硝子戸の外へ。

優しい世界になるようにと、のんびり書き綴っています。

耳をすませば。 彼と彼女のその後  43

2013-08-20 07:28:34 | 日記
「じゃあ、今は準備中? 」

「はい。 今は知り合いのカフェで働かせてもらっていて、ノウハウを習得しているところです。 それと去年、調理師の免許も取ったから、美味しい料理も作れるように修行してます。」

「すごい! でも、いろいろ大変じゃないですか? 」

そう言うと、彼女は少しはにかみ、ほうきで床を掃きながら話を続けた。

「え~。全然すごくないですよ。それに好きな事だからあまり苦にならないです・・・。まぁ、お金とか準備とかはさすが四苦八苦してるけれど、彼も手伝ってくれるって言っているし、お祖父ちゃんやお父さんも協力してくれるから何とかなりそうです。それに西さんが私の夢に賛同してくれて、このお店をビックリするほど安くで譲ってもらえたから実現できたんです。だから私の力なんてほんの少しだけなんですよ。」

そう言う彼女を見ていて、ああこの人なら地球屋を大切にしてくれそうだと思った。そして、西さんが誰かのために働いた軌跡を見つけた事に感動した。

「謙遜なさらなくてもいいと思います。私なんかじゃ絶対無理ですもの・・・。オープン楽しみですね。」

そう言うと、彼女は初めて笑顔を見せて快活に答えた。

「はい。私もすごく楽しみです。だからなんとか年末くらいにはオープン出来るようにと、準備を進めています・・・。あっ、そうだ。もし差支えなければオープンが決まったら連絡さしあげましょうか? 」

私は「よろしくお願いします。なんだかわくわくしてきました。」と言ってアドレスを交換した。翠さんとは友人になれそうな気がする。何となくそう思った。
その後、調理師でもある翠さんにお料理の調理法の相談をして盛り上がったけれど、これ以上彼女の手を煩わせてはいけないと思い、話を手短に切り上げた。
去り際に「また、かならずきますね。」と言ってお別れのあいさつをすると、翠さんも「お待ちしています。」言って店の外まで出てきて私を見送ってくれた。

地球屋は新しい主を迎えて次の世代に引き継がれてゆく。西さん亡き後、地球屋は無くなってしまうのだろうかと思っていたけれど、翠さんのような人が西さんの想いを引き継いでくれて本当によかったと思った。

図書館のそばに繋がる急な階段をゆっくり下ってゆく。眼下には杉の宮の町並みが見える。
足取りは軽く、初めて地球屋を訪れた時と同じような心持がした。