硝子戸の外へ。

優しい世界になるようにと、のんびり書き綴っています。

耳をすませば。 彼と彼女のその後  31

2013-08-08 07:51:00 | 日記
「私じゃあちょっと手に負えないかも・・・。う~んとね。そういえば、心理学の先生が、夫婦が相手を理解しようと思ったら、理性だけで話し合うのではなく「井戸」を掘らないと駄目だっていってた。」

「井戸? 井戸って、水を汲むあの井戸?」

「そう井戸。まぁ、私もよくわからないんだけれど、共に苦しみを分かち合い最終的に水脈を掘り当てるって事らしいんだ。でも、不思議なのは、別にしなくてもいいとも行っているんだよ。」

「?」

「えっとね。たしか・・・、『自分は不幸だ不幸だと嘆いて、人に迷惑かけるくらいなら、離婚するのも一つの方法』だって言ってた気がする。」

「ああっ、そういうことね。」

「愛し合って結婚したら必ず幸福になるという事はないんだって。本当に相手を理解しようとするなら、共に苦難の道を歩まなくてはならないだろうっていうんだよ。でも、どうなんだろうね。私としては毎日楽しくありたいと願うのはダメなのかなと思ってしまうんだよ。」

「うん。たしかに。」

「でも・・・。私だけが楽しければいいってわけじゃない。相手も楽しくなければ関係が成り立たないと思うし、一方的に我慢するというのも間違っていると思う。」

「うん。うん。」

「だから、関係を保とうと思ったら互いに気を使い合わなくてはならないという事なのかもしれないね。」

「なるほどねぇ。」

「でも、ある思想家の人は、インテリの社会ほど一夫一妻制ではないと言っててね、表面的にはそのように振舞うけれど、どちらかが「ズル」をして表面的に添い遂げたことにしてしまっているって・・・。あとね。おしゃべりしている男女が立っている地面の下には因習とか伝統とか家族制度という泥沼、男と女が個人と個人でいられない泥沼がある事を見ないでいると間違うって言ってた気がする。」

「へぇ~。すごいね。さすが図書室の主。」

「すごくないよ。言葉にはできるけれど、それだけだから・・・。」

「いえいえ。それでもすごいと思うよ。私なんて頭では分かっているけれど、すぐ感情的になってしまうのよ・・・。直さなきゃって思うんだけれど・・・。性格ってなかなか修正できないものね。テニスのスイングなら修正できたんだけれどね。」

そう言って夕子は暗い話題を払拭するように笑った。