初夜のことを、五平が思いだしている。
ひんやりとした空気のただようなか、五平と真理恵が対峙している。
あからさまな政略結婚であることに、五平は忸怩たるおもいをもっている。
真理恵への申し訳なさが、五平のこころに充満している。
わかにたいする未練の情をすてきれない五平だ。
武蔵の思いは痛いほどわかる。
おのれが武蔵の立場にたったならば、やはりおなじように説得を試みたろうとおもっている。
しかも10歳近い年の差と、五平の容貌だ。
三友銀行という大看板をせおうう父親をもつ令嬢でもある。
再婚とはいえ、望めばもっと将来有望な青年にとつげるはずだ。
〝こんな風采のあがらぬ、女衒あがりの男なんぞに〟と思うきもちがつよい。
せめてもこののち、しっかりと愛情をそそぎなに不自由のない生活はもちろん、真理恵の夢――それがなにかは知らぬ五平だけれども――を叶えてやりたいと思っている。
それとも子を為せぬ体とはきいているが、万が一に奇跡がおきて子を授かるしれない。
そんな思いもかかえていた。
しかし真理恵は、
〝女としてのわたしは○んだ! これからは女性企業人として生きていく〟と、決めていた。
そのためには意に沿わぬことではあるけれども、おのれの体を与えることにより、男をおのれの支配下におく、と決めていた。
まさしく小夜子とは対極にあるけれども、めざすものは同じものだった。
社員数が70名を超えるに至って、事務系のへやが手狭となった。
幸いにもビルの3階スペースが空くことになり、すぐさまそこを使うことになった。
3階を社長・専務の部屋と、応接室に経営戦略室で利用することになった。
「いっそ社屋を建てるなり、中古のビルを買いませんか」と、佐多にすすめられたが、
「時期尚早ですし、分不相応なことはしたくないもので」と断った。
本音をいえば、これ以上の借入金をふやすことで銀行の介入を嫌ったのだ。
2階の社長・専務とあった部屋のかべをぶち抜き、会計課を改称して総務課とした。
総務課課長として徳子がつくことになり、真理恵は新設された経営戦略課にはいった。
肩書きこそなにもないが、実質的にはNo.2の座についた。
嘱託である小夜子には、便宜的に専務室が与えられたが、その部屋で衣服をととのえるだけで、迎えにくる取引先の車に乗りこむことが常だった。
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