すぐのできことだった。
右にグっと一回、大きな力が加わる。一瞬恐怖を覚える。ドアに激突???
右方向への強烈な遠心力だ。右足を踏ん張る。
さらに負けないよう、全体重を左方向に傾ける。
その体重移動を見ていたかのように、すぐさま遠心力は左に変わる。強力な左G。
結果は、火を見るより明らかだった。
この変化についていけない数人が、この悪辣なフェイントの犠牲に…
間違いなくこの電車の運転手は、私たちを意地悪くからかっている。
女に振られたんだろう。
エピローグ。
カクンと0.5秒、右に行くと見せかけて、すぐに左にガクっとG+G。
体勢を立て直しホっとしようとした矢先の絶妙なフェイント。
「痛て―」「うっ…」「ボコッ」「……」という、声でもない音でもない異様な音声と雰囲気が漂う。同時になんともいえない臭気が立ちこめはじめる。
ん? 何気に、高貴な後期高齢の阿仁金さんが……。やはり、G+G(爺爺)が。
やがて電車は落ち着きを取り戻し何事もなかったかのように、ゴトンゴトン、ゴトンゴトンと走っている。
昨日、これに引っかかっていた人がいた。
私もこの電車を利用するようになったとき、よく引っかかったものだ。
今は、足の踏ん張りの順序も覚え、フェイントには引っかからないようになっている。
右、左、……右左、……。