硝子戸の外へ。

優しい世界になるようにと、のんびり書き綴っています。

耳をすませば。 彼と彼女のその後  33

2013-08-09 19:29:49 | 日記
「あ~。話したら気持ちが楽になったわ。雫にあえてよかった。」

「ううん。私、何もしてないし、できていないよ。」

「そんなことないよ。雫だからこそ得られた言葉があるもの・・・。」

「雫だからこそ得られた言葉がある。」と言われ、こんな私でも何かの役に立てたという気持ちがとても嬉しかった。でも、話は意外な方向へ向かい出した。

「で、雫はどうなの? 上手くいっているの?」

「普通だよ。本当に平凡だけれどうまくいっていると思う。」

「あらそう。なんだか悔しいわね。」いたずらっ子のように無邪気に言った後、コーヒーカップを手に取りを飲んだ。その時、私は真実を話した方がいいのか、それともこのまま言わない方がいいのか、どうするべきかとぐずぐず考えていた。

「そういえば、初恋も、その失恋も雫に相談したよね。そして今度は結婚の危機の相談って・・・。なんだか不思議だよね。」

「ああっ。そうだったね。覚えてるよ。中学生最期の夏休みの時でしょ。」

「あの失恋は思い出深いわぁ。失恋って後にも先にもあれ一度だけだもの。」

「えええっ!! そっ、そうなの?」私はひどく動揺した。そして、踏み込んではいけないところに足を踏み入れたような心持がした。

「野球部の杉村。」

その名前を聞いて鼓動が速くなった。

「あのバカ。今頃なにやってるんだろうね。今の私のこの美貌を見せて、後悔させてやりたいわ。」

「ハ、ハハハハッ。 そっそうね。なにやってるんだろうね。あのバカ・・・。」

「でもね。あんなに純粋に好きになったのは後にも先にもあれっきりだわ・・・。もし、あの時、杉村君が私の事を好きだって言ってくれたら、私・・・。彼の事ずっと好きでい続けられたと思うのよ・・・。そう考えるとね。すごく残念な気持ちなる。もう、結婚しちゃったのかなぁ・・・。」

その言葉を聞いて真実を話す機会を失ってしまった。もし、真実を話したらこの場の空気がどう変わってしまうかそれが怖くて私は真実を飲み込んだ。でも、それはさらに自分自身を苦しめる事になってしまうのではないかと思っていたけれど、どうする術も持ち合わせていなかった。

耳をすませば。彼と彼女のその後  32

2013-08-09 06:13:35 | 日記
「そうそう。性格ってなかなか直せないね。私もこのぐずぐずした性格を何とかしたいって思ってるけど、思っているだけで、なんともならないんだからときどき嫌になるんだぁ。」

そう言って二人で笑った。

「恋愛も同じね。思うようにはならないものなんだわ・・・。」

「うん。私もそう思う。」

「それでも、やっぱり・・・。両想いの人がいたらいいなぁ・・・って思うよね。 辛い時、はげましあってがんばれたらって・・・。」

「うん。」

「浮気されてしまった原因は私にもあるとは思うけれど、でも、それは話してみないと分からないし、私の頑張りだけじゃあどうにもならないものね・・・。たしかに両想いで結婚したわけではないけれど、それでも想っていれば、いつか両想いになるんじゃないかと思っていたのに・・・ね。」

夕子は本当に旦那さんの事を想っていたんだなと感じた。それなのに、旦那さんは、浮気してしまった。その行為が夕子の心をどれほど傷つけているか分からないんだろうかと思った。

「夕子。大丈夫?」

夕子は目にいっぱい涙をため、こぼれないように唇を少し噛みしめていた。私が声をかけたら、慌ててハンカチを取り出し涙を抑えた。

「うん。大丈夫。ふふふっ。いやあねぇ。涙もろくって。」

私はじっとして夕子が話し出すのを待っていた。ここで何か話しかけても上手く癒す事が出来ないと思ったからだ。

「なになに。本当に大丈夫だって。これ位の事で負けてられますか。」

そう言って、無理に笑顔を作って見せた。