田中雄二の「映画の王様」

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『愛する人に伝える言葉』

2022-10-05 16:52:20 | 新作映画を見てみた

『愛する人に伝える言葉』(2022.10.5.オンライン試写)

 39歳で末期の膵臓ガンを患った演劇教師のバンジャマン(ブノワ・マジメル)は、確執のある母のクリスタル(カトリーヌ・ドヌーブ)と共に、名医として知られるドクター・エデ(ガブリエラ・サラ)のもとを訪れる。

 エデは「ステージ4の膵臓ガンは治せない」とはっきりと告げながら、病状を緩和する化学療法を提案し、「命が絶えるときが道の終わりだが、それまでの道のりが大事。一緒に進みましょう」とバンジャマンを励ます。

 エデの助けを借りながら、バンジャマンは限られた時間の中で人生を見つめ直し、「人生のデスクの整理」をしながら、死と対峙していく。一方、クリスタルは息子の最期を見届けることを決意するが…。
 
 監督は女優でもあるエマニュエル・ベルコ。今年のセザール賞でマジメルが最優秀主演男優賞を受賞しているが、影の主役は、実際にがん治療の専門医師であるサラなのではないかと思えるような名演を見せる。

 この映画は、いわゆる終活や終末医療の様子を描いているのだが、ユニークなのは、音楽セラピーの様子だ。

 冒頭で医師と看護師が「君には頼る人が必要。私を頼って」と歌う「リー・オン・ミー」(ビル・ウィザース)、あるいは別れを明るく歌う「バイ・バイ・ラブ」(エヴァリー・ブラザース)、そして病床で歌われる「ナッシング・コンペアーズ・トゥー・ユー/愛の哀しみ」(プリンス)など、歌詞が持つ意味がきちんと反映されているのが面白い。

 また、この映画は、生と死の間を淡々とドライに描き、単純なお涙頂戴話や、安易なハッピーエンドにはしていない。ところが、官能的なダンスのシーンや、バンジャマンに愛情を寄せる看護師(セシル・ドゥ・フランス)を登場させたり、医師と看護師が患者や治療について話し合う場面などはディスカッションドラマの様相も呈するところなどが、フランス映画の真骨頂なのではないかと感じた。

コメント
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