硝子戸の外へ。

優しい世界になるようにと、のんびり書き綴っています。

耳をすませば。 彼と彼女のその後  52

2013-08-29 17:21:34 | 日記
ミサの時間が近づいてくると次々に人が訪れ、さっきまで静かだった教会がにぎやかになった。
登志子さんは、「なるべく身内だけで済まそうと思っているのだけれどね。」と言われていたけれど、結局そうにはならなくなったみたいだ。でも、西さんの追悼ミサなのだから、沢山の人が駆けつけるのも今なら頷ける。
登志子さんとおばさまの姿が見えたので、ご挨拶に伺うと「よく来てくださいましたね。ありがとうございます。」と言われ、とても恐縮してしまったがこの間の印象もあってかすぐに打ち砕けしばらく雑談を楽しんだ。

すると、天沢君と翠さんが楽しそうに話をしながら教会に入って来るのが見えた。

それを見た登志子さんは「あら、イタリアの伊達男だわ。やっぱり綺麗なお嬢さんがそばにいるのね。」といって笑った。

そんな事を言われているとは知らずに、天沢君は手を挙げて、翠さんとこちらに向かってきたが、隣にいる翠さんはニヤニヤしていた。

「雫。今日は本当にごめん。午前中にどうしても合わなければならないと人が出来てしまって。」と、言うと、登志子さんは、

「あら、デートじゃなくって? イタリアの伊達男さん。」と言った。隣にいる翠さんは笑いをこらえていた。

私も登志子さんに負けじと、少し上から目線で「あら。別にいいわよ。待たされることにはもうなれちゃったから。」と皮肉交じりに答えた。

「嫌だなぁ。なんでみんなして僕をいじめるのさ。そう言われると本当に胸が痛いよ。」と、言っておどけていた。

私は「嘘よ。冗談だよ。」と言って微笑んだ。すると、登志子さんは「駄目よ。そんなに甘やかしては。」と言って私達は笑った。

前の私ならこんな皮肉めいた冗談なんて言えなかっただろう。少し心が強くなった自分がいる事に嬉しさを感じた。

天沢君は「オホン」と一つ咳払いをすると。「まあまあ皆さんお静かに」と言って、隣にいる翠さんを紹介を始めた。

「この美しいレディは、なんと今度、地球屋でカフェとして開く、オーナーの北翠さんです。そして、この北さんは地球屋でおじいちゃんとよくセッションしていた北さんのお孫さんなんだよ。」と、誇らしげに言い終わると、私と翠さんは笑ってしまった。

「なになに。何がおかしいのさ。えっ。どういうこと?」と、少し困惑している様子なので、事情を話したら、とても驚いていた。

「もう、メール交換もしたんだよ。びっくりしたでしょう。」

「まいったなぁ。それは驚くよ。そんな事があったなんて夢にも思わないから。」

「私達も本当に偶然の出会いだったからね。」そう言うと、翠さんも深く頷いていた。
私は早速、昨日丹念に教えてもらった料理を作って、みごとに夫を驚かせた事を報告した。すると彼女は「でしょう!」と嬉しそうに微笑んだ。