターはそのままごみ箱に投げ入れられた。
 あんな奴なんかの顔など見たくもない !
 足元に色紙と演奏会のプログラムの入った袋が落ちていた。
 眼にするとまた、新たな怒りに捉われた。
 なんだって、こんな物を後生大事に抱えて来たんだ !
 拾い上げてそのまま、ポスターと同じ様に力任せに引き裂いた。
 同じ様にゴミ箱に投げ捨てた。
 高木ナナに関する物はそうして総てが無くなった。 
 淋しさはなかった。
 奇妙な満足感を覚えていた。
 もともと、何も有りはしなかったんだ。自分だけが独りでいい気になっていただけなんだ。
 そう納得すると、気持ちも落ち着いて、明日からもまた、これまでと同じ様に生活してゆこう、と思った。



             4



 九月に入って間もない日だった。
 修二は調理場で長ネギを洗っていた。
 午前十一時に近かった。
「修二、おふくろさんが来ているぞ」
 マスターが修二の傍へ来て言った。
 普段と変わらない静かな口調だった。



  
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              takeziisan様

          
               御忙しい中 御眼をお通し戴き 有難う御座います
              二月半ばで春の気候 春の話題が何故か似合います
              わが家でもフキノトウ 芽を出しました
              様々な花が開く季節 待ちわびる気持ちが躍ります
              美しい花の写真を見ればなおさら 豊かな春の情景が浮かびます
              今朝もNHKで高知県の話題を取り上げていましたが       
              自然の景色には自ずと心洗われる気がして気持ちが和みます
              嫌な事ばかりが続く世の中 美しい自然 景色
              花々を眼にする事がせめてもの慰め 救いです
               花と小父さん 浜口庫之助 初めてです
              この歌を亡くなった野坂昭如が 幼児趣味の嫌な歌だと
              酷評していた事を思い出します 決して そんな歌だとは思えませんが
              浜口庫之助の成功へのジェラシーがあっのかも知れません
                いのく いのかす わたくしの方では いごく いごかす でした
              マンサクの赤 初めてです
               自然の美しさを映した写真 心洗われます
              有難う御座いました

























           

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