硝子戸の外へ。

優しい世界になるようにと、のんびり書き綴っています。

耳をすませば。 彼と彼女のその後  38

2013-08-15 08:10:27 | 日記
「でもさ。例外としてだけど、浮気が本気になって、奥さんと離婚して浮気相手と再婚した人がいるよ。」

「うぁ~。駄目だぁ。私のキャパシティ超えたぁ!! でもでも、それで、幸せになったの? 」

私の問いに、優一は腕を組み「う~ん」と唸って暫く考えた。

「幸せかどうかは分からないけれど、最初の奥さんとは結婚してみたけど、いざ生活となると価値観があまりにも違いすぎて、ギスギスしてしまったんだってさ。でも、二人目の人は共通点も多いからすごく楽だっていってたよ。」

「ふ~ん。そんなものなのかなぁ。歩み寄る努力は必要ないのかなぁ。」

「努力ねぇ。生活なんだから、お互いに我慢するより楽な方がいいじゃん。」

「そうかな。そうかもしれないけど。」

「けど?」

「・・・よくわからない。」

「うん。よくわからないもんだよ。人の気持ちなんて100%分かりっこないんだから、それなりに分かっているってくらいでいいんじゃない。たしかに歩み寄る努力は必要かもしれないけれど、それだと、しならいうちに歩み寄りすぎてしまうかもしれない。それが正しい気持ちだって信じてしまえるほど確かならいいとは思うけれど、それだと、本当に都合がいい人になってしまうんじゃないか。だから、そこそこに相手を思いやる。これがいいんじゃないかと思うよ。」

「う~ん。たしかにそうかもしれない。じゃあ私の事もそこそこなの? 」

「嫌だなぁ。 雫さんの事は愛してますよ。」

「・・・ばか!」

でも、たしかにそうかもしれない。思いつめると大切な事まで見落としてしまうのだから、思いつめないように気をつけなくてはいけない。でも、今までどうしてこんな感情にならなかったのだろうか。ぼんやりとでしか愛とか恋とかを考える事がなかったから自分の気持ちがよくわからないのだろうか。
ちがう。天沢君への気持ちは長い時間をかけて私の中で大切に育んだ確かな気持であった。だから衝動的な感情に揺さぶられる事がなかっただけなのだ。
それが、昨日確かな気持ちを抱いていた彼が目の前に現れたから、今までには無かった感情が心のどこかから湧き上がってきたんだろうと思った。でも、そう考えている目の前で私の作った料理を美味しそうに食べてくれている優一を見ていると少し居心地が悪くなった。