守田です。(20130906 23:00)
福島原発から大量の放射能汚染水漏れが続いています。しかもとんでもない数字が連日出てきています。実は海に毎日400トンもの汚染水が流れ込んでいたとか、原発の近くのトレンチと呼ばれる溝に膨大な量の放射能がたまっていて、それも海に漏れ続けているとかです。
最近はこれにタンクから汚染水が漏れ出して、周辺でものすごい高線量の放射線が計測されているという事態が重なっています。その上、発表された数字がたびたび訂正される。あるいは新たな事実が小出しで繰り返し出てきて、話に修正に次ぐ修正が繰り返される。
これだけ次から次へと汚染水漏れが重なり、数字の書き換えなどが繰り返されると、よほど細かくこの事態を追いかけていないと何が何だか分からなくなってしまいます。そうするとにわかには問題を論じることもできなくなる。事態の全体像をつかむことがますますできなくなってきます。
僕はこうした構造自身が、東電によって仕組まれているように思えてなりません。おそらくは事前に把握していた内容を、続々と発表しているにすぎないのではないか。そのことで一つ一つの重大さが吟味される前に、次へ次へと話しを移してしまっているのではないでしょうか。
そのため、この間起こってきたことをあらためて時系列的にまとめ、事態を見えやすくする作業が必要だと思うのですが、それに先立って今回は、あらかじめ最も重要だと思われる点をピックアップしておきたいと思います。
まず何よりも問題なのは、実は汚染水漏れは、この夏、ないし本年になってあらたまって起こったことではなく、おそらくは2011年3月11日の事故直後に、核燃料がメルトダウンを起こして原子炉圧力容器を溶かしてしまい、格納容器の下部におちておそらくはそこにも穴をあけてしまって以来、一貫して起こっているのだということです。
この点でこの間の東電発表の中でも極めて重要なものは、8月2日に東電が原子力規制委員会に対して行った「護岸から一日当たり約400トンの地下水が海に流出し続けていた可能性がある」という報告です。
東電はこれを2011年5月からとしていますが、5月である根拠は、このころに高濃度汚染水漏れが発見され、ひとたび食い止めたとされてきたからです。つまりそれ以降、汚染水漏れはない建前になってきた。しかしそれが崩れたので、何のことはない、当初から一貫して汚染された地下水が海に入り続けてきたことを認めたということです。
この時の発表の仕方にも非常に重要なポイントがあります。東電は2011年5月以降に流出が続いていると仮定しつつ、漏れだした放射能の量を、放射性トリチウムを使って、20兆から40兆ベクレルと試算したのでした。
トリチウムはベータ線を出す放射能ですが、そのエネルギーが低いことを根拠に、ものすごく緩い基準値が設けられている物質です。1リットルあたり6万ベクレルもの排出が許容されてしまっている。このため福島第一原発の許容値は年間22兆ベクレルとされてきていて、それの2倍ぐらいだから大した問題がないような発表をしたのです。
僕はトリチウムの危険性がこのように非常に小さく見積もられていることは大きな問題だと思っています。トリチウムは水素の仲間で大変扱いにくい。そのため扱えるぎりぎりのラインが「許容値」にされているのではないか。実はここに原発の抜本的な問題の一つがあるのではないかと思ってもいます。
したがってこれはこれで大問題なのですが、しかし他方で、こうした発表の仕方に露骨な具合に見え隠れしているのが、東電がストロンチウムをはじめとする放射性核種の海洋汚染の実態から目をそらそうとしていることです。この点について僕は4月の時点から問題にしてきました。
明日に向けて(654)福島原発汚染水漏れを考察する・・・露顕したのは杜撰さとストロンチウム隠し?
http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/c18da52e4f5ddcfccf7c6cade582d565
この記事でも明らかにしたように、これまでもどう考えても膨大なストロンチウム(おそらくはセシウムの10分の1ぐらい)が海に流出しているのに、それを示す海産物のデータなどがあがってこない。それで東電などによる海産物の調査を見るとストロンチウムの検体がものすごく少量で、しかも汚染の少ないものしか取り上げられていないことに気が付きます
今回も原発の周辺のトレンチと呼ばれる溝(原子炉に冷却水を取り入れるパイプは配線などが走っている溝。地下30メートルぐらいにあるものもある)から、ものすごい高い値のストロンチウムが繰り返し見つかっており、当然いも海への影響が必至なのですが、そのことがそれほどクローズアップされていない。ちゃんとした調査がされていないことこそが浮かびあがっているのですが、それを焦点化させないようにしているのです。
そのために膨大な汚染水が海に入ってしまったことを、2011年5月にまでさかのぼって認めつつ、どちらかと言えば、原発の周りの側溝や、タンクの中に高濃度の汚染物があるように世論誘導し、現に行ってしまった汚染の実態を巧妙に隠している。
これがこの間の一連の事態の露見、というよりは、多くはすでに分かっていたことを矢継ぎ早に明らかにしている中での狙いではないかと思えます。
さらに言えば、濃厚に疑われるのは、東電と自民党のあらかじめの取引です。すべての政党の中で唯一、原発推進を掲げている自民党にとって、参院選挙前にこれらの事態が露見すればあまりに不利であることは目に見えていました。
それだけに東電は、これらの事態を明らかにすることを選挙後にすると自民党にもちかけたのではないか。事実、5月ぐらいから原発の周りの井戸での高濃度汚染水の発見が指摘されながら、東電は海には影響がないと言いはり続けました。そして選挙が過ぎた翌日の7月22日に、やっと海洋汚染を認めたのです。
では東電が自民党に持ち掛けた交換条件は何でしょうか。一つに完全に破たんしている汚染水対策に政府の公金・・・ようするに私たちのお金ですが・・・を投入することを約束させることだったと思います。
さらにもう一つ、極めて重要な点があります。海洋汚染の追及をしないこと、とくに法的な訴追をしないこと、あるいはそれを免れさせることです。どちらも裏付ける証言などはなく、推論の域を出ないのですが、しかし濃厚な可能性と言ってよいのではないか。
僕はこのうち、法的な訴追を免れることを東電はかなり重要視しているように思えます。なぜか。当然にも法的に罰せられることを東電がこれまで繰り返してきたからです。しかしここまで東電は巧妙にそれを逃れてきました。東電を訴追すると自らも都合が悪いので、政府も東電をかばい続けてきた。
事故の当初を見てもこうしたことが見て取れることがたくさんありました。典型的には、高濃度の放射能を格納容器から噴出させたベントの実行です。このとき東電はベント実行をしぶり続けた。なぜでしょうか。危機の回避だとはいえ、毒物を大気中にまき散らすベントをすれば、傷害罪にあたり、訴追は免れないと思ったからでしょう。
これに対して政府の側が執拗にベント実行を迫りました。その結果、一部はベントが行われ、一部ではバルブの固着などでベントが間に合わずに爆発が起こったのですが、このとき、東電は訴追をこそ恐れて行動していたことは明らかです。(注記 その後の吉田所長からの聴取禄の開示により、この時、東電はベントをしぶっていたわけではないこと、とくに現場ではさまざまな機器が壊れる中で技術的になかなかうまくいかなかったこと、それをしぶっていると誤解されたことが明らかにされています。この点を付記しておきます。2014年9月25日)
自民党はおそらくはこうした東電の意をくみつつ、国が対策に全面的に乗り出すことを表明したのだと思いますが、ここにもまた東電の刑事責任をあいまいにしつつ、今なお地上にある汚染物質の方に目を向けさせようとの意図が明白に見えます。そうではない。国は東電を罰し、世界への信義にかけて徹底した海洋の汚染調査をすべきなのです。
こうした事態を前に、では私たちはどうしたら良いのでしょうか。またどうすることが私たちを今、目の前にある危機から少しでも遠ざけることができるのでしょうか。
それは徹底して東電幹部の犯罪を追求することで、現場への本当の責任を東電から国に完全に移していくことです。技術的に完全に息づまるとともに、モラルも完全に喪失している東電にこれ以上、現場をゆだねていること事態が危機だからです。
同時に東電に現場をゆだねることで、真の責任を取ることを回避してきた政府に、国を挙げての対応を迫る必要があります。責任を強制するのです。それを確実なものにするためにも東電を訴追し、犯罪行為は必ず追及されるのだという戒めを作ることが重要です。
これらを通じつつ、現場が事故収束などとは程遠く、今なお巨大な危機が目の前にあることを、全国民・住民に周知していくこと、そのことをもってこそ、現場で働いてくださっている人々への手厚い支援を強化すること、そこにこそ危機を少しでも遠ざける道があるのです。
戒めるべきことは、「また東電がやらかしたか」という具合に、東電をなじって終わってしまうことです。ある意味でそのような世論操作がされています。
しかし東電がいかにダメな会社であるのかを論じているだけでは、何ら問題への正しい対処の道は生まれてきません。何よりもこの事態に対して私たちが主体的になすべきことがそこからは見えてきません。なすべきことは私たちが正義を実現することです。
その点で、市民側の動きとして大ヒットだと僕が思うのは、9月3日に福島原発告訴団のみなさんが、汚染水問題で東電を刑事告発したことです。タイムリーで素晴らしい動きだと思います。
すべての国民・住民の命を守る行動で大感謝です。ぜひこの動きにご注目ください。そして今からでも告訴団に加わってください。以下、告発プレスリリースより、この告発のポイントを抜粋します。
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福島第一原発事故の収束もないまま、福島原発告訴団の告訴・告発は不起訴にするとの報道がまことしやかに流れている。
本件東京電力福島第1原発放射能汚染水海洋放出事件が発生したのは、まさに地検が上記告訴・告発について、真摯に捜査、検討せず、東京電力に何をやっても許されるという慢心を与えたためである。
本件告発では、本件の捜査を福島県民に寄り添い、その痛みを最も近くで理解している福島県警の手に委ねることにした。
https://docs.google.com/file/d/0BzG0nuqlnIlJaHE0X3NCYlluUXc/edit?pli=1
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格調高い文章だと思います。まさにその通りです。
告訴文全文や詳しい報告をぜひ以下からお読みください。
福島原発告訴団
http://dainiji-fukusimagenpatsu-kokusodan.blogspot.jp/2013/09/blog-post.html
http://kokuso-fukusimagenpatu.blogspot.jp/2013/09/blog-post_3.html
むろん、抜本的には東電の訴追だけでも、今ある事態への鮮明化だけでも、それで危機のすべてが去るわけではありません。収束に程遠い現場を地震が襲ったら、いや竜巻が襲ったら、それどころかまたネズミに大事な配線をかじられたら、いつまた極端な危機に陥るかわかりません。
だからこそ繰り返し述べ続けているように、東北・関東を中心に、各級べレルでの原子力災害対策・避難訓練を行っていく必要があります。災害対策は行政が動かなくても市民レベルでも始められます。そのノウハウを講演で伝授できますので、ぜひどこへでも僕を呼んでいただきたいです。災害対策を重ねることこそが、安全性を少しでも拡大することにつながるからです。
以上、汚染水問題を見るときに、一番大事なのは、これは東電が起こした重大犯罪なのだということです。そもそも福島原発事故の総体がそうです。
この大犯罪がきちんと裁かれずして、私たちの前にある危機が去るわけがない。また私たちの人権や安全、幸せが打ち立てられるわけがありません。このことを一番の基礎に据えて、汚染水問題の主体的な把握を進めましょう!
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