守田です。(20121018 09:00)
3月に上梓した『内部被曝』、いまなお、多くの方が読んでくださっていて、最近、4刷が決まりました!とてもありがたいです。
同書には矢ヶさんが解明してきた内部被曝のメカニズムと脅威を、できるだけ分かりやすく書けたと思っていますが、同時に、広島・長崎原爆以降、アメリカ核戦略の最重要課題として、内部被曝隠しが行われきたことを後半で平易でありながら詳しく解説しました。
自画自賛ですが、非常にバランスが取れた著述になったと今でも思います。6月に放影研に、ドイツからのおふたりとともに訪問するなどして、ますますその思いを深めてきました。
これから私たちは長い期間、放射線被曝、とくに内部被曝の脅威と向かい合い続けて行かなければなりませんが、そのために必要な基礎的知恵をここに盛り込むことができたと自負しています。
ぜひみなさんに読んでいただきたいし、広めていただきたいと思っているのですが、そんな折り、僕から30冊を買ってくださった元東洋大学助教授の杉浦公昭先生が、首都圏での脱原発デモの現場で、同書を売り歩いてくださっていたという話を、東京の友人から聞きました。胸が熱くなりました。
僕はさらにこれに次ぐものを作っていきたいと思います。より研究を深め、より筆を磨いて、みなさんの手元に必要な知識を、わかりやすい形でお届けする努力を続けます。
同書の購入先を記しておきます。
『内部被曝』購入先
岩波書店販売部 電話03‐5210‐4111
岩波書店ブックオーダー係 電話049‐287‐5721 FAX049‐287‐5742
岩波書店ホームページ http://www.iwanami.co.jp/hensyu/booklet/
またいろいろな方が、ご自身のHPやブログで、同書を紹介してくださっていますが、そのうちのひとつの「里山のフクロウ」というブログを見つけました。きちんと内容を把握してくださっていてありがたいです。
感謝を込めて、同ブログの内容をここに転載させていただきます。
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矢ヶ崎克馬・守田敏也対談『内部被曝』を読む
里山のフクロウ
http://minoma.moe-nifty.com/hope/2012/06/post-1373.html
地元での「脱原発&放射能から子どもをまもる」活動の最初の集まりは、放射能の健康への影響を取り上げた映画『放射線内部被曝から子どもを守るために』(企画・制作:家庭栄養研究会・食べもの通信社・全国農村映画協会)の上映会と決まりました。
広島・長崎とチェルノブイリの教訓から、放射能の健康への影響を紹介するとともに、被曝を少しでも減らすための食生活の工夫や免疫力を高める食べ方・暮らし方を提案しています。
集会では、映画上映とともに、内部被ばくについての学習会も計画しました。そこで、この映画に出てくる原発・放射能・内部被ばくなどに関する専門用語を説明した、簡単なパンフレットを作ることにしました。このため早速、にわか勉強の開始。最初のテキストは、矢ヶ崎克馬・守田敏也対談『内部被曝』(岩波ブックレット、2012.3刊)。
矢ヶ崎克馬さんは長年、放射線内部被曝を研究してきた物理学者で、03年から原爆症認定集団訴訟で「内部被曝」について証言してきました。また、3・11以降は沖縄から福島に赴き、数多くの講演会で内部被曝の危険性を訴えてきました。
このブックレットから、「内部被曝のメカニズムとおそろしさ」について、要約します。すべて、同書からの引用です。
内部被曝のメカニズムを理解するためには、その前提となる「物質」について理解する必要がある、と矢ヶ崎さんは力説されます。最初のポイントは、「電離作用と分子切断」。
つまり、放射能が飛んできて電子にあたると、放射能の持つエネルギーによって、電子を軌道から弾き出してしまう(電離作用)。そうすると電子と電子のペアが壊されて、結合が解け、分子が切断されてしまう(分子切断)。人間のすべての分子は何らかの生命活動をつかさどっているので、分子切断がおこると、生命活動に障害が生じる。
一方、生命体ゆえに、切断された分子を修復し、再び結合しょうとする。しかし、この再結合は、正常におこなわれる場合と異常な場合がある。この「分子切断」と「分子再結合」の相対立する作用、および「正常再結合」と「異常再結合」の相反する修復結果が、放射線被曝を理解するための鍵となります。
以上を踏まえて、放射線被曝による二つのタイプでの危険性が、指摘されます。
ひとつは、分子切断での破壊効果による危険性です。多くの放射線が身体に吸収されて、多量の分子切断が生じると、それぞれの生命機能がうまく働かなくなり、急性症状が出てくる。脱毛、下痢、出血、紫斑などの症状がで、分子切断が多量の場合、死にいたる。このことを、高線量被曝による急性症状といい、おもに外部被曝によってもたらされる。
第2のタイプの危険性は、異常再結合による危険性です。つまり、生命活動がまさって修復作業が進むものの、間違って結合してしまうケースです。
二重になっているDNAは、一本が切られても片方が残っていて、正常につなぎ直すことができる(正常再結合)。しかし、分子切断が密集して起こっている場合は二重らせんの両方とも切られてしまう。その場合は切断された切り口が周囲にあることによって、間違ったつなぎ直しをしてしまう可能性が高い。その結果、遺伝子が組みかえられて、遺伝子情報が誤って書き換えられてしまう(変成)。
変成は、放射性微粒子が体内に入ってしまう内部被曝で増大する。変成された遺伝子を持つ細胞が分裂をくり返したり、変成が数十回くり返されると、ガンにいたると考えられている。免疫力が低下し、さまざまな体調不良や病気、倦怠感につながるといわれている。
また、遺伝子の組み換えによって、不安定さが子孫に伝わる危険がある。
これらは、「晩発性の危機」といわれ、低線量被曝でも生じる内部被曝特有のものです。
分子切断の生じ方は、放射線の種類によって異なり、ダメージのあり方もかなり違います。まず、各放射線の特徴について。
アルファ線は、一番エネルギーが多く、重い粒子が飛ぶ。飛距離は、空気中で45㎜、体内で40μm(4/100 mm)。1本のアルファ線が飛び出してから全エネルギーを使い切って止まるまでに、約10万個の分子切断をおこなう。
ベータ線は、大きなエネルギーを持つ高速電子。空気中で1m、体内で1㎝ほどしか飛ばない。1本のベータ線は、2万5千個の分子切断をおこなって止まる。
ガンマ線は、大きなエネルギーを持つ電磁波。空気中で70m飛び、体内は突き抜ける。物質中の原子との相互作用は弱く、距離あたりの分子切断は、非常に少ない(ゆえに遠くまで飛ぶ)。
外部被曝の場合は、アルファ線とベータ線の飛距離がきわめて短いために、それらによって被曝することはほとんどない。外部被曝で人間に突き刺さるのは、ほぼガンマ線だけ。しかも、体に向かってくる一方向のガンマ線だけにあたる。
一方、内部被曝の場合は、3つの放射線を発する放射性微粒子を、呼吸や飲食で体内に入れてしまうので、すべての放射線に被曝することになる。そして、体内に入った放射線は、全方向に向かって飛ぶために、出てきた放射線すべてが、あたってしまう。
ガンマ線は、原子との相互作用が少ないために、「まばらな分子切断」をおこなうことになる。このため、放射線1本ごとに放射線の分子切断とDNAの再結合の成功率を比較すれば、ガンマ線は、正常再結合がなされて、DNAが修復される可能性が高い。
一方、アルファ線とベータ線は、体内で半径4/100㎜または10㎜という局所で「高密度な分子切断」をおこなう(矢ヶ崎さんは「ギシギシと分子切断をおこなう」と表現します)ため、二重らせんの同時切断も多くなり、一つのDNAにあたる放射線量も多くなるので、DNAが死滅したり、異常再結合に追い込まれる場合が多くなる。
以上のDNAの分子切断と再結合について模式化したのが、下の図です。
このように、内部被曝の方が、はるかにDNAが変成される確率は高く、人体に大きなダメージを与え、晩発性障害の危険性が大きい、と結論付けられました。
内部被曝についてのメカニズムとおそろしさについての主な記述は、以上の通りです。物理的知識に疎い私にとっては、比較的わかりよい解説で、基本的なことは押さえられたのではないか、と思います。
この本の後半は、放射線被曝とりわけ内部被曝についての日本政府の過小評価を国際的に支えてきた、ICRP 国際放射線防護委員会に対する批判が、展開されます。そして広島と長崎での被爆以降一貫して、内部被曝が小さく見積もられてきた背景に迫っています。
結論を先取りすれば、「ICRPが内部被曝を、無視した体系を作り上げてきたのも、核戦略の重要な一環」だったということです。日本の原発が、アメリカの核戦略のなかで展開してきたことを、ここでもあらためて確認することができます。原子力基本法に、安全保障の文言を入れた狙いも、原発が核戦力とは無縁でありえないことの、体制側の露骨な意思表示です。
「内部被曝」入門編として、このブックレットを読むことをおすすめします。