遺す言葉

つぶやき日記

遺す言葉277 小説 サーカスの女(1) 他 人は 操り人形

2020-01-19 13:31:00 | つぶやき
          人は 操り人形(2019.12.27日作)

   人間は 運命に操られた 人形
   その人の 持って生まれた 運命は
   いかんとも し難い
   いかんとも し難い 運命の中で どれだけ
   自己としての 最善を 尽くすか
   それが 肝要
   最善を 尽くした結果
   開かれる 運命も ある
   開かれない 運命も ある
   それは総て 運 運次第
   開かれない 運命 を 嘆く事はない
   あなたは 最善を尽くした
   それで いい
   それだけで 立派
   たまたまの 幸運 に 乗った
   果報者 成功者 より はるかに
   立派 たとえ
   現在 あなたが 恵まれない境遇 に
   在ったにしても だ
   真摯に 今を生きている 限り


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          小説 サーカスの女 (1)
              少年のいる風景


 その頃、信吉達は学校から帰ると、決まってお寺の庭に集まって遊んだ。今日(こんにち)のようにテレビなどの盛んな時代ではなかった。学習塾だなんだと、やかましい時代でもなかった。それに農村地帯の事で、親達は農作業に忙しく、子供達に手を掛けている時間もなかった。放任された子供達は自由に羽をのばし、思いのままに遊ぶ事が出来た。
 昭和二十年代半ばの事である。
 当時、信吉達には極、限られた、自分達周辺の世界しかなかった。テレビの映像が、居ながらにしてあらゆる世界を眼の前に広げてくれる今の時代など、夢のまた夢でしかなかった。そして、そんな彼等の関心は、ほぼ季節の推移に従って変わっていった。春には雑魚(ざっこ)掬い、夏には川での泳ぎ、秋には茸採りや栗拾い、柿捥(も)ぎ、冬には仕掛けを作っての頬白やチョーマン(野鳥の一種)捕り。そんな少年達の集まる場所が、住職の居ない廃寺だった。

          1

「信吉、おめえが ?」
 信吉が台所の板の間に鞄を放り出す音を聞いて、祖母が声を掛けて来た。
「ああ」
 信吉はうるさ気に答えた。
 祖母は座敷にいて、落花生でも選り分けているらしかった。
 祖母は八十歳に手が届くというのに、いたって元気だった。腰は二つに曲がり、座った姿は猿のように小さくなっていたが、かくしゃくたるものだった。一年中、何かの仕事を見つけては、一人でコツコツやっていた。さすがに老人ボケのような兆候は随所に見られたが、耳も眼も口も達者なものだった。殊に信吉と、三つ違いの姉の道代の二人の孫には眼がなくて、要らぬ世話を焼いてはしばしば煩がられた。
「父ちゃんがない、稲のオダ(稲架)はずしば手伝えって言ってたど。北山の向こうの田んとごろにいっがら、こう(来い)ど」
「姉ちゃんは ?」
 信吉は薄暗い台所の隅で、釜の蓋を取ると中を覗いた。
 芋がふかしてあった。
 信吉は手を突っ込むと、学生服の両ポケットが一杯になるまで芋を取り出して詰め込んだ。更に、左手に一つ、右手に一つを持って釜の蓋をした。
「姉ちゃんはまだ学校だ。戻んねえよ」
 祖母はそれから更になんとか言った。
 信吉はその言葉も聞かずに、裸足のまま外へ飛び出した。
 寺は二十戸程ののほぼ中央部にあった。十畳の部屋を持つだけの小さな建物だった。信吉の記憶にある限り、住職はいなかった。寺は大人達に取っても寄り合いだけの場所になっていた。
 部屋には畳半畳程の囲炉裏が上がり框の近くに仕切られていた。
 天井は煤で真っ黒に汚れていた。
 雨戸も建て付けが悪く、所どころ穴が開いていた。磨く人もない柱は白っぽく艶を失い、木目が浮き出ていた。
 百坪程の庭の四隅に墓石が並んでいた。その下に月見草が咲いた。
 庭の中央部が雑草と芝生の混じった広場になっていて、信吉達はそこで様々な遊びをして時を過ごした。
 信吉が行った時、寺の軒下の踏み石に春男と高志が並んで腰を下ろしていた。
「あに(何)食ってだ」
 信吉が口を動かしているのを見て高志が言った。
 高志は信吉より二つ年上の六年生で、の中で一番大きな農家の四男坊だった。あまり出来が良くなくて、ともすれば学校をさぼりがちだったが、こと、頬白捕りや雑魚掬いにかけては、天才的な勘と知恵を発揮した。一番年上の事もあって、悪戯の先達みたいなところがあった。
「芋だあ」
 信吉は言った。
「くろえ(くれよ)」
 春男が言った。
 春男は五年生だった。少しお目出たいところがあって、年下の者からも呼び捨てにされていた。
 信吉はポケットから芋を取り出すと二人に渡した。
 自分は更に一つを取って皮の付いたまま口に運んだ。
「信吉、おめえ、今度の日曜日に金毘羅さ行がねえが?」 
 高志が芋を頬張った口をもぐもぐさせながら言った。
「金毘羅 ?」
 信吉は鼻の頭を手の甲でこすり上げながら聞き返した。
「うん」
 高志は立ったままの信吉を見上げて言った。それから、
「今度の日曜がちょうど金毘羅の日に当っだよ。そっで、行ってんべえって、春男と話してただあ」
 信吉は金毘羅に行った事はなかった。一昨年か一昨作年か、やはり日曜日に当たった事があって、その時、高志は上の仲間達に連れられて行ったという事だった。
「神社の境内にいっぺえ店が並んでよお、そん時、二本松の安っさんがよお、こんなでっけえ飴の袋ば盗んじゃて面白がったどお」
「捕まんながったのがい ?」
 信吉は高志の前の地面に腰を下ろしながら聞いた。緊張感に富んだ場面が想像された。
「捕まんねえよお。あにしろ、人が行列ば作って、次から次へって押し寄せて来っだがら、その人の間がらよお、こう、あにか他のものば見る風ばしてよお、手だげ伸ばしてサッと、取っちゃうだよ。そっで、あとは知らんぷりしてさあ、スタコラ歩いで来ちゃんだあ。あにしろ、人が山ほどいっだから、分かっこねえよ」
 高志はいかにも愉快そうに言った。
「おらえ(家)の親類も店ば出すど」
 春男が自慢気に言った。
「金毘羅にがあ ?」
 高志は信じられない様子で聞いた。
「ああ」
「あにば(なにを)やってだあ ?」
「義士焼 (今川焼)屋だけっど、毎年出してっどお」
「本当があ」
「本当だよお」
「だあ、貰えっかも知んねえなあ」
「くんねえよお。ケチだもん」
 春男は苦々し気に言った。
 この春男には奇妙な癖があった。腹を立てると猛然と食い気を起こして、お櫃1杯程の飯もたいらげてしまう事だった。
 そのうちに忠助や義男、良治なども集まって来た。


         
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          takeziisan様

          先ずは遅れ馳せながらの
          おめでとう御座いますを
          申し上げます
          いろいろブログを拝見していますと
          お元気そうに思われますが
          やはり ご心配事を抱えておいでなのですね
          それにしても 何事もなく お喜び致します
          これからも充分 お気を付け下さいませ
          相変わらず美しい写真
          毎回 楽しく嬉しく 拝見させて戴いております
          

          


 


 
 

 
   
   
   
   
   
   

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