田中雄二の「映画の王様」

映画のことなら何でも書く

ビデオ通話で西部劇談議『ブロンコ・ビリー』

2021-12-04 16:17:25 | 駅馬車の会 西部劇Zoomミーティング

 今回のお題は、クリント・イーストウッド監督・主演の『ブロンコ・ビリー』(80)(1985.1.13.日曜洋画劇場)

 旅回りの一座「ワイルド・ウェスト・ショー」は、元は靴のセールスマンだが、早撃ちと馬の曲乗りを得意とするブロンコ・ビリー(イーストウッド)を座長にして全米各地を巡業していた。

 メンバーは、黒人の無免許医で司会担当のドク(スキャットマン・クローザース)、元銀行員で左腕が義手のレフティ(ビル・マッキニー)、インディアンでヘビ使いのビッグ・イーグル(ダン・バディス)と妻のランニング・ウォーター(シエラ・ペシャー)、兵役を拒否した脱走兵で縄使いのレオ(サム・ボトムス)。皆、文句を言いながらもビリーを信頼し、慕っていた。

 そこに、遺産相続のために仕方なく結婚したアーリントン(ジェフリー・ルイス)に財布を盗まれて一文無しになったアントワネット(ソンドラ・ロック)が転がり込んできて、騒動が起きる。

 初見時は、イーストウッドが愛人のロックを使って撮った公私混同映画のような感じがして、あまりいいイメージがなかったのだが、年を経て見直すと、ハンディを抱えた者たちの共同体としての姿や連帯感が描かれた映画として楽しく見ることができた。

 じゃじゃ馬でわがままなお嬢さまの変化は、フランク・キャプラ監督の『或る夜の出来事』(34)をほうふつとさせるし、ラストのカーテンコールもキャプラ的。西部劇と現代劇を融合させた演出も面白い。

 また、『荒野のストレンジャー』(73)からのルイスに、『アウトロー』(76)仲間のマッキニーとボトムズ、そしてジョン・フォード一家のハンク・ワーデンらが登場することで、脇役を大事にするイーストウッドの姿勢もうかがえた。

 イーストウッドは、この映画を「自分のキャリアの中で最も魅力的な作品の一つ」と語っているが、興行的には失敗し、ロックは、ゴールデンラズベリー賞最低女優賞の初代受賞者となった。

 ところで、70年代当時のイーストウッドは、同時代のスター、スティーブ・マックィーンやポール・ニューマン、ロバート・レッドフォードらに比べると、いい意味で、軟派で野卑でチンピラ的なイメージがあった。その意味では、この映画は、当時の彼の持ち味が生かされた映画だと言ってもいいだろう。

 例えば、ニューマンが、元祖「ワイルド・ウエスト・ショー」のバファロー・ビル・コディを皮肉たっぷりに演じた『ビッグ・アメリカン』(76)や、レッドフォードが、これも皮肉交じりに元ロデオスターを演じた『出逢い』=「エレクトリック・ホースマン」79)を考えると、両者の個性や、西部劇への思いの違いがよく分かる。

 そんなイーストウッドが一人生き残り、今や渋い名優兼名匠とされているのだから、人生は分からない。

メンバーが送ってくれた公開時の新聞広告

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1940年代日本映画ベストテン その8『野良犬』

2021-12-04 07:32:26 | 俺の映画友だち

『野良犬』(49)(1982.5.20.文芸地下.併映『銀嶺の果て』)

 この映画を見ながら、随分前にテレビで見たジュールス・ダッシン監督の『裸の町』(48)と似ていると思った。舞台がニューヨークと東京という違いはあるが、どちらも、当時の風俗を見事に捉えたセミドキュメンタリーの快作であり、戦後生まれの自分に、実際の当時の状況は分からないが、これが本物だと感じさせるものがあった。

 特に、三船敏郎が演じる、復員兵から刑事になった村上が、奪われた拳銃の行方を探って街を歩き回る描写にはすさまじいものがあった。戦場で生死の境を生きてきた者が醸し出す異様な雰囲気、何かに飢えたようなギラギラとした鋭いまなざし…、それが正邪のどちらに向かうのかは、まさに紙一重なのだと思える。

 この映画の村上と、犯人の遊佐(木村功)は、その両極を成している。それ故、村上は遊佐の気持ちがよく分かるし、自分も一歩間違えていたら、立場は逆転していたかもしれないとも思うのだ。終戦直後は、誰もが犯罪者になる可能性があったということ…。

 ところで、この映画の素晴らしさは、追っかけの連続によるテンポの良さに他ならない。村上がスリのお銀(岸輝子)を追い掛けるシーンに始まり、拳銃を探して猛暑の街中をさ迷い歩くシーン、後楽園球場の大観衆の中で拳銃密売人(山本礼三郎)を捕らえるシーン、雨中で撃たれる佐藤刑事(志村喬)、そして村上が遊佐を捕らえるラストシーンへと続き、アクション映画の醍醐味を存分に味わわせてくれる。

 また、黒澤映画の特徴の一つである、ギラギラした太陽、すさまじい豪雨などの描写も、この映画から始まったのではあるまいか。

 さて、以前、この映画を森崎東がリメークした『野良犬』(73)を見たことがあった。あの映画の時代背景は、高度経済成長末期の1970年代初頭。犯人は沖縄出身者で、暗く絶望的な映画になっていた。

 これは、この二本が作られた時代が異質のものであり、前者は混迷の中にも希望が見えた時代、後者は希望が消え去ろうとしていた時代、という決定的な違いがあったせいだろう。従って、前者には救いがあったが、後者にはそれがなかったということになる。

 そう考えると、今の80年代に、もしまた『野良犬』が作られるとすれば、それは一体どんな形になるのだろうかと思った。

(1990.7.)

 暑い、暑い、今年の夏は本当に暑い。毎日そんなことを口走りながら、そういえばこんな暑さを背景にした映画があったことを思い出した。黒澤明の『野良犬』である。そんなわけで、余計暑くなるかな、などと思いながら見始めたら、相変わらず面白くて、結局最後まで見てしまった。

 それにしても、40年という時代差を考えれば、またもう何度も見ているのだから、いい加減飽きてもよさそうなものだが、これが全く飽きないばかりか、何度見ても面白いのだから参ってしまう。

 そして、若い頃にこんなすごい映画を何本も撮ってしまったことへの反作用として、今の年老いた黒澤の映画への批判につながる気がして切なくなった。例えば、今をときめくスピルパーグにしても、長生きして40年後も映画を撮っていたら、同じような状況に陥ってしまうのだろうか。 

【今の一言】この記事からちょうど40年後の今、スピルバーグは『ウエスト・サイド・ストーリー』を撮った。まだまだ元気だ。

【コラム】「夏の記憶を残す映画5選」
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/b33efae7cbf1eec0d720733914871f97

 

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1940年代日本映画ベストテン その7『静かなる決闘』

2021-12-04 07:18:08 | 俺の映画友だち

『静かなる決闘』(49)(1982.5.17.文芸地下.併映『醜聞』)

 本当にこれは黒澤明の映画なのか、と目を疑いたくなった。全体的には、確かにヒューマニスト黒澤明の世界なのだが、安っぽいメロドラマのようになってしまっている。

 この映画で、唯一人間の本音が感じられたシークエンスを挙げるとすれば、野戦病院での手術中に図らずも梅毒に感染した主人公の医師・藤崎恭二(三船敏郎)が、恋人の美佐緒(三條美紀)に、それを知らせぬままに別れようとするところだ。

 美佐緒は、藤崎の本心を知らないまま、仕方なく他の男との結婚を決意し、その報告にやって来る。互いに相手を求めながら、それができないもどかしさ。藤崎は必死にこらえて美佐緒を送り出す。

 かっこ良過ぎるぜ。ここまで欲望を抑えることができるものか、などと思ったが、その後、秘密を知る見習い看護婦のるい(千石規子)に向って怒りと本音をぶつける藤崎の姿に、人間の本能を見た思いがしたのだ。

 ところが、ここだけなのである。後は何だかカッコを付けたやせ我慢の医者の物語に過ぎないように思える。

 あの『酔いどれ天使』がなぜ感動的だったのかといえば、それは志村喬が演じた酔いどれ医者の真田が、非常にカッコ悪かったからなのだ。言い換えるならとても人間くさかったのである。それ故、容易に感情移入することができたのだ。

 どうやら、黒澤は医者物が好きなようだが、その成功例が『酔いどれ天使』で、失敗例がこの映画ということになるのかもしれない(未見の『赤ひげ』はどちらなのだろう)。

 確かに、医者物は、人間の生死に関わるものだから、ドラマチックではある。ただ、一つ間違えると、テーマが重い分、内容がまずいと他のドラマよりも目立ってしまうところがあるのだろう。黒澤にも間違いはある、といったところか。

(1993.4.)

 今回再見してみる気になったのは、ある雑誌の紹介記事で「今、エイズの時代に、この映画の梅毒をエイズに置き換えて見ることで、別の側面からの再評価ができる」とあり、なるほどそういう見方もできるかと思ったからだった。

 ただ、それよりも驚いたのは、約10年前に初めて見たときには、ボロクソにけなしていた映画なのに、改めて見たらとても面白かったということの方だった。これだから我が鑑賞眼などは当てにならない。というよりも、映画を見て感じることは、甚だ流動的だということか。

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