昭和の恋物語り

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長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空・第一部~(十四) 違和感を感じる彼

2015-07-09 08:47:00 | 小説
読み終えた後、彼は言い知れぬ疲労感に襲われた。
麗子の真意が、皆目分からぬ彼だった。
慰めを求められているのか、裏を返して婚約者の自慢をしているのか、判然としない。

彼に対する評については、確かに当を得ているように思えた。
彼自身、自己嫌悪に陥る時もある。
唯、あからさまに指摘されると、反発を感じないわけではなかった。

“芳しくない噂、とは何だ? 何が噂になっているんだ?”
どう考えても、わからない。
“まさか、由香里ちゃんのことか? だけど、それがどうして芳しくないんだ? 
待てよ、井上課長だって? ユミさんのことか? 
うーん…だとしても、何で今頃手紙なんか。
「自分を偽るな」とは、どういうことだ”

麗子からの手紙が届いて三日後、大学の正門前に見覚えのある車があった。
その車の中から、微かな笑みを湛えた麗子が現れた。
そして射すくめるような目で、大勢の学生の中から彼を呼んだ。
羨望の眼差しを背中に感じながら、彼は吸い込まれるように車に乗り込んだ。

久しぶりの麗子は、以前にも増して妖艶さを漂わせていた。
しかしその中に、どこかしら危うさを感じさせてもいた。
彼を見下ろすような傲慢さは相変わらずだったが、虚勢を感じさせてもいた。
以前と変わらぬ饒舌な麗子は、とりとめもない話を一人しゃべり続けた。
何か違和感を感じる彼だったが、確信を持てぬまま、時折相づちを打った。


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