昭和の恋物語り

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長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空・第一部~(十四) 麗子からの手紙・五

2015-07-08 08:50:03 | 小説
その後、彼は頻繁に求めるようになってきました。
でも、麗子は拒否しています。そんなにふしだらな女ではありませんことよ、麗子は。

勿論、無理強いをするような彼ではございませんし。
彼を愛していますわ、勿論。

でも、彼には立派な学者になって頂きたいの。
研究をおろかにさせることは、できません。

何せ、日本の将来を左右するような、立派な研究なのですから。
超伝導とかいう技術の開発に、携わっているのですから。
 
ごめんなさい、真実を吐露いたしますわ。

麗子は、疲れました。
彼に合わせることが、苦痛になってきましたの。
彼にとって都合のいい女を演じているのが、疲れました。

彼の話題は、その研究が中心です。興味のない態度を取ると、すごく怒り出すのです。
行き詰まっている時など、大変です。

慰めの言葉をかけようとしても、
「何もわからないくせに!」とか、「世界に遅れる訳にはいかんのだ!」
と、怒鳴られることもあります。

彼が笑う時に微笑み返し、眉をひそめる時には悲しい顔をします。
そうしなければ、不機嫌になるのです。

でも時として、それが彼を怒らせることもあります。
全てが、彼中心なのです。
麗子を、一人の人間として見てはくれないのです。

今では、彼と私の繋がりが希薄なものに感じられます。
唯一の絆は、肉体関係だけなのです。
会う度に、彼は求めてきます。

当初こそ拒否しましたが、とうとう暴力で…。
恥ずべき事ですが、ずるずると続いているのです。
麗子には、苦痛以外の何物でもありません。

こんな麗子を、貴方は軽蔑されます?
いえ、貴方はきっと許してくださるわね。
哀しげな目で、麗子を慰めてくださることでしょう。

優しい貴方ですもの、ね。
嬉しいのよ、麗子は。
でも、その優しさが辛くもあるのです。

武士さん、どうぞご自分を偽らないで。
どうぞ、ご自分に正直な貴方でいてください。 
                  かしこ


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