『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』(2021.12.16.ディズニー試写室)
ウェス・アンダーソン監督が、雑誌『ニューヨーカー』にインスパイアされ、雑誌の記事をビジュアル化したような、一つのレポートと三つのストーリーから成る、一種のオムニバス映画を作った。ナレーターはアンジェリカ・ヒューストン。
舞台は、フランスの架空の街アンニュイにある雑誌「フレンチ・ディスパッチ」の編集部。社の代表でもある編集長(ビル・マーレー)が急死し、その遺言によってこの名物誌の廃刊が決まる。果たして追悼号=最終号の中身とは…。
まずは、自転車レポーター・サゼラック(オーウェン・ウィルソン)が、アンニュイの街を紹介。落語で言えば、これが“枕”だ。
「コンクリートの確固たる名作」は、美術記者のベレンセン(ティルダ・スウィントン)による、囚人画家ローゼンタイラー(ベネチオ・デル・トロ)と絵画の物語。彼に、うさんくさい美術商(エイドリアン・ブロディ)と美しい看守(レア・セドゥ)が絡む。
アンダーソンは、オムニバス映画『ニューヨーク・ストーリー』(89)の中の「ライフ・レッスン」(マーティン・スコセッシ監督作)に影響を受けたと語っている。
「宣言書の改定」は、ジャーナリストのクレメンツ(フランシス・マクドーマンド)による、学生運動の日記。学生役にティモシー・シャラメとリナ・クードリ。クリストファー・ヴァルツもちょいと顔を出す。こちらは、フランスの五月革命をベースに、フランソワ・トリュフォーやジャン・リュック・ゴダールの映画の影響を感じさせる。アメリカ人との対比や、議論好きで理屈っぽいフランス人の特色がよく出ている。
「警察署長の食事室」は、流浪の博識記者・ライト(ジェフリー・ライト)が、警察署長(マチュー・アマルリック)の息子の誘拐事件の顛末から、名シェフ(スティーブン・バーク)の横顔を語る。エドワード・ノートン、ウィレム・デフォー、シャーシャ・ローナンらが“端役”で登場。漫画とトーク番組と犯罪映画の要素を混在させている。
いずれも、シュールなブラックユーモアに満ち、一筋縄ではいかない展開を見せる。趣味性が強く、万人受けはしないだろうが、アンダーソンは端からそんなことは考えていないだろう。
全体的に、いささか、策士策に溺れた感もなくはないが、長く雑誌作りを経験した者としては、表紙、記事、イラスト、レイアウトはもとより、記者の仕事(文章)までビジュアル化するアイデアには興味を引かれた。