「おばさん、久しぶり。元気だったあ?」
玄関の床にモップをかけていた管理人は、胡散臭そうな表情でその声の主に顔を上げた。
「あらあ、牧子ちゃんじゃないの。ホント、久しぶりねえ。
あんたこそ、元気だった? 今日はまた、おめかしなんかしちゃって。
ひょっとして、おデートなの?」
腰をトントンと叩きながら、管理人は腰を伸ばした。
「うん、従弟に会いに来たのよ。
このアパートに住んでるなんて言うもんだから、おばさんに会いたくなってえ。
どお、腰の具合は? これ、後で食べてね」
牧子はにこやかに微笑みながら、菓子折りを差し出した。
「あらあら、有り難うねえ。どう、お茶でも」
モップを壁に立てかけながら、管理人は牧子を誘った。
「ありがとう。でも、従弟が来たようだわ」
と、牧子は息せき切って階段を駆け下りてきた彼を指さした。
「えゝっ、御手洗さんが。まあまあ、世間様は広いようで狭いんだね。
いいじゃないのさ、少しぐらいは。旦つくも居ないことだし、さあ」
と、管理人はなおも牧子を誘った。
「そうねえ、じゃあ三十分ぐらいお邪魔しょうかしら。ねえ、武士、いいでしょ」
牧子は、彼の返事を待つことなく、管理人の部屋に入り込んだ。
彼は一瞬戸惑いの表情を見せたが、管理人の手招きに従うことにした。
”イヤだ!”と拗ねる程に、牧子との間柄が親密になっているわけではない。
それに、彼の知らない牧子のことが、管理人の口から聞けるかもしれないと思った。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます