『息子』(91)(1991.11.20.松竹セントラル2)
岩手の山村で独り暮らしをする父(三國連太郎)は、東京で気ままにアルバイト生活を送る末っ子の哲夫(永瀬正敏)が気がかりでならない。そんなある日、哲夫は資材を運んだ工場で見掛けた征子(和久井映見)という美しい女性に恋をするが…。
寅さんはさて置いても、それ以外の山田洋次の映画も最近はぱっとしない、と思っていたのは自分だけではないだろう。以前は『家族』(70)や『故郷』(72)といった、その時代を象徴するような傑作を生んでいただけに、最近のパターン化した寅さんや、ノスタルジーに走った『キネマの天地』(86)や『ダウンタウン・ヒーローズ』(88)を見るにつけ、その落差の大きさに歯がゆさを感じていたのである。
だから、この映画にも正直なところ大きな期待は持てなかったのだが、うれしいことに土俵際で見事にうっちゃられた。かつての『家族』などとは、ひと味違うものの、山田洋次がひたすらこだわり続ける家族、故郷、労働、恋愛といったテーマが、今という時代の中で、見事に描かれていたのである。
確かに、意地悪く見てしまえば、全く悪人が登場しないとか、今時あり得ないような不器用な恋愛の様子を、甘いと否定的に語ってしまうこともできるだろう。だが、この映画に関しては、山田洋次の執念を買いたい。さらに言えば、最近のお手軽な恋愛ものや親子ものにはない、ドキドキ感や切なさを感じさせてくれたことに感謝したいと思った。
加えて、相変わらず俳優の使い方が実にうまいと感じた。三國連太郎が東北の農家のおやじを違和感なく演じたことにも驚いたが、あえて常連の俳優を使わず、山田組のにおいを感じさせない俳優で統一したところに、この映画に賭けた山田洋次の思いの強さが表れていたと思う。自らが追い求めるテーマは守りながら、新たな可能性を示してくれたところが、ファンの一人としては大いにうれしかったのである。
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https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/7eaf9c7e33a62cf26ac990ab7d80022b
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