長編恋愛小説 ～ふたまわり・第二部～（二十四）の十e一

「申し訳ございません、社長様。お待たせいたしました。」
驚いたことに、女将自身が迎えに現れた。
車から降りた女将は、にこやかな表情で深々とお辞儀をした。
「いや、これは・・。女将直々の出迎えとは、恐れ入ります。」
先ほどまでの不機嫌もどこへやら、武蔵は相好を崩した。
「女将が運転されるのですか？」
女性が車を走らせることなど、思いも寄らぬ武蔵は感嘆の声を上げた。
「お怖いですか？大丈夫でございますよ、乗り慣れている車ですので。」
「いや、そうではなくて・・」
「よろしいのですよ、社長様。女だてらに・・と、良く言われますので。」
ゆっくりとしたスピードで走らせながら、女将は
「実のところ、お客様のお出迎えは初めてなのでございます。
社長様のお声を聞きましたら、居ても立ってもいられなくなりまして・・」と、甘ったるい声をかけた。
「それは、光栄ですな。女将となら、心中となっても本望です。」
「まぁ、ご冗談を・・」