『男はつらいよ 寅次郎紙風船』(81)(1981.1.24.渋谷松竹)
伊藤蘭がマドンナを演じた『~かもめ歌』では、寅さんが保護者のように映り、落胆したのだが、前作『~浪花の恋の寅次郎』の松坂慶子も、今回の音無美紀子もなかなかいい感じだったので、少しほっとした。そして、本命のマドンナと若いサブキャラクター(岸本加世子)を絡めて描く今回のようなパターンが、今後増えるかもしれないと感じた。
ストーリーは毎回お決まりのパターン、レギュラーメンバーもほとんど変化なし、となると、新作の目玉はどうしてもマドンナの存在になる。そのキャラクターと演じる女優の魅力が、新作の出来を大きく左右するし、ここまでシリーズが続いてきたのは、毎回変わるマドンナ見たさというところもあるだろう。この映画でも、おばちゃん(三崎千恵子)が「寅ちゃんのおかげで随分ときれいな人にも会えました」と語る場面があったが、それはわれわれ観客も同じである。
そして、毎回実らぬ恋に終わることは分かっている。寅さんのドジに笑いながら、自分を見るような感じがしたこともある。寅さんに歯がゆさを感じたこともある。また、寅屋一家に自分の家族を重ねて見ることもある。
ところが、最近の寅さんには空しさややるせなさを感じさせられてしまい、心の底からは笑えなくなってきた。もちろん、ただ笑いながら見ていた子供の頃の自分と、今の自分とでは感じ方も違うだろうし、10年以上の間に寅さんのキャラクターも変化してきている。ただ、寅さんが欠陥人間から人生の卓越者になってしまったようで、違和感を覚えることも少なくないのだ。