昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空・第二部~(八十)  お礼の投げキッスをしなくちゃ

2014-02-22 11:05:09 | 小説
(七)

その翌日。

あいにくの曇り空の下、晴れ晴れとした表情を見せる勝子と、誇らしげに目を輝かせる小夜子。
そしてそんな二人を眩しげに見上げる、しかし不安げな目を投げかける母親が居た。

「小夜子奥さま。ほんとに宜しいのですか?
社長さまのご了解を得ていないというのに、お買い物をさせていただくなんて」

「大丈夫ですって。武蔵には後で話しますから。あたしのやることに文句を言う武蔵じゃありませんから」

「さあ、行きましょ。早く百貨店に行きましょ」

小夜子の手を引く勝子、お祭りに出かける幼子のようにはしゃいでいる。

「いいですか。少しでも具合が悪くなったら、すぐに戻ってください。
決して、無理はしないように。退院は許可できませんが、一時外出ということにしましょう」

「先生。具合が悪くなるなんてこと、ありませんよ。
こんな素敵な一日なのよ、なる筈がないわ。
神様は、そんな意地悪じゃありませんて」

勝子の明るく言い放つ様を見ては、医師も苦笑いをするだけだ。

「そうよ、そうよ。そんな意地悪な神様だったら、私たちがひじ鉄砲しましょ。
そうだわ、勝子さん。神様にお礼の投げキッスをしなくちゃ。
そうすれば意地悪されないわよ」


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