田中雄二の「映画の王様」

映画のことなら何でも書く

『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』

2021-12-17 14:41:33 | 新作映画を見てみた

『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』(2021.12.16.ディズニー試写室)

 ウェス・アンダーソン監督が、雑誌『ニューヨーカー』にインスパイアされ、雑誌の記事をビジュアル化したような、一つのレポートと三つのストーリーから成る、一種のオムニバス映画を作った。ナレーターはアンジェリカ・ヒューストン。

 舞台は、フランスの架空の街アンニュイにある雑誌「フレンチ・ディスパッチ」の編集部。社の代表でもある編集長(ビル・マーレー)が急死し、その遺言によってこの名物誌の廃刊が決まる。果たして追悼号=最終号の中身とは…。

 まずは、自転車レポーター・サゼラック(オーウェン・ウィルソン)が、アンニュイの街を紹介。落語で言えば、これが“枕”だ。

 「コンクリートの確固たる名作」は、美術記者のベレンセン(ティルダ・スウィントン)による、囚人画家ローゼンタイラー(ベネチオ・デル・トロ)と絵画の物語。彼に、うさんくさい美術商(エイドリアン・ブロディ)と美しい看守(レア・セドゥ)が絡む。

 アンダーソンは、オムニバス映画『ニューヨーク・ストーリー』(89)の中の「ライフ・レッスン」(マーティン・スコセッシ監督作)に影響を受けたと語っている。

 「宣言書の改定」は、ジャーナリストのクレメンツ(フランシス・マクドーマンド)による、学生運動の日記。学生役にティモシー・シャラメとリナ・クードリ。クリストファー・ヴァルツもちょいと顔を出す。こちらは、フランスの五月革命をベースに、フランソワ・トリュフォーやジャン・リュック・ゴダールの映画の影響を感じさせる。アメリカ人との対比や、議論好きで理屈っぽいフランス人の特色がよく出ている。

 「警察署長の食事室」は、流浪の博識記者・ライト(ジェフリー・ライト)が、警察署長(マチュー・アマルリック)の息子の誘拐事件の顛末から、名シェフ(スティーブン・バーク)の横顔を語る。エドワード・ノートン、ウィレム・デフォー、シャーシャ・ローナンらが“端役”で登場。漫画とトーク番組と犯罪映画の要素を混在させている。

 いずれも、シュールなブラックユーモアに満ち、一筋縄ではいかない展開を見せる。趣味性が強く、万人受けはしないだろうが、アンダーソンは端からそんなことは考えていないだろう。

 全体的に、いささか、策士策に溺れた感もなくはないが、長く雑誌作りを経験した者としては、表紙、記事、イラスト、レイアウトはもとより、記者の仕事(文章)までビジュアル化するアイデアには興味を引かれた。

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『キングスマン:ファースト・エージェント』

2021-12-17 07:38:07 | 新作映画を見てみた

『キングスマン:ファースト・エージェント』(2021.12.10.ディズニー試写室)

 1914年、世界大戦をひそかに裏で操る闇の狂団に、英国貴族のオックスフォード公(レイフ・ファインズ)と息子のコンラッド(ハリス・ディキンソン)が立ち向かう。

 スタイリッシュな英国紳士が過激なアクションを繰り広げる人気スパイアクションのシリーズ第3作。今回は、世界最強のスパイ組織「キングスマン」の誕生秘話を描く。

 実在の人物として、イギリス国王ジョージ、ドイツ皇帝ウィルヘルム、ロシア皇帝ニコライ(トム・ホランダーの一人三役!)、ロシアの怪僧ラスプーチン(リス・エバンス)、女スパイ・マタ・ハリ(バレリー・バフナー)、キッチナー卿(チャールズ・ダンス)、ウッドロー・ウィルソン米大統領(イアン・ケリー)らが登場し、オックスフォード親子と絡む。

 前2作に見られた残酷描写やグロテスク味を抑え、史実の中に架空の人物を入れ込んで、自由に話を展開させるという趣向。特に、ホランダーに一人三役を演じさせることで、いとこ同士がヨーロッパを支配し、彼らの確執が大戦勃発に大きく影響したことを示唆するのは面白い発想だ。その他、ちょっとやり過ぎなところもあるが、ラスプーチンが傑作だった。

 また、中盤の戦場の場面は、『1917 命をかけた伝令』(19)をほうふつとさせるところもある。ラストを見ると、また続きが作られそうな感じがしたが、今度はここから現代に向っていくのだろうか。 

【ほぼ週刊映画コラム】『キングスマン』
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/03e97e887fee7f0a1df20dd255b60d41

【ほぼ週刊映画コラム】『キングスマン:ゴールデン・サークル』
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/ec00fdf73ac4f5e914d967ba12d0184e

レッツエンジョイ東京「おすすめのお正月映画情報2022年」
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/79d776feb629af0b5bb87c755703b9f1

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする