昭和の恋物語り

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長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空~ (九十五) 、柔和な表情を見せるようになった

2014-08-11 09:13:52 | 小説
(五)

「じゃ、じゃこれから、お母さんって呼んでもいい?」
「もちろんですよ、小夜子さん。こちらからお願いしたいぐらいです。
勝利なんか、ほんとに無口で。それに帰りも遅いですし、淋しくてね」

傍から見れば、仲睦まじい嫁姑に見えた二人だった。
互いの心がしっかりと結びついて、あれ程に剣呑な表情を見せていた小夜子が、柔和な表情を見せるようになった。

「竹田さんに付き添っていただいてから、ほんと大人しくなったわね」
「そうなの、びっくりよ。助かるわ、ほんとに」

「竹田さんの息子さんってさ、ちょっと良い男じゃない? それに優しそうだしさ」
「旦那さんの会社に勤めてるんでしょ? 将来の幹部社員だって」

「そうなの? それじゃあたし、アタックしよっかな?」
「ムリ、ムリ。あんた如きじゃ、釣り合いがとれないわよ。それにもう居るんじゃないの、恋人は」
と、看護婦の間でかまびすしい。

近くに来ましたので…と、竹田が顔が見せた。

今朝突然に、武蔵に「小夜子の具合を見てきてくれ」と言われた。
この二日ほど接待が続いた武蔵で、小夜子に顔を見せていない。

暗に武蔵の忙しさを告げてこいということだ。
ほっといたのではなく、日中は仕事に追われ、といって夜中に酔っ払いが顔を出すわけにもいかぬということだ。
その辺りの説明をしてこいということなのだ。

皆がうらやましがる中、しかめた顔を見せつつ病院へと向かった。
車に乗り込んだ竹田が、小躍りして喜ぶ姿が、配達から戻った者に見つかっていた。
帰社した竹田が、皆に小突かれたのは言うまでもない。


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