守田です。(20170623 08:30)
本日23日におおい町でお話します。「新規制基準と避難計画の学習会」というタイトルで、今回も後藤政志さんとご一緒します。
おもに後藤さんが新規制基準についてお話しされ、僕が避難計画について篠山の例も交えてお話しします。直前のお知らせで申し訳ありません。
今回、おおい町を尋ねるにあたって、おおい町公式チャンネル「まいどまいどジャーナル」における大飯原発再稼働に向けた番組を拝聴しました。
企画がおおい町、協力が関西電力(株)大飯発電所。6分強から10分弱の8本の番組によって成り立っています。アドレスを記しておきます。
https://www.youtube.com/playlist?list=PLrDRLVMfsBGi12DrK_tTHBCwJDAdgB4Dz
全編、じっくりと観させていだきました。各回のタイトルをならべておきます。
第1回 原子力規制委員会と新規制基準
第2回 大飯発電所のいま
第3回 自然災害に備える
第4回 事故の進展防止対策
第5回 事故の拡大防止対策
第6回 事故時対応能力の向上
第7回 運転員たちのいま
第8回 大飯発電所からのメッセージ
これを観るにあたって一番、注目していたことがありました。新規制基準のもと、「もし過酷事故が起こっても放射能放出量を福島原発事故の100分の1以下になるような対策を施している」と言われている点です。
新規制基準は、過酷事故が起こりうることを前提にしたものです。いまは「重大事故」と言葉の入れ替えがなされていますが、この後の対応が求められています。
もちろん過酷事故を起こさないための対応のレベルアップも求められていますが、それでも放射能の閉じ込めに失敗することがあると考え、対策を施すとされていることに大きな特徴があるわけです。
今回の「まいどまいどジャーナル」を観るにあたっても、この点がどのように施されているかをまずは虚心坦懐に観てみようと思いました。どう対応することで、放射能の放出量を100分の1以下に抑えるとしているのかをです。
もっとも前提的に僕は「そんなこと、科学的にできるわけがないのではないか」と考えています。なぜってこの事態は格納容器が壊れないように講じたさまざまな装置が突破された事態なのだからです。
もうそうなったらどこがどう壊れるかも予想不能なはず。予想できるなら始めから壊れないような対策もうてるはずです。実際、福島原発事故でも格納容器のどこがどのように、かついかにして壊れたのか、まだ調査すらもできていないのです。
にもかかわらず、閉じ込めようとして閉じ込められなくなった放射能の放出量を100分の1にすることなどできるのでしょうか。そんな芸当のような対応などあるはずがないのです。
この点に僕がこだわる大きな理由は、この「放射能の放出量を福島原発事故の100分の1へ」というあまりにありえない想定が、原子力規制委員会によるこの間の避難計画の見直しに直結しているからです。
規制委員会は当初打ち出した「原子力災害対策指針」の中で、原発から半径5キロ圏内は放射能の放出が起こる前に逃げ、半径30キロ圏内では屋内退避するが、場合によっては避難が必要なので準備が必要だとし、市町村に対策を命じました。
ところが昨年暮れぐらいから「避難の準備は5キロ圏内で良い」「30キロ圏内な屋内退避すべきでむやみに避難させるべきではない」と言い出したのです。
いわく「準備が不十分な避難は、多くの犠牲者を出すなどの極めて深刻な結果につながる」からだそうです。それなら十分な準備をすべきなのに「避難しなくて良い」と結論付けているのはあまりの暴論です。これらは以下で主張されています。
原子力災害対策指針と新規制基準
https://www.nsr.go.jp/data/000172848.pdf
さて、これらを踏まえて、いったい大飯原発において「重大事故がおきても、福島原発事故の放射能放出量の100分の1以下に抑える」対策がどのようになされているのかを観てみました。
どうだったのかというと、驚くべきことに、「もしものときの放射能の放出を100分の1以下にする対策」等、何一つうたわれていませんでした。
もちろん大飯発電所が何の事故対策の上乗せもしていないというのではありません。さまざまに「多重防護」が施されたことがうたわれています。
例えば「第4回 事故の進展防止対策」では、福島原発事故時の電源喪失を踏まえ、重大事故時に原子炉を冷やすための対策がたくさん述べられています。
総じて電源を多重化、多様化しする。送電線を複数回路にしてひとつがダメでも第2、第3の電源が得られるようにしたとされて以下の対策が並べられています。
発電所に備えているバックアップ電源の容量を1400Ahから2400Ahに増量。
外部から電気を受け取るラインも増やして強化した上、新たなバックアップ電源を配備。冷却水を必要としない空冷式非常用発電装置を1号機あたり2台、合計4台配備。
さらに電源車を1号機あたり2台、全体の予備1台、合計5台配備。これらの運転用の燃料のため、地下燃料タンクを設置。連続7日間稼働可能に。
その上、それでも電源が得られなくなることもありうると考え、次の三つの対策を重ねているそうです。海水を取水する手段の多様化、炉心の直接冷却手段の多様化、蒸気発生器による冷却手段の多様化です。
この三点の詳細については省略しますが、これまでみてきてわかることは、重大事故に対して「あれがだめならこれ、これがだめなら次の手を」という場当たり的な対策の重ね合わせが行われている点です。
しかしこれらはもともとのシステムの中に組込まれていないことに大きな弱点があります。とくに原子炉建屋の外においてある電源車などが、がれきの散乱も予想される緊急時に想定どおりに動けるのかなど、幾らでも疑問が湧いてきます。
だからこそ幾重にも対策が重ねられているのでしょうが、どこまでいっても緊急時に本当にうまく作動するのか確信のもてないものばかりなのです。
ただそれとともに重要なのは、これらはあくまでも電源喪失の際に、電源を復活させ、あるいは冷却機能を復活させて、原子炉を冷やすための対策であって、それに失敗し、放射能が飛び出すのを防げなくなった時の対策ではないことです。
ようするに「放射能が飛び出してしまう場合がありうる」といっているのに、肝心のその対策、しかもそのときに「放出量を福島原発事故よりも大幅に抑える」とする対策は、これら8本の中で何一つ説明されていないのです。
これでは原子力規制委員会のうたいだした「5キロ圏内だけ避難」「5キロ圏外は屋内退避。むやみに避難しない」などという指示の何の根拠も説明されたことにはなりません。
この点を踏まえて、今回、おおい町では二つの点を強調してきたいと思います。
一つに再稼働は重大事故が起きることを前提にしたものであまりに危険であるということです。しかもその際に、「放射能放出量を低減する」対策等何も説明されていません。このため再稼働をさせないことこそが安全を確保するもっとも大切な道です。
二つにそれでも再稼働が強行されてしまうことを見据えて、災害対策を重ねる必要があるということです。もちろんおおい町は高浜原発にも近いですからその事故にも備える必要がある。その際の核心は「とっとと逃げる」ことです。
講演ではこの二つ目のことを主に展開しますが、ここではその前提としての「5キロ圏外は避難等するな」という原子力規制委員会の新たな方針に見合った対策が、何も説明されていないことをおさえました。
以下、講演の案内です。
「新規制基準と避難計画の学習会」
午後7時から9時まで
きのこの森 ふるさと交流センター会議室にて
主催は「後藤政志さんのお話を聞く会」