明日に向けて

福島原発事故・・・ゆっくりと、長く、大量に続く放射能漏れの中で、私たちはいかに生きればよいのか。共に考えましょう。

明日に向けて(512)海は大震災以前から危機に瀕していた!・・・大槌訪問を終えて3

2012年07月19日 08時00分00秒 | 明日に向けて(501)~(600)
守田です。(20120719 08:00)

福島県喜多方市の旅館からです。一昨日、山形に赴き、夕方から市内で講演会
を行い、昨日は朝10時から講演会、そのあとみなさんとおいしいお蕎麦を食べて
車で米沢市に向かい、午後4時半から6時まで放射能をめぐる懇談会、午後7時
から講演会を行いました。

山形・米沢でも素晴らしい出会いに恵まれ、たくさんの得がたい情報を得る
ことができたのですが、本当に残念ながら、いまはそれを文字に落とす余裕が
ありません。頭の中のメモリーが消えてしまわないか心配ですが、その前に
大槌で頭に書き込んだことの続きを記しておきます。

今回の大槌訪問で大きかったのは、三陸沖で長年にわたって漁を行ってきた
漁師さんともお話することができたことでした。かりにAさんとしておきますが、
この方から三陸の海の状態をお聞きしました。そこで実は放射能の問題
以前から、海が本当に大変なことになっていることを教えてくださいました。

この方の行っているのはイルカ、カジキ漁です。「つちんぼう」と言って、モリを
かかえて海にのぞみ、浮上してきたイルカやカジキをこれでついて漁を行います。
三陸はもともと鯨漁も行ってきたところですが、この方たちの漁はすでに100年の
歴史があるそうです。

大津波が押し寄せてきたとき、Aさんはたまたま三陸海岸の他の港に船を
係留していて、そこから離れていました。「そのため、助けにいけなかった」と
悔しそうに語られました。いつものように大槌に船があったら、すぐに乗って
沖に出せたそうです。「助けにいけなかった」という言い方に船への愛着を
感じました。

そのAさんはいろいろと悩んだ末に漁の再開を決意されました。すでに新しい
船の準備が進んでいます。新たな船は8トン。値段を聞くとなんと5000万円
するそうです。ただし政府から補助が出る。自己負担は9分の1、450万円になり
ます。「でもそれだけじゃねえんだ」とAさん。道具も何も流されてしまった
ため、それらを買い揃えなければなりません。機材も必要です。それで結局、
1500万円ぐらいはかかるのだそうです。
「この年でこれを返すのは大変だ。でも俺は海でしか生きられないのよ」と
Aさん。
(ちなみにAさんは大槌の方言で語られます。僕は聞き取りはほぼできたの
ですが、その言葉を今、再現できません。それがとても残念です)

さてAさんの行う漁は先にも述べたように、「つちんぼう」というイルカやカジキ
を対象としたいっぽんづき漁です。イルカを獲っていると聞いて、「残酷な」と思わ
れる方もいるかもしれません。僕も野生生物の保護についていろいろと思うところは
あります。でもAさんのお話を聞いて、海を思う気持ちに次第にうたれていきました。
なのでイルカを愛する方にもぜひこの先を読んで欲しいと思います。


三陸沖は日本列島周辺を通るふたつの海流の黒潮と親潮が南北からやって
きて交わるところで、そのためにたくさんの魚が集まる最高の漁場です。
なんと世界三大漁場と言われていることをはじめて知りました。この方が目当てに
しているイルカもカジキも、ここに集まる魚を目当てにやってくるのです。
小魚を漁にくるわけですが、それをまた人間が漁をしてきたのです。

ところが近年、その三陸沖で魚が物凄い勢いで激減しているのだそうです。漁獲量も
どんどん減っていて、そのため大津波以前から、この漁民の方たちの生活は悪く
なる一方だったそうです。Aさんが追いかけるカジキも集まらなくなってしまってい
る。このカジキを目的とした「つちんぼう」ちういっぽんづき漁には、遠く愛媛県や
大分県から、毎年数十隻の船がやってきたそうですが、今は三陸まで来る船が
どんどん減ってしまい、なんと今は最後の1隻がやってきているだけなのだそう
です。漁が壊滅しているのです。

ではなぜそんなことが起こっているのか。「俺はもういいたくねえ」としばらく
言葉をにごしていたAさんでしたが、話が進むうちに教えてくださいました。
原因は船で網をひく漁のためだなのだそうです。船が二艘一緒になって大きな
網をひく。なんと数キロの網をひくこともあるそうです。これが魚類を乱獲
してしまっている。それが三陸沖で、いや日本近海のいたるところで行われて
いて、そのために魚たちの数が回復できず、どんどん減っているのだそうです。

網をひく漁には、海の底を引くものや、浅い層から中層をひくものなど、種類の
差があるそうですが、この後者にあたる「流し網」がもっとも打撃力が大きい
そうです。「海は本当に大変なことになっている。このままでは死滅する」と
おっしゃるAさん。

Aさんはイルカ漁を題材とした映画「コーブ」や、捕鯨やイルカ漁に反対して
アグレッシブな行動を続けているシーシェパードにも批判を向けました。
自分たちの行っているイルカ漁は、イルカと一対一で向き合うもので、乱獲に
などなりはしない。ちゃんと頭数保護も行ってきた。だから100年の歴史を
持っている。

ところが網をひく漁では、イルカなど目指してないのに、そこにイルカをまきこん
でたくさん殺している。イルカだけではない。実は魚をとりに集まる海鳥もたくさん
ミズナギドリ、アホウドリなど、保護の対象になっている鳥たちもたくさん殺されて
いる場を見てきた。海ガメなどもそうだ。

そのためたとえば昔は、水族館で人気者のマンタなどもこの海域でいくつもみる
こができた。たくさんマンタが泳いでいた。でももう何年もマンタをみなくなった。
マンタも網でやられてしまったはずだ。本当にたくさんの海の生き物がいっぺんに
獲られ、あるいは巻き添えをくって殺されている。貴重生物といわれているものも
たくさん獲られていて、実際には法律違反だらけだ。

ところがこの海を一番だめにしている日本の漁のあり方が問題にされずに、
自分たちのイルカ漁だけに批判がされている。そもそも自分がとっているのは
陸前イルカやイシイルカで、水族館で芸をしているバンドウイルカやカワイルカ
とは違うということすら理解されていない。しかもそうしたイルカたちが
ただ魚を獲るために殺されているのにそれには知らん顔だ。

本当に海はこのままではだめになる。自分ももうこの漁を息子たちには伝え
られない。そのためもう一度船を買ってやるかどうかとても悩んだ。その末に
自分は船をもう一度買うことにした。それで自分なりに精一杯やってみる
つもりだけれど、このままでは海の未来は本当に暗い。

自分は思うのだけれど、北方領土は日本に返還されないほうがいいと思う。
あそこはとてもいい漁場だからだ。そこに日本のやり方が持ち込まれたどうなる
か。1年で海はめちゃくちゃになる。まだロシアの方が海を大事にしてくれる。
自分は北方の海がだめになるのをみたくない・・・。


実は本当に奇遇なことにというか、今回の旅に出る前に、京都で僕の講演を
聞きにきてくださったある女性から次の本をいただきました。『ワールド・イズ・
ブルー 乱獲、汚染、絶滅――母なる海に迫る危機』というタイトルの本です。
シルビア・アール著、古賀祥子訳です。

これを半分ほど読んで大槌に向かったのですが、まさにそこにはAさんが語って
くださったのとおなじ観点のことが書いてありました。日本だけでなく世界中の
海で乱獲が起こり、魚たち、海の生き物たちが激減しているのです。この海を
守らなければ私たちの未来はないとこの本は警告しています。

とくに印象的だったのは「ブルー」という言葉です。私たちが環境問題を考える
とき、合言葉になるのは「グリーン」です。日本の中でも「緑の党」をたち
あげようとの動きもあり、僕も期待しているのですが、この場合、グリーンという
言葉からイメージされるのは、木々であり、森であり、草原です。

しかし私たちの地球を表面をしめているのは圧倒的に海=ブルーなのです。
このブルーを守ること、この意識に私たちはまだまだ覚醒していないのではないか。
少なくとも僕はそうであることを気づかされました。そうした思いを胸に
三陸海岸を訪れた僕には、放射能の問題にとどまらずに海の問題を考察したい
との思いがありました。そんなときにAさんと出会えたことはまさに天恵で
あると僕には思えました。


人間の乱獲によって、海は本当に深い傷を受けてしまっている。悲しいことに
そこに私たちの国は膨大な放射能を流してしまった。数少なくなってしまった
魚たち、海の生き物たちを、いま、猛烈な勢いで放射能が襲っているはずです。
胸がいたい。悲しい。もどかしい。なんとも言えない気がします。

海は生命の源です。私たちが生まれてくるとき、お母さんの胎内で羊水にくるま
れて私たちは育つわけですが、実はこの羊水の成分は海水とほとんど同じなのだ
そうです。まさに私たちは海の中から生まれてきたのです。その私たちが
海を殺そうとしている。それは私たち自身を殺してしまうことです。

ブルーを守ること、海に謝り、海を慈しみ、海を復活させていくこと。
そのためにも私たちは努力を傾けていかなくてはならない。
そのことを僕は大槌の漁民の方から教わりました・・・。


そろそろ今日の講演地である会津若松市に向かいます!

コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする