庭に飛び出した小次郎、手にした長剣でもって、朱美の丹精込めた椿の枝を、秘剣燕返しで斬り落とした。
試合前日において、これほどに高ぶる小次郎を知らぬ朱美だった。
何やら危うさを感じて落ち着かぬ朱美だった。
当代随一と称される尾形光琳による、小次郎の秘剣燕返しの技を描いた襖絵の前で泣き崩れる朱美だった。
時折前髪を揺らす風を、小次郎は心地よく受け止めていた。
いら立っていた気持ちも、少しずつ穏やかさを取り戻した。
ギラギラと輝く太陽の下、海は凪いでいる。
時折立つ白波に、「この島をあの絵師に描いてもらうも一興よ。あの岩礁を背にしても良しか」と、呟いた。
小次郎には、未だ見えぬ小舟が、ムサシとの試合が、遠い異国での話のように感じられる。
これから始まる死闘が、まるで他人事のように感じられた。
焦点の合わぬ小次郎の目に、死の床に伏せった恩師鐘巻自齋が浮かび上がった。
師である自齋を、大勢の門弟の前で、完膚なきまでに倒した小次郎だった。
それが因で床に伏した自齋、ひと月を経た後に
「お前は、お前を作り上げたものによって滅ぼされるのだ」
と、言葉を遺して息絶えた。
前髪が目に入り我に返った小次郎の口から
「ふっ、笑止な。こののちわたしは、天上天下一の剣神になるのだ」
と、誰に言うでもなくこぼれた。
試合前日において、これほどに高ぶる小次郎を知らぬ朱美だった。
何やら危うさを感じて落ち着かぬ朱美だった。
当代随一と称される尾形光琳による、小次郎の秘剣燕返しの技を描いた襖絵の前で泣き崩れる朱美だった。
時折前髪を揺らす風を、小次郎は心地よく受け止めていた。
いら立っていた気持ちも、少しずつ穏やかさを取り戻した。
ギラギラと輝く太陽の下、海は凪いでいる。
時折立つ白波に、「この島をあの絵師に描いてもらうも一興よ。あの岩礁を背にしても良しか」と、呟いた。
小次郎には、未だ見えぬ小舟が、ムサシとの試合が、遠い異国での話のように感じられる。
これから始まる死闘が、まるで他人事のように感じられた。
焦点の合わぬ小次郎の目に、死の床に伏せった恩師鐘巻自齋が浮かび上がった。
師である自齋を、大勢の門弟の前で、完膚なきまでに倒した小次郎だった。
それが因で床に伏した自齋、ひと月を経た後に
「お前は、お前を作り上げたものによって滅ぼされるのだ」
と、言葉を遺して息絶えた。
前髪が目に入り我に返った小次郎の口から
「ふっ、笑止な。こののちわたしは、天上天下一の剣神になるのだ」
と、誰に言うでもなくこぼれた。
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