田中雄二の「映画の王様」

映画のことなら何でも書く

『怖がる人々』

2019-10-17 17:02:47 | 映画いろいろ
『怖がる人々』(94)(1994.5.9.渋谷松竹セントラル)

 

 『麻雀放浪記』(84)『快盗ルビイ』(88)と快調に連作した和田誠が、今回はオムニバスホラーを撮るということで、期待大であった。ところが、見る前に売店で買い物をした際に、係員から「こんなに客が入らない映画は初めてですよ…」と嘆かれてしまった。
 
 「そんなはずはない」と思いながら見始めたのだが、実際、なかなか盛り上ってこないし、見ていてあまり面白さを感じない。公開前、和田誠の周囲では好評で、「相変わらずうまい」という評もあったし、本人も自信ありげだったので、この結果はかなりショックだった。
 
 思うに、これは黒澤明の『夢』(90)同様、本来つながるべきオムニバスがつながらず、「箱の中」の現代故の恐怖、「吉備津の釜」の現代と過去の交錯、「乗越駅の刑罰」の不条理の畳み掛け、「火焔つつじ」の文芸性、「五郎八航空」のドタバタという、5本の違った話を一気に見せられたような疲れを感じさせられたからだろう。
 
 従って、個々の話の出来は悪くなく、ディテールへのこだわりも見られるのだが、総体的には印象がぼやけてしまうのである。和田誠ともあろう人が…と思うと失望が隠せない。

【後記】この後、メイキング本『怖がる人々を作った人々』を読んでみたのだが、この映画への評価が変わることはなかった。
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『快盗ルビイ』

2019-10-17 10:49:05 | 映画いろいろ
『快盗ルビイ』(88)(1988.12.9.日劇東宝)
 
 
 
 平凡なサラリーマンの林徹(真田広之)が母(水野久美)と共に住むマンションの上階に、加藤留美(小泉今日子)が引っ越してくる。彼女は表向きはスタイリストだが、実はルビイという名の泥棒だった。人のいい徹は、いつの間にか留美の相棒として犯罪の手伝いをすることになる。
 
 和田誠の監督第二作。異業種監督は、最初の1本がうまくいっても、後が続かないのが常だが、やはり和田誠はひと味違った。彼はヒッチコック好きでも知られるが、そのヒッチコックがテレビの「ヒッチコック劇場」で好んで用いたヘンリー・スレッサーの『快盗ルビイ・マーチンスン』を、主人公を女性にするなどして巧みに脚色。その結果、犯罪映画でありながら、ハッピーで温かく、楽しくておしゃれな映画に仕上がった。
 
 さらに、小泉今日子をアイドルとしてではなく撮り、真田広之に新境地を開拓させた。彼らは和田誠に大いに感謝するべきだろう。また、適材適所に配置した脇役たち、ディテールや小道具へのこだわりはビリー・ワイルダーの映画をほうふつとさせ、ハリウッドミュージカルの香りまで漂わせる。映画狂・和田誠の面目躍如である。
 
 それと同時に、今の日本のファッションや、とにかく女が強いという、今の若い男女関係の典型を描くことにも成功している。一体、天は和田誠に幾つの才能を与えたら気が済むのだろう、と少々妬ましさも覚えるほどだ。
 
 
 併映は、和田誠の本職のアニメ映画『怪盗ジゴマ 音楽篇』(脚本は寺山修司、音楽は八木正生)。始めはこの手の映画を見慣れていないせいか、戸惑いを感じたが、慣れてくると、あまりのシンプルさに、なぜか懐かしさを感じて「ひょっこりひょうたん島」を思い出した。
 
All About おすすめ映画『快盗ルビイ』
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/c9a9fcd42226c9560cf7786a373c0c7f
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『麻雀放浪記』

2019-10-17 08:43:30 | 映画いろいろ
『麻雀放浪記』(84)(1984.10.24.)丸の内東映
 
 
 阿佐田哲也の原作を映画化した和田誠の監督デビュー作。終戦直後、焼け跡のドヤ街でドサ健(鹿賀丈史)と出会い、賭博の世界に足を踏み入れた坊や哲(真田広之)は、オックス・クラブのママ(加賀まりこ)や出目徳(高品格)と組んで麻雀にのめりこんでいく。やがて、独り立ちした哲は、ドサ健、出目徳、女衒の達(加藤健一)、上州虎(名古屋章)らと壮絶な青天井麻雀を繰り広げる。
 
 時代背景を意識したモノクロ映像、雀卓を旋回するカメラワークなどに、映画狂である和田誠のこだわりが見られる。もちろん麻雀を知っているのに越したことはないが、よくできたスポーツやギャンブルを描いた映画は、たとえルールを知らなくても楽しめるように、この映画も、不思議な縁で結ばれた個性的な登場人物たちが、生き残りを賭けて激闘を繰り広げるピカレスク(悪漢)ロマンとして存分に楽しめる。
 
 哲とドサ健が食べる銀シャリの輝き、大きな蛾を怖がるドサ健、ママのライター、開く勝鬨橋、「俺は最後のツキがない」と嘆く上州虎、九蓮宝燈を上がりながら牌を握りしめたまま死ぬ出目徳、出目徳を“裸”にして家まで運んでやるラスト、輪タクを漕ぐドサ健と哲、最後に上野の寛永寺の鐘の音とともに出る「終」の一文字など、印象に残るシーンも多い。
 
 監督としての和田誠の力量はもちろん、俳優たちの好演、共同脚本の澤井信一郎による印象的なセリフ、安藤庄平の『泥の河』(81)に続いての見事なモノクロ撮影、そして主題歌の役割を果たした岡晴夫の「東京の花売娘」などが相まって、いい映画を見たという満足感を得ることができた。
 
(1990.8.)
 この映画を見ると麻雀がやりたくなるのだから、やはりよくできているのだろう。モノクロということも手伝って、加賀まりこが小泉今日子と似ていることを発見した。となると、真田広之は続く『快盗ルビー』(88)でも、同じような役回りを演じさせられていたわけだ。和田さんは、この手の女優がお好みなのか。
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