遺す言葉

つぶやき日記

遺す言葉(382) 小説 再び 故郷に帰れず(1) 他 限りなき果て

2022-02-06 12:48:53 | つぶやき
         

           限りなき果て(2020.9.16日作)



 わたしは逝くだろう
 霧の中へ

 霧は
 わたしを包むだろう
  
 霧は
 影も形もなく
 わたしを消し去るだろう

 逝く者

 そしてまた 生まれ

 来る者

 限りなき
 その果て



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           再び 故郷に帰れず(1)
              カフカ風(超現実的 シュール)に   

                過ぎ行く時の再び 戻る事はない
                 人の生の今は
                 一瞬の幻 還り来ぬ 夢

 
           一

 
  気が付くとわたしは、連日、自分の身丈に合わせて墓穴を掘っていた。辺りには重い雫を湛えた灰色の霧状のものが一面に垂れ込めていて、先を見通す事さえ出来なかった。
 わたしは深い絶望感に捉われた。
 毎日、こうして自分の墓穴ばかりを掘っていて俺はいったい、どうなるんだろう ?
 生きる気力さえ失われてゆくようで、重い病を患った重症患者のように喘いでいた。すると突然、見も知らぬ者達に担架に乗せられ、重い鉄の扉を持った門の外へ放り出された。
「とっとと消え失せろ、この意気地なしめが ! おまえのような役立たずに用はない !」
 そんな声が聞こえると重い鉄の扉は閉ざされた。
 呆然として佇むわたしの前にはそれが、まるで命をつなぐ一筋の糸でもあるかのように細い道が開けていた。わたしは、取り敢えずは、この道を歩いて行くより外ないのかと思うと、重い足を引き摺りながら歩き始めた。
 道が何処に続くのかは、皆目、見当も付かなかった。
 わたしの肩には重い南京袋にも似た袋が掛かっていた。中にはわたしが今日まで生きて来た証しの様々な物が雑多に詰め込まれていた。
 わたしは歩き続けた。果てし無く続くように思えるその一本の道は、歩いて行くに従って、まるで自分の記憶を手繰り寄せてゆくかのような感覚をわたしにもたらした。
 わたしは歩き続けた。すると突然、眼の前に大きな公園が現れた。
 公園は豊かな樹木の緑に覆われていた。鬱陶しい程に分厚く重なり合うそれらの樹木の緑は、煌々と明かりを灯す真夜中の外灯に照らし出されて生き生きと輝いて見えた。
 公園には誰も人の姿は見えなかった。
 鬱蒼とした緑に覆われた広場のその中程には、大きな噴水があった。その噴水の飛沫を浴びて大理石の白い裸体の女神像が建っていた。噴水を囲む周囲には、赤や紫、黄色や白、青と、様々な色彩の花々が咲き乱れていた。
 わたしは取り敢えず、この夜の中を歩いて来た疲れを癒すために、噴水を囲んで置かれている木製のベンチへ行くと腰を下ろした。
 なぜが、安堵感と共に深い安らぎがわたしの心を満たした。
 わたしは心地良い疲れに身を委ねるようにベンチの背もたれに体を寄せて顔を夜の空に向けて眼をつぶった。
 深い幸福感で身も心も溶けてゆくようだった。
 突然、女性の声がした。
「こんな所で何してるの ?」
 驚いて眼を開けると若い女が微笑みながら立っていた。
「ああ、びっくりした」
 わたしは言った。
「突然、驚かせちゃって御免なさい」
 女は言った。
「いや、いいんだ。ただ、あまりに突然なんでびっくりしたのさ。この公園には誰もいないと思っていたから」
 わたしは言った。
「わたしも誰もいないと思っていたら、あなたが此処にいたので、突然だけど声をかけてみたの」
 女は相変わらず柔らかい微笑みを浮かべた顔で言った。
 女の眼はひどく澄んでいた。
 その眼の縁には色濃いアイシャドーが施されていた。唇のルージュは毒毒しい程の鮮やかさで彩られていた。一目でその方面の女性と判別出来た。
「君は娼婦かい ?」
 わたしは聞いた。
「ええ、そうよ。だけど、今夜はあぶれちゃった」
 女は悪びれる様子もなく言った。
「そうか、そういう訳か。でも、毎日は楽しいかい ?」
 わたしは聞いた。
「ええ、楽しいわ。若いうちこそ華ですもの、楽しまなくちゃ」
 女は嬉々とした様子で言った。
「そうだね。ところで君の名前は、夢見子って言うんじゃないかい ?」
「ええ、そうよ。どうしてわたしの名前を知ってるの ?」
 女は驚いた風に言った。
「だって俺は "おさない(幼い悟)さとる" さ」
 わたしは言った。
「おさない さとる ?」
 女は眉を寄せて訝しげに聞き返した。
「そうだよ。ほら、何時も一緒に遊んでいたじゃないか」
 わたしは幼馴染に突然出会った思いで意気込んで言った。
「知らないわ、そんな人」
 女は突き放すように言った。
「ほら、古田の里でさあ」
「知らないわ」
 女はやはり、チンプンカンプンというように言った。
「だって君は、美 夢見子だろう」
「そうよ」
 女は言った。
「俺は古田の里の おさない さとる だよ」
「あなた、何か思い違いをしているのよ。きっと」
「そんな事ないさ。君こそ、どうにかしてるんだよ。もう、昔の事は忘れてしまったのかい ? 十歳から十一歳の頃、一緒に遊んだじゃないか」
「わたし知らないわ」
 女は困惑したように言った。
 わざとらしい様子はなかった。真剣に思い出そうとして悩んでいるふうでさえあった。
 わたしは失望した。
 美 夢見子は紛れもなく、右の唇下に小さなホクロがあった。そして、この夜の女にもまた、全く同じようにホクロがあった。二重瞼の豊かなその瞳、左頬の微かな笑窪、それらは紛れもなく幼い頃の夢見子を彷彿させた。
 背丈は違っていた。それは仕方のない事だった。あの当時から既に、何年が経過しているのだろう ? また、あの当時から美しかった顔に毒毒しい化粧が施されている、それも夜の街で通りすがりの男達の眼を引くためには仕方のない事に違いなかった。そんな夢見子に対する失望感はなかった。ただ、この違和感、紛れもない夢見子と認めた上での二人の間に差し挟まるこの違和感だけは如何としても拭い去る事が出来なかった。
 わたしはほとんど絶望的な思いで眼を閉じた。眼の前にいるこの女が、その間に何処かえ消えてしまってくれればいいと思った。
 わたしは再び、重い心のままに眼を開けた。
 すると、まだ眼の前にいた女は、
「あなた、古田の里の さとるさん なの ?」
 と言った。
 美しい声だった。
「そうさ」
 わたしは言った。
 しかし、もはや、さっき程の大きな喜びに包まれる事はなくて、わたしの声は沈んでいた。
「さとる さん とはよく、裏の山へ茱萸(ぐみ)を採りに行ったり、嵐や大風の後にお寺の庭にいっぱいに落ちた銀杏を拾いに行ったりした事があるわ」
 女は懐かしそうな口調で言った。
「俺はその さとる さ」
 わたしは急に心の中に灯が点った思いで意気込んで言った。
 だが、夢見子の顔にはその時、一瞬の驚きと戸惑いの入り混じった微妙な表情が表れて、わたしを見つめる眼差しが険しくなった。
「でも、あなたは違うわ。さとる さんじゃないわ。おさない さとる さんはあなたのような人ではなかったわ」
 女は強い口調で言った。
「じゃあ、どんな人だった ?」
 わたしは言った。
「どんな人って、あなたとは全然違うわ。あなたには さとる さんの面影もないわ」
「それは俺が歳を取ったせいさ。歳を取れば人間、誰でも変わるだろう。昔のままでいるはずがないよ。そうだ、俺の子供の頃の写真があるから、それを見せよう。それを見れば俺が昔の さとる だって事は分かって貰えるだろうから」
 わたしは急いで自分の足元に置いた大きな袋の口を開いて中を探り、額縁に入った一枚の写真を取り出した。





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          takeziisan様

           コメント 有難う御座います
          ここから一編のストーリーが生まれそうですね 
                                    推理小説ではここからが始まり となります 
          名探偵の活躍 今 NHK BS3チャンネルで水曜
          午後九時から シャーロック ホームズの冒険 という
          番組を放送していますが ここでは正しく この死体   
          が発見されたような場面からドラマが始まります
          名探偵の活躍というわけです でも わたくしが
          目指した物語では テーマが現実社会の中に於ける 
          不条理 という事で普段 真面目に正直に生きている
          人間が思いもかけない 理不尽な出来事に巻き込まれる
          ーー桂蓮様へのお礼の中でも書きましたが 現実に
          例の医師殺人事件など 正常な感覚では理解出来ない
          事が起こっています 事件はわたくしがこの物語を書き 
          始めた後に起こりましたが わたくしの書いた物語も
          全くの絵空事ではないと思うのですーーそんな様子を書
          いてみたかったものですから ここで完結としました 
          後の事件解明を追う過程を書くとテーマから外れた
          枝葉末節になってしまうと思ったからです 
          この後 警察は動くのか 事実とは食い違いを見せる
          証言の裏にあるものが 解明されるのか この事は
          お読み戴く方の御想像にお任せしたいと思うのです 
           いつも退屈な物語にお付き合い下さいまして
          御礼申し上げます
           今回も ブログ 楽しませて戴きました
          灰田勝彦 懐かしいですね あの軽やかな歌い方
          思い出します 
           遠い山なみの景色 何故か このような景色を見ると
          郷愁に誘われます 故郷に山なみなど皆無だったのに
          不思議に懐かしさを覚えます
           ラ ノビア セントルイス ブルース
          サッチモがいいですね あのような個性はもう二度と
          出ないでしょうね 懐かしさを覚えます 約九分が
          アッという間でした 待つ時間の九分は長いのに
           川柳 相変わらず楽しませて戴きました
          今後も御期待しております
           数多くの鳥 豊かな自然が感じ取れます
           何時も 応援 有難う御座います
           それにしても連日の一万歩近く お元気の源で
          しょうか
 
         


          桂蓮様

           有難う御座います
          拙作 正確にお読み戴き 有難う御座います
          世の中 現実には 全く想像も出来ないような事が
          突如として起こります 最近でも日本で
          死んだ母親の蘇生施術を断った医師が射殺された
          理不尽な事件がありました その他 ナイフで全く
          関係のない人を刺したり (このような出来事はこの
          欄で依然 ナイフ という物語で書きましたが 
          実際に全く同じような事件が現実に起きています)今回
          の拙作でも平凡な日常に突然降りかかって来る 
          それそこそ不条理な現実を書いてみたいと思ったのです  
          世の中 実際には何が起こるか分らない それが真実
          ではないでしょうか
           今回の新作 拝見しました
          生き生きとして 御様子が伝わってきます
          良い御文章ですね 心の中の記憶もこのように整理が
          出来ると良いのですが なかなかそれが出来ない
          辛いところです 人間はその辛さから逃れる為に
          神や仏などを持ち出し それにすがろうとしたのでしょ
          うね
           禅などもその迷いから逃れる為の 一つの方法として
          編み出されたものではないのでしょうか いずれにして      
          も人の世は 一筋縄ではゆかない 不条理に満ち満ちた   
          世界ではないでしょうか
           冒頭の滝の写真 見事な流れ 美しいです
          眼の保養になります
           何時もお眼をお通し戴き コメントして下さいまして
          有難う御座います 御礼申し上げます
 


 

  
 
 
 










1 コメント

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Unknown (桂蓮)
2022-02-06 14:40:15
今度の物語はモダン風ですね。
話の展開が楽しみです。

言いたかったことを的確につかめてくださいましたね。
ここでのコメントも
ブログ記事も。

記事は元々書いて投稿する予定だったのを放棄して、
投稿日に一気に書いたのを
早めに通訳して、約3時間くらいでしたね。
最近は通訳速度が上がっているし、
夫からの間違い文句や指摘も無くなっているので、
通訳訓練も良くなっていると思ってます。

だけど、今日は(土曜)レッスン受けて
最悪な気分になって
落ち込んでいます。
5分の振り付けをやり始めているのですが、
出来具合が10%もならなくて
今まで怠けて練習しなかった結果が
あきらかに表れたのです。
今の実力以上の振り付けになっているので、
頑張って自分を引き上げるか
現状に合わせて、土台を固めるか、
悩んでいます。

とにかく、授業についていけなかったので、
最悪
水曜の授業は中級だったので、
意気揚々でしたけど、
土曜はアドバンス(上級の進級)なので、
その中級と上級のギャップが
あまりにもでっかく
もう、絶望しています。

普段なら、レッスン終わって
家に帰り、トレーニングするのですが、
今日は、やる気にならず、
そのまま何もしていないです。

だけど、
生き生きした文だと褒められ
少し気分が良くなりました。
ありがとうございます。
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