昭和の恋物語り

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長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空~ (九十五) ばーばが抱っこしてあげましょうね

2014-08-10 12:03:28 | 小説
(四)

「小夜子さん、落ち着いて。お母さんの怒った声がね、赤ちゃんを不安にさせているのよ。
大丈夫、大丈夫だから。小夜子さんが落ち着けば、赤ちゃんも泣き止みますよ。
さあ、ばーばが抱っこしてあげましょうね。はいはい、だいじょーぶですよ。
いい子ですねえ、武士ちゃんは。はいはい、お外を見ましょうか。
ほーら、青いお空ですよ。白い雲さんが、ぽかりぽかりと浮かんでますねえ。
はいはい、見えますかねえ」

無論、まだ見える筈もない。
しかしその穏やかな語り口と暖かい懐に抱かれたことで、泣き叫んでいた赤子がすやすやと眠りに入っていった。

「ね、小夜子さん。赤ちゃんって、お母さんの気持ちが分かるんですよ。
たーくさんの愛情をね、いっぱいいっぱい上げるとね、こんなに気持ち良さように眠るんですよ。
赤ちゃんが泣くときはね、お腹が空いたときとおしめが濡れたときぐらいですからね。
こうして優しくあやしてあげると、安心して眠るんですよ」

竹田の母が、小夜子には後光が射して見えた。菩薩さまに見えた。

「お母さん…」
消え入るような小声で、小夜子が言う。

「えっ!?」
不意の小夜子の言葉に、竹田の母は驚いた。
うっすらと涙を浮かべる小夜子など、初めて見る姿だった。

「ごめんなさい、変なこと言って。迷惑ですよね」

「とんでもない、小夜子さん。嬉しいですよ、あたしは。
勝子に教えられなかったことをね、おっぱいの飲ませ方やらおしめの変え方やら。
小夜子さんに教えられて、あたしは今、猛烈に感激しているんですよ。
小夜子さんが迷惑でなかったら、母親としての勤めをね、果たさせて貰いたいぐらいです」


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